決着
――重たい。
敵WFを視界に捉えた瞬間、まずそう思った。
火力型。
重火器を積み上げ、装甲を盛り、破壊力だけを正義にした機体。
確かに、一撃は大きい。
だが、その代償ははっきりしている。
遅い。
移動が遅いだけじゃない。
踏み込み、止まり、旋回、砲身の追従。
すべての動作に、わずかな“溜め”がある。
「……積みすぎだな」
気温は高い。
熱帯植物が育つ環境だ。
三十度を下回らない。
湿度も下がらない。
――つまり、冷えない。
冷えないということは、熱が溜まる。
溜まる熱は、必ずどこかを壊す。
火器だけじゃない。
制御系。
基板。
モーター。
内部で起きるオーバーヒートは、見えない分だけ厄介だ。
普通なら、ここで制御する。
暴発を恐れて、撃たない判断をする。
だが――
「次の休憩時間なんて、行かせやしないさ」
フォックスは、あえて距離を詰めた。
警告音。
ミサイル。
迎撃。
20ミリ、短連射。
空中で炸裂した破片が、雨のように降る。
地面に叩きつけられ、砂と泥が跳ね上がる。
視界が、茶色に潰れる。
地面は、複合合金だ。
多重炭素繊維を含んだ新素材。
その上に、演出用なのか、分厚く砂と泥が敷かれている。
爆風が何度も叩きつけられれば、
いずれ下の素材が顔を出す。
――地下もある。
フォックスは、その構造を頭の中でなぞった。
「……ずいぶん立派なモニタまで用意してくれる」
観客向け。
見せ物用。
つまりここは、壊れてもいい。
敵WFが、撃つ。
大口径砲。
低い衝撃音。
次の瞬間、地面がめくれる。
砂。
泥。
合金片。
土煙と砂煙が、闘技場を満たす。
「効率が、悪い」
一撃は凄まじい。
だが、熱が逃げない。
排熱が滞る。
グラフが、はっきりと跳ね上がる。
フォックスは撃たない。
撃たせる。
ただし、こちらも反撃して――動かす。
足元を削る。
姿勢を崩させる。
モーターに負荷をかける。
各部の負担は、こちらの方が軽い。
――WF、どうだ。
淡々と返る応答。
許容範囲。
「……引き金の呼吸は、掴んだ」
連射できない。
間隔が延びている。
熱制御が追いついていない。
次の砲撃。
狙いが、僅かに逸れた。
砲弾はフォックスを外れ、
客席側へ――
爆音。
闘技場の外周が、内側から吹き飛ぶ。
観客席の一角が崩れ、
人影が宙を舞う。
歓声と悲鳴が、混ざる。
遅れて、派手な爆発エフェクトが重ねられる。
まるで、最初から演出だったかのように。
「……制御不能、か」
敵WFは、もう自分が何を撃っているのか分かっていない。
だから、終わらせる。
照準を絞る。
「105ミリ。徹甲」
狙いは装甲じゃない。
冷却系統。
引き金。
低く、重い衝撃。
派手な爆発エフェクトが、表示される。
観客向けの、分かりやすい終わり。
だが実際は――
敵WFは、沈んでいく。
地下へ。
熱を抱えたまま。
砂煙が、ゆっくりと落ち着く。
観客は、熱狂していた。
客席から落ちる演出まで、再現されている。
「……まぁ」
フォックスは、息を吐く。
「戦い方は、受け入れられたらしい」
通信が入る。
『面接完了』
続いて表示された言葉。
『1VS1 合格』
――本当に、面接か?
爆音が収まって、
砂煙がゆっくり落ちていくのを眺めながら、
ふと、そんな考えが浮かんだ。
「合格。
1VS1」
言葉だけ聞けば、
どこにでもある評価だ。
だが、さっきまで俺がやっていたのは、
質問に答えることでも、
長所を語ることでもない。
相手を壊さずに、使えなくする方法の実演だ。
熱を溜めさせ、
判断を鈍らせ、
制御を失わせ、
最後に、冷却だけを潰す。
――正解を選んだんじゃない。
選別されただけだ。
あの客席。
吹き飛んだ外壁。
落ちていく観客。
あれも全部、
「想定内」だったんだろう。
じゃあ、何を見ていた?
俺の腕前か。
判断力か。
WFの扱いか。
……違う。
どこで止めるかだ。
撃てた。
殺せた。
派手に終わらせることもできた。
それでも、
止めた。
相手が壊れる“前”に。
制御が完全に飛ぶ“前”に。
――そこを、見られていた。
面接じゃない。
適合試験だ。
それも、
「優秀かどうか」じゃない。
危険な環境に放り込んだ時、
どこまで人間でいられるか。
合格した理由が、
それだとしたら――
フォックスは、小さく息を吐いた。
嫌な組織だな。
どこのどいつだよ、ったく。
――で。
次は、どうしたらいい?
なにと戦えばいいんだ。
ライオンか?
……まぁ、いい。
クイーンとやるよりは、マシだ。
正直、興味はある。
だが、勝てる気はしない。
女性に言うのもなんだが――
胸を借りたい、というやつだ。
変な意味じゃない。
あの雪原で助けられた日から、
天使であることに変わりはないさ。




