戦闘再開
けたたましい警告音が、闘技場に響き渡る。
空気が変わる。
ああ、わかる。
――ここは、再び戦場になる。
視界の端で、赤いカウンターが数字を刻んでいる。
残り 43.652 秒。
減っていく。
無慈悲に。
均等に。
いつも思うが、
こういう下三桁の意味ってなんだろうな。
通り過ぎる一瞬を、
感知出来ない様な短時間を表示する意味。
まぁ良いか。
何故なら、かっこいいからな。
補給ドローンが、慌ただしく撤退していく。
ついさっきまで、物資を落とし、通路を塞ぎ、
戦場の一部として存在していた連中だ。
無機質の塊みたいなドローン達も、
さすがに巻き添えにされるのは御免らしい。
判断としては、正しい。
俺も、WFに乗り込む準備を始める。
この瞬間――
俺は、割と好きなんだ。
なんて言うんだろうな。
スイッチ、でいいのか。
戦闘服に身を包む。
素材が肌に吸い付く感触。
胸元のジッパーを、ゆっくりと引き上げる。
音が、妙に大きく聞こえた。
ヘルメットを装着する。
HUDは、まだ最低限の表示だけ。
情報が少ない。
だが、その分、頭が静かになる。
WFは、緩やかに振動している。
眠ってはいない。
最低限のスタンバイ。
……いや。
もう、メインスイッチは入っている。
低い唸り。
床から伝わる微振動。
こいつは、起きてる。
戦闘スーツ、装着完了。
密閉感、良好。
関節部の追従、問題なし。
呼吸音が、やけに近い。
……コックピットに身体を沈める。
各保安用のベルトのラッチを締める。
ハッチが閉じる音は、
耳じゃなく、骨で聞いた。
完全に外界からは、切り離された。
――計器、点灯。
起動チェック。
自己診断。
ほとんどは自動化されている。
システムが勝手に走り、
勝手に「問題なし」を並べていく。
便利だ。
だが――
それを鵜呑みにして死んだ奴も、
山ほど見てきた。
インジケータは、全部緑に光っている。
でもな。
システムが「OK」って言ってるかどうかは、
関係ない。
それは、判断材料の一つに過ぎない。
最終結論を出すのは――
俺だ。
デジタルチェック、進行中。
マニュアル系統。
物理リンク確認。
電子妨害。
EMSを食らった時の補助回線――
切り替え準備、完了。
ラグ、許容範囲。
油圧。
第一系、安定。
第二系、応答良好。
第三系……温度、やや高め。
……だが、癖の範囲だ。
電圧、フラット。
駆動系、位相ズレなし。
全部の値が、
ちゃんと「正常な振る舞い」をしているか。
無理してないか。
嘘をついてないか。
限界を、誤魔化してないか。
数字は正直だ。
だが、
正直すぎて「今は問題ない」と平然と告げる。
その“今”が、
次の一秒を含んでいないことも、
俺は知っている。
だから見る。
立ち上がり。
戻り。
負荷が掛かった時の、ほんの僅かな揺れ。
――機械にも、顔色がある。
火器管制。
砲身角、追従問題なし。
反動制御、正常。
ミサイル、シーカー初期化。
ノイズ、なし。
よし。
カウンターが、赤く点滅する。
残り 5 秒。
……無駄な確認は、ここまでだ。
ここから先は、
システムじゃない。
――俺が、やる。
照明が切り替わる。
敵WFが、姿を現した。
……違うな。
一目でわかる。
兵装が、変わっている。
「やれやれ、主催者も人が悪い」
なんだあれ。
馬鹿でかい砲が、一本。
無遠慮に、機体に追加されていやがる。
あんなもんを積めば、
重量配分も、発射後の慣性も、全部狂う。
大きくて重い砲、ロマンはあるな。
だがその分、何かを捨てているはずだ。
近接か。
機動力か。
防御か。
もしくは――
こっちが撃ってこない事をいい事に、
一発を狙うつもりか。
初撃で、全部を決めるつもりか?
ありがちな考えだ。
どっちでもいい。
俺の装備は、今までと変わらない。
派手さはない。
奇を衒ってもいない。
だが、
この構成で、今まで生き残ってきた。
敵機が、ゆっくりと動き出す。
……重いな。
動き始めが、ほんの一拍遅い。
数字に出ない差。
だが、確実な差だ。
そんな付け焼き刃に、
お前のWFは――
応えてくれる程、飼い慣らせているのか?
巨大砲を信用している動き。
つまり、砲以外を信用していない。
相棒を、
ただの道具として扱っている。
……それじゃあ、無理だ。
WFはな。
命令すれば動く機械じゃない。
癖を知って、
限界を覚えて、
「今日はここまでだ」って所を、
互いに理解して――
初めて、応えてくれる。
俺は、装備を変えなかった。
変えなくていい。
こいつは、もう――
俺の呼吸を、知っている。
敵機の主砲が、
こちらを向く。
姿勢制御。
反動補正。
照準の微調整。
遅い。
……来るな。
いや。
――来い。
撃つなら、
その一瞬を――
俺が、一番嫌がる形で迎えてやる。
WFの足裏が、
闘技場の泥を噛んだ。
カウンターの数字が1.000を切った。
けたたましいサイレンが鳴る。
戦闘開始。
闘技場?
剣闘士?
バカ言っちゃいけない。
ここは戦場だ。
今度も――
最後まで、生き残る。
また、彼女と最高一杯を味わうためにな。




