LIVE?
飛べない鳥に案内されるまま、俺は後ろをついて行く。
ここまで来れば、信じられない方向からミサイルが飛んでくる事も無いだろう。
――なんて思うのは、アマチュアだ。
俺がプロか?
って話は、今は置いておこう。
少なくとも、俺が認めている戦闘のプロは、クイーンのことだけさ。
ジャミングは、しっかり効いている。
完全遮断じゃないのが、逆に性質が悪い。
ザザザッ。
ガガガッ。
通信音らしきノイズが、ヘッドセットの奥で跳ねる。
意味のある信号かどうかは分からない。
だが、集中力を削るには十分だ。
だから音量は、意図的に制限している。
もちろん、それなりのノイズフィルターは積んでいる。
だが――いざという時に、何か一つでも情報が欠けるのは、命取りだ。
鳥は無言で歩いている。
脚は太く、翼は短い。
――飛べない鳥だ。
本来なら、こんな場所にいるはずがない。
夜行性。
天敵が動き回る時間帯に、姿をさらす理由は無い。
つまり。
追い出された。
人間が踏み込み、安心できる場所ではなくなった。
周囲の植物は、妙に整いすぎている。
成長の曲線が、自然からわずかに外れている。
偽装。
ここは自然じゃない。
巨大な舞台装置の一部だ。
「……案内役ってわけか」
鳥の目が、均一に光った。
生き物の反射じゃない。
鳥の後ろを追うまま、通路はゆっくりと傾斜を変えていく。
気づけば、足元ははっきりと地下へ向かっていた。
スロープだ。
急ではない。
死を覚悟させるための、ある意味優しさってやつか。
だが、確実に下へ連れて行かれる角度。
壁は一見、煉瓦積みに見える。
色合いも、欠け方も、いかにもそれらしい。
――だが、信用するほど俺は素人じゃない。
この手の場所で、見た目どおりだった試しはない。
煉瓦の裏は、高密度の複合材だろう。
衝撃吸収層、熱拡散層、電磁遮蔽。
ここまでやれる連中だ。
下手をすれば、爆風どころか放射線まで防ぐ前提で設計している可能性すらある。
足音が、鈍く反響する。
音の返り方が、地上とは明らかに違う。
空気が、わずかに冷たい。
――完全に、地下だ。
やがて、壁の一部が淡く光った。
煉瓦の表面が、そのまま変質する。
スクリーン。
通路の側面いっぱいに、映像が広がる。
俯瞰視点の闘技場。
観客席。
中央の円形舞台。
内部の様子を、わざわざ見せているらしい。
画面の隅に、無機質な文字が浮かんでいた。
――LIVE。
……本当に「今」なのか。
それを確かめる術は、無い。
ジャミング下。
外部通信は遮断されている。
この映像が現在進行形なのか、記録なのか、
判断材料は存在しない。
だが、だからこそ分かる。
ここでは、
真実かどうかは重要じゃない。
見せたいものだけを、
見せる。
それが、この場所のルールだ。
映像が切り替わる。
闘技場中央。
剣闘士と、熊。
CGか。
わかっていても、その闘いから目が離れない。
先に熊が動く。
低い唸り声。
巨体が前方へ猛ダッシュする。
「クイーンよりは、遅いか」
何と比べてるんだと、
自分で自分を鼻で笑う。
熊は勢いに乗ったまま、左右同時の爪撃。
剣闘士は熊の正面には立たない。
半歩、外へ。
「脅威に正対しない。
……いい位置どりだ」
風圧が鎧を叩く。
歓声が、遅れて響く。
剣闘士は踏み込む。
剣を突き立てる。
――弾かれた。
刃は皮膚に阻まれ、跳ね返る。
熊は、怯まない。
右手が振り上がる。
溜めのある一撃。
避けきれない。
直撃。
剣闘士の身体が跳ね飛ばされ、仰向けに倒れる。
熊が迫る。
覆い被さる影。
「ああ、終わった……」
そう思わせる距離。
だが剣闘士は横に転がる。
泥まみれになりながら、間一髪で避ける。
熊の前脚が、地面を叩き潰す。
剣闘士は完全には立ち上がらず、
中腰の体勢からさらに前に転がる。
適切な距離を取る。
今は、立て直しの時間だ。
熊は追わない。
呼吸を整える。
剣闘士も、剣を構え直す。
互いに、動かない。
仕切り直し。
力と技。
猛獣と人間。
古代から、何も変わっていない。
――いや。
違うな。
映像が、乱れた。
剣闘士と熊を形作っていたドットが、
荒くなり、霧散する。
同時に、
鈍く低い、重い駆動音が響いた。
熊が立っていた位置の石畳が割れ、
競り上がり装置が起動する。
これで、熊の役目は終わりだ。
代わりに現れたのは――
重装備のWF。
過剰な装甲。
闘技場向けの、威圧的なシルエット。
ガクン、と床が揺れる。
次の瞬間、
視界が一気に開けた。
――闘技場だ。
観客席には、人型の造形物が並んでいる。
木製の古びた人形。
案山子のように腕を広げ、
首を傾け、
片手を挙げたものもある。
――一見、死んだ観客席。
だが、光が走る。
プロジェクションマッピング。
木の造形に、古代ローマの民衆が貼り付く。
酒杯を掲げ、叫び、笑う。
だが音は遅れ、均一で、感情が無い。
それでも、はっきり分かる。
全員の視線が、
俺に向いている。
WFを一歩、前に出す。
操縦桿を、握り直す。
「さて……やるか」
拍手か。
沈黙か。
答えを知るのは――
生き残った者だけだ。




