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前線基地

 パイロットの声が、全員の眠気を吹っ飛ばす。


 「お休みの時間は終わりだ。前線基地はすぐそこだ」


 おまけに大音量の警告音を二秒鳴らす。


 「これが一番目が覚める」


 「さすがに、この音は心臓に悪いな」


 フォックスがつぶやく。

 重ねてサヤが訪ねた。


 「何の音ですか?あの不快な音」


 フォックスは眉間に皺をよせ、苦々しい顔で答える。


 「ロックオンされた時の警告音さ。よく覚えておきな」


 サヤは、少しきょとんとした顔でつぶやく。


 「WFのものとは、違いますね」


 フォックスは輸送機の壁を数回ノックして。


 「それぞれ、機体や年代で違うものさ。

そして、そのすべてに共通しているのは、不快な音だってことだな」


 「あんたら、あんまり無駄話していると、舌噛むぜ」


 輸送機パイロットの軽口が飛ぶ。


 しかし、クイーンが手配したパイロットだけはあって、

 輸送機はほとんど衝撃もなく地面に降りた。


 垂直離着陸機というのは、便利なものだ。

 だが、降りた場所がどこかで、その便利さの意味は変わる。


「……着いたな」


 フォックスが、低く呟いた。


 着いた場所は前線基地。

 そう呼ばれてはいるが、地図上ではまだ“最前線”ではない。


 だが――

 ここが戦場であることを否定する材料は、どこにもなかった。


 格納庫代わりの建屋は簡素で、

 壁の継ぎ目には急造の補強材が見える。

 照明は最低限。

 必要なところだけが、必要な分だけ点いている。


 発電機はいつも全力で回り続けている。

 それでも電力が限られている。

 それだけで、ここがどんな場所かは分かった。


 サヤは、輸送機のランプを降りた瞬間、

 胸の奥が、すっと冷えるのを感じた。


 音が、違う。


 整備ハンガーとは違う。

 闘技場とも違う。


 遠くで、何かが鳴っている。

 警報なのか、発電機なのか、あるいは別の何かか。

 判別できない音が、常に背景にある。


「……ここが」


 サヤは、思わず小さく息を吐いた。


「戦場の、隣……」


 基地内には、男性兵が多かった。

 自然と声が低く、動きが早い。


 だが、その中に混じって女性の姿もある。

 オペレーター。

 補給担当。

 そして、整備員。

 もちろん戦闘員も。


 性別の差は、ここではあまり意味を持たない。

 その役割がすべてだ。


 そしてそれが、空気として伝わってくる。


「落ち着かないだろ」


 フォックスが、サヤの横に立った。


「……はい」


「これで普通だ」


 フォックスは、それ以上は言わなかった。


 基地の奥に、陸戦用のWFが並んでいる。

 脚部は太く、安定性重視。

 装甲も厚い。


 だが――


 サヤでも、すぐに気づいた。


「……対空、少ないですね」


 フォックスは、苦い顔で頷く。


「ああ」


 目を細めて、基地全体を見渡す。


「足りてねぇ」


 対空砲。

 対空ミサイル。

 レーダー補助装置。


 あるにはある。

 だが、十分とは言えない。


 そして――

 フォックスは、自分のWFに視線を向けた。


 陸戦仕様。

 正面から殴り合うための機体。


「空を飛んでくる相手には……役に立ちづらいな」


 独り言のように、呟く。


 ここでは、

 低空を飛んでくるドローンならまだしも、

 敵の航空戦力を落とす力が足りない。


 自分の得意な戦い方が、

 通用しない場所に来てしまった。


 サヤは、その言葉の意味を理解して、

 何も言えなかった。


 ここは訓練場ではない。

 だが、まだ全面衝突でもない。


 ――戦場の、すぐ隣。


 逃げる場所でもなく、

 覚悟を決める場所でもある。


 サヤは、白いWFの方を一度だけ振り返る。


 まだ、乗らない。

 だが、もう――

 「知らない場所」ではなかった。


 前線基地は、

 静かに、次の選択を待っていた。

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