表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二足歩行型兵器――《WAR FRAME(ウォーフレーム)》 Q&F  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/66

エキシビジョン

 数ヶ月が経っていた。


 季節が変わった、というほどではない。

 だが、ハンガーの空気は明らかに違っていた。


 サヤは、もう「教えられて動く」段階ではなかった。


 起動。

 姿勢制御。

 推進、停止、旋回。


 一通りの動きは、考えずとも体が覚えている。

 トラブルが起きても、声を荒げることはない。

 まず状況を切り分け、次に選択肢を並べる。


 整備班の誰かが、そんな彼女を見て言った。


「……もう、普通に乗れてますよね」


 フォックスは、それを聞いて、少しだけ複雑な顔をした。


 嬉しくないわけじゃない。

 むしろ、誇らしい。


 だが同時に――

 手を出す理由が、減っていく。


「で」


 フォックスは、整備区画の隅で腕を組んだまま言った。


「俺は、いつになったら乗れる?」


 ミナミが、タブレットから目を離さず答える。


「オーバーホール中ですので」


「それは知ってる」


「動作部品はほぼ、効果対象です」


「……ほぼ?」


「ほぼ全部です」


 フォックスは、天井を仰いだ。


「このままじゃ体が鈍るな」


 少し間を置いて、整備班の一人が言いにくそうに続ける。


「あの……あれでよければ」


 指さされた先にあったのは、

 WFより一回り小さい機体だった。


 作業ワーカー。

 WFの元になった、産業用の作業機。


 装甲は薄く、

 出力も低い。

 武装前提でもない。


 フォックスは、一目見て言った。


「いいよ。あれで」


 即答だった。


 そして、思い出したように付け足す。


「……なんか、持てる武器ある?」


 整備班が顔を見合わせる。


「一応、

 非殺傷用のスタンロッドと、

 20mmくらいなら持てるかと」


「よし」


 フォックスは、にやりと笑った。


「丁度いい」


 その言葉の意味を、

 誰もすぐには理解しなかった。


「……模擬戦、やろう」


 フォックスが、軽く言う。


「え?」


「え、本気ですか?」


 サヤが、思わず聞き返した。


「まっ、本気じゃないさ、少なくとも俺はな」


 サヤを指さして。


「エキシビジョンってことで」


 サヤは、一瞬だけ考えた。


 そして――

 笑った。


「……面白そうですね」


 フォックスは、その笑顔を見て、

 少しだけ安心した。


 この子は、もう怯えない。


 相談はした。


 条件は一つ。


 怪我しないこと。

 サヤさんがね。


 ――ああ、はいはい。


 フォックスは、作業ワーカーに乗り込んだ。


 小さい。

 視界が低い。

 だが、動きは素直だ。


「じゃ、始めるぞ」


 サヤ機が、前に出る。


 速い。

 洗練されている。


 逃げ回っているのは、フォックスだった。


 作業ワーカーは軽い。

 柱の間を縫い、床を低く使う。


 サヤ機が追う。


 正しい判断だ。

 逃げる相手を放置しない。


 だが――


 フォックスは、わざと大きく回り、

 急停止した。


 小さな機体が、柱の影に貼りつく。


 次の瞬間、

 サヤ機が一歩、前に出た。


「……っ!」


 フォックスは、

 サヤ機の側面に入り込んでいた。


「……ここから撃たれるな」


 独り言のように呟く。


「このままだと」


 引き金には、指をかけない。

 サヤの声が、通信に入る。


「……まさか」


「最小回転半径が……」


 計器を確認する。


「私の機体より、そっちの方が小さい」


「出力が低い分、無理な補正が入らない」


 少し悔しそうに続けた。


「ロケットが使えたら、あの位置には入らせなかったです」


 フォックスは、思わず笑った。


「はは。もう、そこまで考えてるか」


 作業ワーカーの操縦桿に、軽く手を置く。


「このサイズさ、

偵察機って呼ぶには、

ちょっと気が利いてるくらいの、

大きさと装備だな」


 ミナミが即答する。


「はい。

現在の設計案だと、

この一・三倍程度です」


フォックスは「言った通りだろう?」

と言う顔をサヤに向ける


「出力は控えめですが、

 旋回性能と隠密性は重視しています」


「……厄介だよな」


 フォックスは、素直にそう言った。


 サヤは、少し考えてから聞く。


「教官」


「これが敵だったら……

 どうしますか?」


 フォックスは、少しだけ考えた。


「逃げる」


「……え?」


「正確には」


 肩をすくめる。


「先ずは、動きを読んで撃ち落とす。

で、どうしても避けられなかったら――」


 短く言った。


「入って叩く」


 模擬戦は、そこで終わった。

 勝敗はない。

 だが、答えは残った。


 サヤは、操縦席で息を整えながら思う。

 怖くはなかった。


 けれど――

 知らなかった世界を、確かに見た。


 フォックスは、作業ワーカーから降りて、

 小さく息を吐いた。


 追いかけられる側の感覚。

 そして、追い詰められる前に消える距離。


 教えるだけでは、

 もう足りない。


 だが、奪う気もない。


 このエキシビジョンは、

 ただの遊びじゃなかった。


 立場が、確実に変わり始めている。


 その事実だけが、

 二人の間に、静かに残っていた。



***



ーー作戦本部


 モニターには、

 ミナミの報告書が表示されていた。


 数値。

 時系列ログ。

 補足として添えられた、簡潔な所感。


 ――過不足なし。

 感情も、主観も、削ぎ落とされている。


 クイーンは、黙ったままそれを追った。


 再生。

 停止。

 巻き戻し。


 作業ワーカーの軌跡。

 白い機体の反応。

 そして、あの一瞬。


 死角に入ったログ。


 数フレームだけ、

 視界から完全に消えている。


「……ふふ」


 小さく、息を漏らす。


 誰に向けたでもない声。


「やっぱり、そうなるわよね」


 視線を、ログのタイムスタンプに落とす。


 判断が早い。

 修正が少ない。

 無理をしていない。


 サヤの操作ログを、もう一度なぞる。


「考えてる」


 ぽつりと。


「ちゃんと、自分で」


 次に、フォックスのログ。


 作業ワーカー。

 非戦闘機。

 それでも――

 位置取りだけは、戦場のそれ。


「……相変わらず、ずるいわ」


 呆れたように言ってから、

 ほんの少しだけ、声が柔らぐ。


「でも」


 コマ送りしながら。


「手放し始めてる」


 報告書を閉じる。


 椅子にもたれ、

 天井を見上げる。


「思ったより、早いわね」


 それは、期待でも不満でもない。


 確認だった。


 クイーンは、静かに結論を口にする。


「あたしも……」


 少し間を置いて。


「参加しないと、

 置いていかれるわ」


 笑みはない。

 焦りもない。


 ただ、

 次の段階に進む覚悟だけがあった。


 モニターは暗転する。


 ログは、もう十分だった。


お話を聞くとしましょうか。



***



通信は、短かった。


 エキシビジョンのログ。

 模擬戦。

 作業ワーカー使用。


 すべてを聞き終えたあと、

 クイーンは、少しだけ黙った。


「……なるほど」


 それだけ。

 フォックスは、思わず言う。


「怒らねぇのか?」


「怒る理由がないわ」


 淡々とした通る声。


「サヤさんは、

 考えて動いている」


資料を指でさしながら。


「あなたは、

 立場を変えて対応している」


ログの内容を見比べながら。


「どちらも、

 予定よりちょっと早いだけ」


 フォックスは、眉をひそめた。


「予定?」


「ええ」


 クイーンは、少しだけ笑う。


「本来なら、

 あの段階に行くまで

 もう半年はかかると思っていたわ」


「……それで?」


 フォックスはサヤの顔を一目見て、

また顔をモニターに戻す。


クイーンは理由を並べる。


「エキシビジョンとしては、とても良い」

「勝ち負けじゃない」

「“距離”が分かっている」


 フォックスは、嫌な予感がしてきた。


「……で?何が言いたいんだ?」


 クイーンは、間髪入れずに言った。


「あたしも、参加したい」


 一瞬、通信が沈黙する。


「……は?」


「あのエキシビジョン」


 さらっと繰り返す。


「あなたとサヤさん、

 それから――」


 少し、間を置いて。


「あたし」


 フォックスは、即座に否定する。


「だめだ」


「理由は?」


「危ねぇ」


「そうね」


 クイーンは、あっさり肯定した。


「だからよ」


 フォックスは、頭を抱えた。


「……それ、

 エキシビジョンじゃなくなるぞ」


「ええ」


 声に、楽しげな色が混じる。


「でも、見たいの」


「サヤさんが、

 どこまで“自分の判断”で動けるのか」


「あなたが、

 どこまで“割り込まずに”いられるのか」


 フォックスは、ため息をつく。


「……性格悪いな」


「今さら?」


 即答だった。


 そして、最後に。


「安心しなさい」


「本気ではやらないわ」


 フォックスは顎に手を置き、

苦笑いする。


「あなたたちが壊れない範囲で、ね」


フォックスの顔が引き攣る。


「いずれにしろ、

限られたルールの中での競技は、

時に最高の専門技術を育てる舞台になる」


フォックスは口角を上げて頷く。


「では、その時に」


 通信が切れる。


 フォックスは、天井を見上げた。


「こりゃぁ……ろくな事にならねぇ」


 だが。


 心のどこかで、

 否定しきれない自分がいることにも気づいていた。


 サヤは、

 すでに“次の段階”に入っている。


 その試験官として、

これ以上の相手はいない。

憧れのクイーン様と訓練出来る。


だがそれ以上に燃えて居るものを、

自分の中に感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ