弾切れ
第三波は、静かに来た。
派手な接近ではない。
レーダーの端に、点がいくつか増える。
その数は――
第二波より、少ない。
だが。
サヤはすぐに理解した。
「……いやらしい」
侵入角が違う。
真正面ではない。
基地を囲むような弧。
そして低空と高空を混ぜている。
防御線を“割る”ための軌道だった。
モニターの点が、じわじわと増える。
サヤのカーソルがそれを追う。
撃てる。
だが――
撃てば、終わる。
弾数表示が赤へ近づいていた。
残弾バーが短い。
短すぎる。
「残弾、三割切りました」
通信席のオペレーターの声がわずかに震える。
サヤは答えない。
モニターを見続ける。
撃てる目標は多い。
多すぎる。
カーソルが何度も交差する。
撃てば落ちる。
だが。
撃てば――
尽きる。
ゴリアテAIが補助表示を更新する。
赤いライン。
侵入予測。
最短到達時間。
モニターの三つの目標が赤く変わる。
「優先目標、三機」
オペレーターが読み上げる。
「侵入まで十五秒!」
フォックスが低く言った。
「焦るな」
サヤは小さく息を吐く。
十五秒。
長いようで短い。
フォックスが続ける。
「最後の弾は、最後に撃つな」
サヤは頷く。
「はい」
カーソルが滑る。
第一目標。
撃てば確実。
だが――
撃たない。
少し前。
進路の前方へ。
トリガー。
発射。
砲弾が空を裂く。
爆散。
ドローンの進路が乱れる。
「回避!」
オペレーターが叫ぶ。
「三機、分散!」
フォックスが小さく笑う。
「いい」
サヤはすぐに二発目。
空域を横切る。
爆散。
空が裂ける。
ドローン群が散る。
それだけでいい。
撃墜ではない。
空域の分断。
だが。
モニターの別の端。
低空。
二つの点。
「低空侵入!」
オペレーターが叫ぶ。
「距離、近い!」
サヤの指がトリガーに触れる。
撃つ。
発射。
命中。
ドローンが空中で爆散する。
「一機撃破!」
だが。
もう一機。
低い。
速い。
サヤが撃つ。
砲弾が通過。
かすめる。
外れた。
「抜けます!」
オペレーターの声が裏返る。
サヤがもう一度トリガーを引こうとした瞬間――
モニターの表示が赤く点滅した。
残弾。
ゼロ。
「弾切れ!」
その言葉が車内に落ちる。
一瞬。
空気が凍った。
サヤの指が止まる。
撃てない。
完全に。
撃てない。
フォックスが低く言う。
「下がるな」
その瞬間。
外から乾いた連射音が響いた。
タタタタタタッ。
クイーンのワーカーだった。
作業用機体。
だが20ミリは本物だ。
低空へ飛び出す。
ワーカーの脚が地面を蹴る。
そして。
砲身が横へ振られる。
横薙ぎ。
連射。
弾幕が低空を裂く。
突破していたドローンの軌道が乱れる。
AI制御が再計算を始める。
だが間に合わない。
機体が揺れる。
地面すれすれ。
そして。
爆散。
土煙が舞い上がる。
「突破機、破壊!」
オペレーターが叫ぶ。
サヤは画面を見る。
だが。
ワーカーの動きが荒い。
反動補正が追いついていない。
姿勢が揺れる。
フォックスが呟く。
「無理させてるな」
サヤも分かる。
ワーカーは戦闘機体ではない。
20ミリの反動は本来想定外だ。
モニターが再び変わる。
ゴリアテAI。
補助ラインが切り替わる。
「地上迎撃モード移行」
オペレーターが読み上げる。
「残存弾、再配分」
基地周辺の砲座。
対空機銃。
予備弾。
AIが全体の弾薬を再計算する。
赤いカーソルが一つ点灯。
最短侵入。
最後の一機。
近い。
そして。
地上砲座が火を吹く。
短い連射。
ドローンが空中で砕ける。
破片が夜空に散る。
沈黙。
しばらくして。
オペレーターが言った。
「……第三波、離脱」
空域から点が消える。
残ったドローンは距離を取る。
撤退。
様子見。
第三波は終わった。
だが。
車内の空気はまだ硬い。
サヤは静かに息を吐く。
自分の手を見る。
汗がにじんでいる。
遠くからエンジン音が聞こえる。
補給車両。
弾薬トラック。
整備班が走ってくる。
「人員不足の基地だ、俺達も手伝いしなきゃな」
フォックスとサヤは車両から出る。
整備班の数人が弾薬箱を抱えて、怒鳴り声を上げる。
「急げ!」
「装填ライン開けろ!」
対空車両の外で金属音が響く。
装填。
補給。
戦場の呼吸が再び動き出す。
サヤは小さく言った。
「フォックス教官……」
「ん?」
「……撃たない判断」
サヤはフォックスの目を真っ直ぐに見る。
「正しかったですか」
フォックスは空を見る。
遠い雲。
そこにまだ動く影。
そして短く答える。
「今はな」
それだけ。
サヤは頷く。
完全な正解はない。
ただ。
今は、生きている。
フォックスが続ける。
「だがな」
整備班が弾薬を装填する音が響く。
「次も同じとは限らない」
サヤは空を見上げる。
遠くの空はまだ静かだ。
だが。
静かすぎる。
フォックスが低く言う。
「次が来る前に整えろ」
補給班が弾薬箱を押し込む。
装填音。
ロック音。
準備が戻る。
だが。
サヤは分かっていた。
これは休憩ではない。
ただの間。
空は。
戦場は。
決して休ませてはくれない。




