火力 VS 汎用
警報は鳴りっぱなし。
HUDは真っ赤。
情報を全部見てる暇なんて、あるわけがない。
それでも――
視界の中央に立つ、あのWFだけは嫌でも目に入る。
「それにしても……」
操縦桿を軽く倒しながら、呟く。
「ご自慢の大砲様は、
まだこっちを見てはくれないようだな」
砂煙の向こう。
重装備WFは、ほとんどその場から動いていない。
質量だけが、そこに“居座って”いる。
「足が速いわけじゃないが……」
機体を横に流しながら、距離を測る。
「ガラパゴスの大亀よりは速いんだぜ。
……たぶんな」
正面に出ても、砲身は動かない。
「……俺が撃たないのを、
わかってるって事か?」
答え合わせみたいに、
敵WFの脚部が、ゆっくりと沈んだ。
装甲が噛み合う、低い音。
重心が落ちる。
背面ユニットが、静かに展開する。
「へぇ……」
思わず、鼻で笑う。
「立ち上がる時は、
ずいぶん静かなんだな」
――次の瞬間。
世界が、ひっくり返った。
ドン、と腹の底に響く衝撃。
砂が跳ね上がり、空気が震える。
ミサイルハッチ、全開。
「……やっぱり手を隠してやがった」
空が、埋まる。
数なんて、数える意味もない。
「あんなにミサイル、
積めるもんなのかよ」
爆音。
爆風。
闘技場全体が揺れる。
観客席の一角が、
衝撃で丸ごと吹き飛んだ。
木片と土嚢が舞い、
悲鳴が上がる――が、
誰も止めない。
誰も気にしない。
歓声らしいものは、確かに聞こえる。
だが、何を言っているのかまでは、わからない。
ただ――
盛り上がっている「ワーワー」と、
ブーイング。
それだけは、はっきり察しがついた。
「……なるほどな」
操縦桿を引き、
機体を横に滑らせる。
「こいつはまた、
派手に観客を沸かせてくれる」
爆風を背中で受け、
砂煙が視界を白く塗り潰す。
「さすがだ。
エンターテインメントを、
よく理解していやがる」
警報音が重なる。
HUDは、さらに赤く染まる。
迎撃。
迎撃。
全部は無理だ。
「こっちはなんとか、
省エネで頑張ってるってのに」
バルカンを短く叩く。
迎撃は、最小限。
通す弾も、ある。
「火力の大盤振る舞いだこと」
爆風に乗せて、
姿勢をわずかにずらす。
足は止めない。
前にも出ない。
逃げ切る気もない。
「おいおい……」
ミサイルが地面を抉る。
砂柱が、何本も立つ。
「これ全部、本番用か?」
装甲を掠める衝撃。
機体が軋む。
「リハーサル分、
残してあるんだろうな?」
軽口が、止まらない。
砂煙の向こうで、
敵WFは淡々と撃ち続けている。
動かない。
踏み出さない。
ただ、撃つ。
「……なるほどな」
ミサイルの軌道。
発射の間隔。
「誰でも一緒なんだな」
操縦桿を細かく刻む。
「狙いをつけて、
トリガーを引く」
爆音の隙間。
一定のリズム。
「そのリズム……
なんとなく、魂に刻まれてるもんなんだな」
迎撃を、さらに減らす。
被弾ギリギリ。
観客席が、ざわつき始める。
「おい、危なくないか?」
「逃げ場、なくねぇ?」
敵WFが、さらに火力を上げる。
撃つ。
撃つ。
撃ち続ける。
観客席の一部が、
また吹き飛ぶ。
それでも、誰も止めない。
「撃てぇぇ!!」
……ああ。
「派手なのが、
好きなんだよな」
――その時。
次の爆音が、来ない。
……来ない。
砂煙が、ゆっくりと落ちる。
耳鳴りだけが残る。
「……?」
警報は鳴っている。
HUDも、真っ赤なまま。
なのに――
敵WFは、撃たない。
砲身が、ぴたりと静止している。
「……おい?」
闘技場全体に、
間の抜けた電子音が流れた。
《――ただいまより、休憩時間に入ります》
妙に明るい、女声。
《火器管制を一時停止します。
次のラウンドまで、しばらくお待ちください》
……は?
HUDの表示が、唐突に切り替わる。
【STATUS:PAUSE】
【FIRE CONTROL:OFF】
その横に――
湯気の立つティーカップのアイコン。
「………………」
思考が、一瞬止まった。
「……なんだそりゃ」
敵WFの足元で、
地面が低く唸る。
闘技場の床が割れ、
競り上がってくる。
小型ドローン。
弾薬搬送機。
整然とした動きで、
敵WFの背面ハッチが開く。
ミサイルポッドが外され、
新品が、当たり前のように装着されていく。
「……補給?」
あっちは、完全に休憩中だ。
「……マジかよ」
そう思った、その瞬間。
《――フォックス機にも、補給を開始します》
HUDに表示。
「……あ?」
俺の足元でも、
地面が割れた。
競り上がる小型ドローン。
弾薬ケース。
冷却ユニット。
俺のWFに、
慣れた手つきで取り付いてくる。
「ちょ、待て待て待て」
操縦桿を握ったまま、声が出る。
「……そういうシステムだって、
先に教えておいてくれよ」
HUDには、でかでかと。
【RELOADING】
【COOLING】
【SYSTEM CHECK:OK】
消えない PAUSE の文字。
ティーカップが、のんきに湯気を立てている。
観客席は、ざわついているが、
誰も文句を言わない。
むしろ――
「いいぞ、続きだ!」
「次はもっと派手にやれ!」
そんな声ばかりだ。
「……休憩挟んで、
また撃ち合えってか」
俺は、ため息をついた。
「ここは……
本当に“見世物小屋”なんだな」
敵WFは、
何事もなかったかのように、
弾薬補充を終えつつある。
……ああ、なるほど。
「弾切れで終わるなんて、
“つまらない”もんな」
HUDのティーカップが、
小さく揺れた。
《休憩終了まで、残り――》
俺は、操縦桿を握り直す。
「……いいぜ」
軽く、口の端を上げる。
「じゃあ次は、
弾が無限にある前提で、
勝ち方を考えようじゃねぇか」




