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主力の影

 夜空の静けさは、長く続かなかった。


 敵は次に、“質”を上げてきた。

 これまでのようなドローンの飽和ではない。


 空が静かすぎた。


 その静けさの奥に――

 何かがいる。


 レーダーの端に、点が現れる。


 小さい。


 だが、速い。


 サヤの視線がモニターを走る。


 高度表示。

 速度。

 侵入角。


 ドローンとは違う。


「……高速機」


 オペレーターが呟く。

 点は少ない。


 二。


 いや――


 三。


 それだけ。


 だが、その動きは異様だった。

 速度が違う。

 ドローンの比ではない。


 一直線ではない。

 滑るように、空を裂く。


 フォックスが静かに言った。


「主力だ」


 サヤは頷く。


 これは飽和ではない。

 穿つ戦い。

 空域を破るための刃。


 サヤが言う。


「高度上げます」


 対空車両には限界がある。

 だが管制は届く。


 射撃の問題ではない。

 空域の管理。

 それが今の役割だ。


 ゴリアテAIの補助ラインが変わる。


 弾道予測。

 侵入予測。

 未来線。


 サヤのモニターに、わずかに早い未来が描かれる。


 その瞬間。

 外でエンジン音が響いた。

 クイーンのワーカーが動く。


 暗闇の中を走る。


 そして。

 夜空へ向けて――

 ダダダダダダッ!


 20ミリ機関砲。

 短いバースト。


 命中を狙った射撃ではない。

 挑発。


 空域の下から、牙を見せる。

 フォックスが呟く。


「……やるな」


 その瞬間。

 レーダーの一点が動いた。


 高速降下。

 多分、敵のエースパイロットだ。


 空から獲物を狙う猛禽類の様に、暗闇の中を滑りながら降りてくる。


 低空。

 地表すれすれ。

 そのまま着地。


 次の瞬間――


 爆発的な加速。


 砂を蹴り上げながら地面を滑る、高速スライド。

 クイーンのワーカーを追っているように見える。


 だが、クイーンは迷わない。

 焦ってもいない。


 というより――

 冷静そのものだ。


 ワーカーが急旋回する。

 建物の影へ滑り込み、自機の投影面積をほぼゼロにする。

 小型の機体ならではの機動。


 その瞬間。

 フォックスが言った。


「サヤ」


 サヤはすでに理解している。


「はい」


 サヤはもう迷っていない。

 撃つ場所は、空ではない。


 トリガー。

 発射。

 105ミリ。


 ただし、対空用の時限信管ではない。

 着弾信管。

 もちろん、徹甲弾ではない。

 榴弾だ。


 狙うのは敵機ではない。


 その進路。

 敵の前方。


 爆散。

 閃光。


 夜が一瞬だけ裂ける。

 衝撃波が地面を叩いた。


 敵WFが鋭く方向を変える。


 追撃はしない。

 そのまま距離を取る。


 そして。

 ブースト。

 再び空へ。

 フォックスが鼻で笑った。


「お互い分かってるな」


 そして小さく言う。


「間違ってもクイーン機に当てるなよ」


 鼻の下を人差し指の腹で2回擦って。


「……後で怖いぞ」


 サヤは思わず言う。


「わかってますよ!」


 フォックスが肩をすくめる。


「そのくらい冷静なら、問題ないな」


 サヤの胸の緊張が、少しだけほどける。

 やっぱり。


 フォックス教官は凄い。


 空でも地上でも。

 全部見えている。


 だが。


 戦いは終わっていなかった。

 レーダーの点が遠ざかる。


 オペレーターが言う。


「敵機、離脱!」


 その瞬間だった。


 警告音。

 短く鋭い。


 サヤのモニターに、新しい点が現れる。


 小さい。

 だが――


 異様に低い。


「……ミサイル!」


 オペレーターが叫ぶ。


 サヤの背筋が凍る。

 高度が低すぎる。


 地表すれすれ。

 地形に沿うような巡航。

 監視レーダーの死角。

 管制レーダーの更新の隙。

 典型的なレーダー回避。


 フォックスが舌打ちする。


「置き土産か」


 サヤは照準を動かす。

 だがレーダーでは追いづらい。

 高度が低すぎる。


 その時。


 フォックスが言った。


「右、三時」


 サヤの視線が外へ向く。


 夜の地表。

 低空。

 影が滑る。


 速い。

 だが――

 見える。


 地面すれすれを、一直線。


「捉えました!」


 トリガー。

 発射。

 爆散。


 夜空の低い位置で火球が広がる。

 破片が地面へ散る。

 オペレーターが叫ぶ。


「目標消失!迎撃成功!」


 サヤは深く息を吐く。

 フォックスが鼻で笑った。


「厄介なの積んでやがるな」


 サヤはモニターを見る。


 敵エースは遠ざかっている。

 だが。


 一瞬、防衛能力を測るような旋回を見せる……。

 そして敵機は離れていった。


 サヤの胸に、妙な感覚が残る。

 まるで。


 こちらの反応を試したような。

 そのまま敵機は離れていく。


 この厄災の主は、夜空の奥深くへと消えて行った。


***


 静寂が戻る。


 空域は守られた。

 基地被害なし。


 オペレーターが状況を確認する。


「敵機、完全離脱」


 サヤは息を吐く。


 その時。

 初めて気付いた。


 手が震えている。

 小さく。

 わずかに。


 フォックスはそれを見ない。

 見ないふりをする。


 ただ空を見ている。

 夜空。

 まだ暗い。

 遠く。


 クイーンのワーカーが戻ってくる。

 低いエンジン音。

 砂煙。


 何事もなかったように。


 フォックスがぽつりと言う。


「怖いか」


 サヤは答える。


「はい」


 フォックスは頷く。


「それでいい」


 それだけ。


 サヤは呼吸を整える。

 怖さは消えない。


 だが。

 それでいい。

 怖さが残る限り。

 判断は鈍らない。


 フォックスが空を見上げたまま言う。


「怖さは残しておけ」


 サヤは静かに頷く。


 空はまだ終わらない。

 取り続けるべき場所。

 この空域。


 まだ、戦いは終わらない。


 ……この空を制するまでは。

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