再装填
夜間補給は、静かだった。
戦闘の後なのに。
爆発もない。
砲声もない。
警報もない。
それでも――
戦闘より重い。
対空車両の横に、補給車両が滑り込む。
ライトは最低限。
必要な場所だけ照らす。
「ラック開けろ」
整備員の声。
金属音が短く響く。
弾薬ケースが次々と運び込まれる。
箱は大きい。
重い。
だが兵士たちは無言で運ぶ。
その顔には、隠し切れない疲労が浮かんで居る。
それでも手は止まらない。
弾薬ラックが開く。
空だった場所に、次々と弾が並んでいく。
金属が触れる乾いた音。
カチン。
カチン。
それだけの音が、夜に響く。
サヤは対空車両の席に座ったまま、その音を聞いていた。
そしてその目は、数時間前には多数の敵を表示していたモニター。
そこに敵影を示す点はなく、今は静かだ。
そう、この空域に今脅威となるものは何もない。
それでも画面は消さない。
サヤの手元には戦闘ログが表示されていた。
発射履歴。
識別ログ。
侵入予測。
そして――
撃たなかった目標。
サヤは指でログをスクロールする。
撃った回数。
十三。
撃たなかった回数。
それより多い。
フォックスの言葉が浮かぶ。
“全部に反応したら持たない”
サヤは小さく息を吐く。
「……本当に」
呟く。
「撃たない方が多い」
その時、車両の入り口付近から声がした。
「それが管制だ」
フォックスだった。
対空車両の外。
タラップにもたれている。
腕を組んだまま。
目は閉じている。
だが眠ってはいない。
呼吸が浅い。
意識は外にある。
「休まないんですか」
サヤが聞く。
フォックスは目を閉じたまま答える。
「休んでる」
「……それで?」
「頭だけな」
サヤはモニターを見る。
「何を考えてるんですか」
フォックスは短く言う。
「次の空だ」
沈黙。
整備班の声が遠くで響く。
「冷却ライン確認!」
「流量正常!」
「センサー再同期!」
機体の下で整備員が動く。
冷却循環ラインが点検される。
ポンプが回る。
液体の流れる低い音。
過熱した砲身を守る生命線だ。
サヤはモニターの別画面を見る。
ゴリアテAI。
補助システムが更新されている。
通信ログが流れる。
「アップデート適用」
「弾道予測補正+2.1%」
サヤが呟く。
「ほんの少しですね」
フォックスが答える。
「戦場じゃ……その少しが命を繋ぐ」
その時だった。
足音が近づく。
静かな足取り。
クイーンだった。
夜の照明の中で、ゆっくり歩く。
基地を巡回している。
誰かに命令するわけでもない。
ただ見る。
空。
配置。
整備状況。
そして。
作業用ワーカーの前で足を止める。
クイーンは機体の装甲に手を当てる。
冷えた金属。
その横にミナミがいた。
「どう?」
クイーンが聞く。
ミナミは即答する。
「持ちます」
「本当に?」
「持たせます」
短い会話。
だがそれで十分だった。
クイーンは頷く。
「いいわ」
そしてワーカーを軽く叩く。
「まだ働いてもらうわよ」
ミナミが笑う。
「本人に聞いたら、断りそうですけどね」
クイーンも少し笑う。
「機械は文句言わない……壊れるだけ」
ミナミは肩をすくめる。
「壊れさせません」
その声には迷いがなかった。
整備班は機体を守る。
それが役割だ。
クイーンは基地を見渡す。
夜。
静か。
だが。
静かすぎる。
「敵は様子見ね」
誰に言うでもなく呟く。
フォックスが答える。
「嵐の前ってやつだ」
クイーンは空を見る。
「そうね」
夜空は黒い。
星も少ない。
だが。
何もないわけではない。
遠い空域。
見えない場所。
そこに敵がいる。
準備している。
時間を測っている。
その時。
整備班の声が響いた。
「再装填、完了!」
弾薬ラックが閉じる。
ロック音。
カチン。
対空車両のモニター表示が変わる。
残弾表示が変化していく。
赤。
黄色。
そして。
緑。
フル装填。
サヤはゆっくり息を吸う。
深呼吸。
一度。
それだけ。
フォックスが言う。
「どうだ」
「……大丈夫です」
「本当か?」
「はい」
サヤはモニターを見る。
空はまだ静かだ。
だが。
油断はない。
フォックスが静かに言う。
「怖さ……」
フォックスは、何かを思い出すように目を伏せる。
「忘れるなよ」
サヤは答える。
「忘れません」
それは即答だった。
フォックスは小さく頷く。
「それでいい」
夜空は黒い。
だが。
その黒の向こう。
まだ見えない場所。
次の群れがいる。
敵は必ず来る。
今は制空優位。
だがそれは――
今だけだ。
取り続けなければ意味がない。
サヤはトリガーに指を置く。
撃つ準備。
そして。
撃たない準備。
その両方を整える。
フォックスが空を見上げる。
クイーンも同じ空を見る。
整備班は弾薬箱を片付ける。
基地は静かに呼吸する。
次の波が来るまで。
そのわずかな時間を使って。
戦う準備を、もう一度整えていた。




