一品目:バームクーヘン
見切り発車です。
温かい目でご覧下さい。
「そろそろ邪神が目覚めるそうだ」
机の上に両手を組み、父上は重々しくそう告げる。
某アニメのお父さんが頭の中に浮かんで少し笑いそうになった。
「目覚めたばかりの邪神は腹を空かせているだろう」
「成る程……私に邪神様のお腹を満たして来いと仰るのですね?」
「その通りだ」
この世界で邪神と呼ばれている存在は一体だけである。
過去に多くの国を滅ぼしたと言う。
もしも邪神様の機嫌を損ねるようなことになれば、私の命どころかこの国が終わりを迎える。
だが、恐れはない。
「承知しましたわ!このセシリア・ヒューズにお任せ下さいまし!」
これは私にしか出来ないことである。
=一ヶ月後=
私は邪神様が眠る地に一人でやって来た。
「ここが邪神様が織られると言う神殿ですか……」
広大な荒野にポツンと存在する大理石の神殿。
確かに時とか空間とか操る神様なんかが封印されていても不思議ではない感じだ。
「さて、行きますか」
心の中で「セシリア、行きまーす!」と叫び、私は神殿内に入って行く。
「邪神様のお姿は……」
辺りを見渡すと、崩れた柱の影に何かを発見した。
あれは……人かしら?
近づいて確認してみると、この世界では珍しい黒髪黒目で中性な顔立ちをの子供が倒れていた。
恐らく、彼または彼女が邪神様なのだろう。
「大丈夫ですの?」
息をしていることを確認。
私は声を掛けた。
「お……」
「お?」
「お腹……空いた」
父上……本当に邪神様はお腹を空かせてました。
「ちょっとお待ちを。すぐに美味しい物をご用意しますので」
私なら邪神様のお腹を満たすことが可能だ。
正確には私の持つスキルならである。
「スキル発動!」
右手を前に突き出してそう宣言すると、目の前にウィンドウ画面が現れる。
ちなみに、掛け声もポーズも必要はない。
格好いいからやってみただけである。
さて、ここで私の持つスキルを説明しよう。
私の持つスキルの名前は『お取り寄せグルメ』と言う。
勘がいい人たちならイメージ付くだろうが、このスキルは様々な食料品をお取り寄せすることが出来るすんばらしい能力なのである。
まあ、それなりにお金は掛かりますが……それでもある意味でチートだ。
「何か食べたい物はありますか?」
「甘い物がいい」
目覚めたばかりだからガッツリ食べると思ったのだが、リクエストは甘い物ですか……
「では、これにしましょう」
私は目の前に表されている画面を操作し、とある商品を購入する。
手続きを終えると、茶色い段ボール箱が現れた。
その段ボールから商品の入った箱を取り出し、封を切って中身を邪神様にお見せした。
「お待たせしました!こちらバームクーヘンになります!」
今回お取り寄せしたのは大きなバームクーヘンである。
味はプレーンだ。
「食べていいの?」
ムクリと身体を起こす。
やはり子供のような小さくて河合らしいお姿である。
「どうぞ、召し上がれですわ」
邪神様はバームクーヘンを受け取ると、手掴みで口へと運び入れた。
「んぅ!?とても甘くて美味しい!!」
モグモグと食べた後、目を見開いて感想を述べた。
どうやら気に入ってくれたようだ。
そのまま食べ進め、あっと言う間にバームクーヘンを完食した。
「もっと食べたい」
「そう言うと思いましたわ」
私は邪神様が食べている最中に追加で二つ購入した。
しかも、今度はそれぞれ異なる味である。
「右手に持つのはチョコ味、左手に持つのは溶かした砂糖を塗したシュガー味ですわ」
「チョコにシュガー!?」
目をキラキラさせて私の両手にある二つのバームクーヘンを見る。
そのお姿は本当に人間の子供のようだ。
「邪神様、こちらを渡す前に一つお約束下さい」
「な、なにかな?」
「この世界を滅ぼすようなことはしないで下さいまし」
「し、しないよ!僕は絶対にそんなことしない!!」
まあ、しないでしょうね……
まだ会って間もないが、何となく邪神様は邪悪な存在ではないように感じた。
十五歳プラス二十七歳の勘と言う奴だ。
「よろしい!ではお食べ下さいな!」
私は二つのバームクーヘンを邪神様にお渡しした。
「美味い……幸せだ」
二つのバームクーヘンを交互に食べる。
蕩けた笑顔の邪神様に思わず私は呟いた。
「守りたいこの笑顔」
主人公のセシリアはお察しの通り転生者です。
金髪碧目の美少女(髪型はドリルじゃありません)
表ではお嬢様言葉を使いますが、裏では通常です。
ちなみに転生前は二十七歳のOLと言う設定にしております。
では、また次回もよろしくお願いします!