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二足歩行型兵器――《WAR FRAME(ウォーフレーム)》 Q&F  作者: てきてき@tekiteki


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輸送機という名の前線

 輸送機の中に並ぶ面々。


 フォックス。

 整備班の一部。

 サヤ。

 ミナミ。


 それぞれが、輸送機に乗り込んだ。


 ハッチが閉じた瞬間、

 空気が変わる。


 機内は広くはない。

 だが、窮屈でもない。


 簡易シートが、人数分きちんと並んでいる。


 ――席は、ある。


 問題は、別のところにあった。


「聞いてくれ」


 操縦席から、パイロットの声が飛ぶ。


「この三つのシートは、俺たちの仮眠用だ」


 指で示されたのは、操縦席のすぐ後ろ。

 三席だけ、わずかに作りが違う。


「交代で飛んできてる」

「誰かが倒れたら、全員まとめて落ちる」


 それで全員が理解した。


 そこは使えない。

 使ってはいけない。


「残りの席は自由に使っていい」

「固定は必ず頼む」


 一瞬、安堵が広がる。


 ――席は、足りている。


 だが。


 フォックスが、何気なく腰を下ろした瞬間。


 壁際。

 貨物ラックの近く。

 揺れが比較的少ない位置。


 整備班の視線が、そちらに集まった。


 誰かが一歩、動く。

 別の誰かも、同時に。


 結果――

 フォックスの横の席だけが、妙に詰まった。


「……あれ?」


 サヤが、小さく首を傾げる。


「なんで、そこだけ……?」


 ミナミは、すぐ察した。


 理由は単純だ。


 揺れが少ない。

 経験者が隣にいる。

 何かあった時、一番状況が分かる。


 そして何より――

 生き残ってきた人間の隣。


 整備班の一人が、遠慮がちに言った。


「……あの、フォックスさん」

「ここ、いいですか?」


 ほぼ同時に、別の声。


「私も……」


 フォックスは、状況を一瞬で理解した。


「……お前ら」


 低い声。


「どこに行くか、分かってるか?」


 空気が、一気に張り詰める。


「下手するとだな」


 淡々と続ける。


「地面にビニールシート敷いて」

「その上で整備させられるんだぞ」


 誰も笑わない。


「俺の横に座ったからって」

「安全になるわけじゃねぇ」


 一拍。


「むしろ、一番仕事はきつい」


 沈黙。


 それでも。


 一人が、苦笑しながら言った。


「……それでも、ここがいいです」


 フォックスは、鼻で笑った。


「好きにしろ」


 ミナミは、そのやり取りを見て、小さく息を吐いた。


「……人って、正直ね」


 操縦席から、パイロットが茶々を入れる。


「なんか、いい感じになってるな」

「羨ましいことで」


 その一言で、別の現実が落ちてきた。


「……あれ?」


 整備員の一人が、真顔になる。


「私……」

「最後にお風呂入ったの、いつだっけ」


「え、ちょっと待って」

「私も……」


 一気にざわつく。


 全員、女性だった。


 整備用オイルと汗。

 前線前夜の匂い。


 ミナミは、無言で自分の袖を見る。

 そして――ほんの一瞬、顔色が変わった。


「……考えない」

「今は考えない」


 完全に、自分に言い聞かせている。


 フォックスは、何も言わなかった。

 触れない方がいい話題もある。


 一方で。


 サヤは、いつも通りだった。


 シートに腰を下ろし、

 ハーネスを締め、

 深く息を吸って、吐く。


 誰かが、思わず聞く。


「……サヤさん、平気?」


 サヤは、きょとんとしてから答えた。


「はい?」

「あ、大丈夫です」


 本気で気にしていなかった。


 それが強がりではないことは、

 その声で分かる。


 ミナミは、小さく息を吐く。


「……もう、前線仕様ね」


 フォックスは、ぼそっと言った。


「だから言ったろ」

「楽な場所じゃないって」


 パイロットが前を向いたまま言う。


「到着まで、寝られるやつから寝ろ」

「特に、整備の人たち」


 それから、しばらく。


 一時間も経つ頃には、

 輸送機の中は、ほとんど寝息に包まれていた。


 簡易シートの軋む音も消え、

 規則正しい呼吸だけが残る。


 旅客機ではない。

 外が見える窓は、限られている。


 それでも。


 サヤは、そこから目を離せなかった。


 雲と月が作る、白と黒のコントラスト。

 地上では決して見られない風景。


 上空ゆえ、気温は低い。

 エンジンの熱は循環しているが、局所的だ。


 壁際は冷たい。

 床からも、冷気が伝わる。


 サヤは、膝を抱えるようにして座り、

 その冷たさを受け止めていた。


 寒い。


 だが、不快ではない。


 これは――

 現実の温度だ。


 眠る整備班。

 動かないフォックス。


 眠っているのか、

 目を閉じているだけなのかは分からない。


 サヤは、再び窓を見る。


 ――綺麗だ。


 その言葉が浮かぶと同時に、

 この景色が「帰り道」のものではない可能性も理解していた。


 それでも。


 今は、ここにいる。


 同じ機体に乗り、

 同じ方向へ運ばれ、

 同じ時間を共有している。


 輸送機は、音もなく夜空を進む。


 これはまだ戦場じゃない。


 だが――

 もう、避難所でもない。


 サヤは、目を閉じずにいた。


 この景色を。

 この温度を。

 この「行く途中」の時間を。


 覚えておこうと思った。


 戦場に着いてしまえば、

 きっと振り返る余裕はない。


 だから今は――

 ただ、見ている。


 輸送機は、雲を割り、

 月明かりの中を進んでいた。


 サヤは、ずっと窓から目を離せないでいた。

 胸の奥に、

微かなざわめきがあるのを感じていた。


 期待なのか。

 恐れなのか。


 ――それとも。


 どちらにも、名前を付けられない何か。


 それ以上考えるのをやめた。


 答えを急ぐ必要はないと、

 今は、そう思えた。


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