第十五話:潜む鉄の影と、連邦の眼
女子寮を包囲する監察官タノと、とばっちりで連行されたカーリー。その騒乱の陰で、もう一つの冷徹な視線が動いていた。
ヨウジの「省エネ魔法」が引き起こした異変に注目していたのは、学園の教師や監察官だけではなかったのである。
「……見たか、今の映像を」
学園の学生食堂の隅。プロテインの代わりに、ラベルの剥がれた謎の薬液を摂取している二人組の生徒がいた。彼らは生徒として潜入し、日夜学園のカリキュラムや、寝返らせる(オルグ)余地のある生徒を物色している「鋼鉄薬物連邦」の潜入調査員である。
彼らの瞳は、過剰なステロイド投与の副作用でわずかに血走り、筋肉は自然なものとは思えないほど異常に硬化している。
「ああ。ターゲット名はヨウジか。奴が放ったあの一撃……。鉄塊を両断するのに必要なマナ消費量が、我々の理論値よりも三桁以上低い。これは『効率』の次元を超えている」
「我が連邦の『薬物による魔力ブースト』すら、奴の『無駄の排除』には及ばないということか。もし、奴の理論がこの筋肉王国に広まれば……」
潜入員の一人が、通信機を取り出す。
「緊急通報。筋肉至上主義を根底から覆す異端者を発見。ターゲットの存在は、我が国の軍事的優位性を揺るがしかねない。……確保、あるいは『完全なる沈黙』を提案する」
彼らにとって、ヨウジの力は「利用すべき技術」であると同時に、「存在してはならない不都合な真実」でもあった。
彼らは、女子寮へと向かうタノの部隊を遠巻きに観察しながら、密かに懐の「強化薬物注射器」に手をかけた。
数分後、回答が来た。
「提案を許可する」
一方、サクミの部屋。
ぬいぐるみに埋もれていたヨウジは、糖分が脳に行き渡ったことで、わずかに「勘」が冴えていた。
「……なんだか、外が騒がしいだけじゃなくて、妙に『刺すような殺気』を感じるな。監察官の『徴収したい熱意』とは別の、もっと冷たい……鉄のような……」
国家の徴収官、敵国のスパイ、そして怒れるカーリー。
あらゆる勢力がこの一室へと集束しつつある中、ヨウジはただ「省エネの極致」を維持するために、静かに横たわった。




