三歳になったマコト
丘から見下ろすとトタン張りのバラックの家が見える。
バラックの家の煙突から夕食の煙が上がっている。
ドラム缶の風呂に男が浸かっている。
マコト達の家族はその小高い丘の上の、戦災でかろうじて残った家に住んで居る。
六畳と四畳半に小さな台所。
蚊取り線香の白い煙が、昇り竜の様に天井に上がって行く。
四畳半の部屋中央に折り畳みのお膳が。
六畳間の奥に箪笥と衣桁。
衣桁には憲司の丹前が。
箪笥の上にラジオ。
ラジオの隣には十字架と白い素焼きのマリア像が家族を見守って居る。
マリア像の前には牛乳瓶の花挿し。
花挿しには一輪の白い薔薇。
憲司の作ってくれたゴム鉄砲で遊ぶマコト。
みち子は台所で二人(私と母)だけの夕食を終えて、食器を洗っている。
マコトが、
「母ちゃん」
「何?」
「とうちゃん遅いねえ」
みち子の食器を洗う手が止まる。
みち子は呆れた顔でため息を吐き、
「マコト」
「なに、母ちゃん」
「ラッキーに行って父ちゃんが居るかどうか見てきな」
「ラッキー? ラッキーってパチンコ屋?」
パチンコ屋『ラッキー会館』。
閉店近い店は客もまばらである。
店内に流れる「ひばりの花売り娘」。
店の奥に「作業服姿の憲司」が居た。
真剣に玉を弾いている父。
マコトは憲司の傍に寄りズボンの裾を引く。
「・・・! なんだマコトか。迎えに来たのか」
「うん」
憲司はマコトを見て優しく笑う。
「やってみるか?」
「いいよ。父ちゃん、早く帰ろうよ。母ちゃん、怒ってるよ」
「怒ってる? そうか。じゃ、これが無くなったら帰ろう」
海老原(パチンコ屋の支配人)が小箱いっぱいの玉を持って来た。
海老原はマコトを見て、
「土屋さんの息子さんかい。迎えに来たのか?」
「うん」
「そうかい」
海老原はにっこり笑う。
憲司も釘に弾かれる玉の流れを見ながらタバコを咥えて笑っている。
海老原は憲司の台の前に玉の入った小箱を置く。
それを見て憲司は燻った気に、
「エビさん、いいよ・・・」
マコトは無くならない玉を見て、
「父ちゃ〜ん・・・」
つづく




