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二足歩行型兵器――《WAR FRAME(ウォーフレーム)》 Q&F  作者: てきてき@tekiteki


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「プレゼント到着」

 落ち着かない三日間


 フォックスにとって、その三日間は――

 どうにも落ち着かない日々だった。


 理由は、分かっている。

 分かっているからこそ、厄介だった。


 サヤは、相変わらず健気だった。


 飲み物の補充。

 食事時間の確認。

 スケジュールの再整理。


 いわゆる「御用聞き」だ。

 だが、やりすぎない。

 踏み込みすぎない。


 必要な時に、必要な分だけ、そこにいる。


 ――やりにくい。


 かといって、拒む理由もない。


 クイーンからは、

 「WFを見せること」だけは許可が出ていた。


 乗せない。

 シートに座らせない。

 だが、内部を見るのは可。


 フォックスは、それを口実にした。


「サヤ……WFの中入るか?」


「はい?」


「コックピットだ。中、見せてやる」


 サヤの目が、わずかに見開かれる。


「よろしいんですか?」


「“見習い”なんだろ?

こんなもんでよかったら見ときなよ」


 あえて、そう言った。


「ただし、見るだけだ。座るなよ」


「はい!」


 WFのコックピットに入った瞬間、

 サヤは小さく息を呑んだ。


 丸型の計器。

 旧式のメーター。

 針の微妙な揺れ。


 彼女は指一本触れず、

 目だけで配置を追っていく。


「……フォックス教官」


「なんだ」


「いろいろ質問しても?」


「いいぞ」


「えっと、この電圧が下がった時の、対処は?」


 フォックスは、少し考えてから答えた。


「……なんとなく、だな」


「なんとなく?」


「俺なら」


 座席右のスロットルレバー近くにある

『出っ張り』を指さして。


「ジャイロ制御を、

 三ポイントほど動かして様子を見る」


「三ポイント……」


 サヤはすぐに理解しようとする。


「ということは――

 レギュレータの機能低下を見越して、

 姿勢制御反応を先に強化している、ということですね」


「……そうかもな」


 説明できていないのは分かっている。

 だが、サヤは納得した顔をしていた。


「やはり……」


「なにがだ」


「フォックス教官は、

数字を見て操縦していない」


「それ……褒めてんのか?」


「はい」


 即答だった。


「私は、フォックス教官のやり方が好きです」


 フォックスは、返事ができなかった。



 サヤは、ジャイロ周りの説明が終わると、

 一度だけ目を閉じた。


 ほんの数秒。


 それから、何も見ずに、空中へ指を伸ばす。


「クイーン様は……この計器が、こちら」


 指が、正確に止まる。


「その隣が油圧系。一段下に、姿勢補助」


 フォックスは、最初は半信半疑だった。


 だが――


「主系統が四つ。

 予備が二つ。

 でも、これは左ではなく、右です」


 指が、迷いなく動く。


「ジャイロ補正は、この位置。

 視線を動かさずに確認できる距離」


「……待て」


 思わず声が出た。


「今言った計器の数、全部でいくつだ?」


「二十です」


 即答。


「主要計器、二十個。

 クイーン様の機体です」


 沈黙が落ちる。


「……全部、合ってる」


 フォックスがそう言うと、

 サヤはようやく目を開けた。


「教官の配置と、

 考え方が同じだからです」


「……配置まで、か」


「はい」


 サヤは、少しだけ微笑んだ。


「だから、覚えやすかったんです」


「……見習いの域、超えてるぞ」


「いえ」


 サヤは首を振る。


「クイーン様のそばにいる人の考え方を、

 理解したいだけです」


 フォックスは、理解した。


 クイーンが三日待たせた理由を。




「なぁ、サヤ」


 フォックスが、ふと口を開いた。


「クイーンのロケット超速スライド、どう思う?」


 サヤは、即答しなかった。


 計器を思い浮かべるように、

 少し視線を落とす。


「……信じがたいことですが」


 静かに、しかしはっきりと言う。


「こなされています」


 表現が面白いな。


「続けろ」


「圧倒的なスピード。

 電子制御の照準とはいえ」


 一つずつ、言葉を積み上げる。


「物理法則。

 慣性モーメント。

 推力配分。

 姿勢制御の遅延補正」


「すべてが合理的に組み合っています」


「……そして?」


「一つでもプロセスが破綻したら……」


 そこで、言葉を切る。


「……したら、どうなる?」


 サヤは、目を逸らさなかった。


「破滅です」


 短く、断定的な言葉。


 フォックスは、苦笑した。


「だよな」


 あれは技じゃない。

 覚悟そのものだ。



 その時だった。


 ハンガーの外で、

 低い駆動音が鳴った。


 いつもの搬入音とは違う。

 重く、慎重で、妙に丁寧。


「……来たか」


 フォックスが呟く。


 通信が入る。


『フォックス』


 クイーンの声だった。


『プレゼント、届いたわ』


「誰のだ?」


 一瞬の間。


『サヤさんの』


「……なるほど」


 ハンガーのシャッターが開く。


 そこにあったのは――

 サヤの体格に合わせて設計された、専用シート。


 逃げ場のない、完成品。


 フォックスはサヤを見る。


「中は、見たんだろう?」


 サヤは、少しだけ言葉に詰まる。


「……掃除をしただけなので。

 詳しくは、まだ」


「十分だ」


 フォックスは言った。


「見る気のない奴は、

 掃除なんて理由、思いつかない」


「……はい」


「だから、次は――

 見るんじゃなくて、感じる番だ」


 サヤは、一歩前に出た。


「乗ります」


 迷いはなかった。


「教官。

 見習いは……今日までですよね?」


 フォックスは、苦笑した。


「……ああ」


 見習いは、崩れた。


 それは、

 始まりの音だった。


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