演目・婚約破棄された侯爵令嬢
「クリスティーナ・ロベルト侯爵令嬢!今日僕は君と婚約破棄をしてアタナーシャと婚約する!!」
僕はアタナーシャの腰を抱き寄せ、クリスティーナの親友、マリー・アルトン侯爵令嬢が開いたお茶会で婚約破棄を宣言した。
心の中ではクリスティーナに婚約破棄は嫌だぁぁぁって泣きついているが表には出さない。
そもそもこの婚約破棄はアルトン侯爵令嬢がクリスティーナにお願いし、愛するクリスティーナからの可愛いお願いで実現しているのだ。
「あら、私と婚約破棄してその令嬢を選ぶの?」
扇子で口元を隠し上目遣いのクリスティーナも可愛いが僕は思っている事と違う台詞を口に出す。
「そうだ。クリスティーナ、君はアタナーシャのノートを破いたり陰口を言っているそうだね。」
「私はそのような真似、してませんわ!」
うんうん、そうだよね。
知ってるよ。あーー…早く演技を終わらせてクリスティーナを抱きしめたい。
そう考えているのをバレないように演技再開。
僕は息を整えてクリスティーナを睨む。
「アタナーシャから色々話は聞いてるよ。でも僕がアタナーシャと仲が良いからって階段から突き落とすのはやりすぎじゃないか?」
そりゃあアタナーシャとは兄妹だもの、仲良いさ。
でもクリスティーナとアタナーシャの方が仲良いよね??
僕よく嫉妬してるんだけど??
こないだなんて2人仲良く枕投げして一緒のベッドで寝たんだって?
僕が泊まる時は僕の部屋で寝ない?って誘ったら怒るのに!!
「そんなことしてませんわ!アタナーシャさんが創作した話を貴方にあたかもあったように語ったのではなくて?」
「そんなわけないだろ?彼女は手に包帯を巻いて涙ながらに教えてくれたんだ!!」
「では保健室の先生に聞いてみましょうか。」
「そんなことをしなくても包帯を見ればわかるだろう??」
「あら、怪我をしてなくても包帯を巻けば怪我人を装えるんですよ?」
「なっ………!」
クリスティーナが袖を捲り露わになった腕に白い包帯が巻かれている。
勿論演技のための小道具だが見ていて痛々しく、僕は一瞬演技を忘れて駆け寄ってしまう所だった。
クリスティーナから強い視線を受け、慌てて台詞を紡ぐ。
「ふん!ならノートの件や陰口についてはどう説明するんだ!」
「それらの現場は貴方が見たんですか?」
「アタナーシャが涙ながらに教えてくれたから現場は見に行ってないが?」
「ならそれらも自作自演出来ますわ!ノートは自分で切り刻めばいいし、陰口だって本当に私が言ったのか分からないですよね?」
「……何が言いたいんだ。」
「アタナーシャさんはまだまだ令嬢としての心得がこれからという方。まだ婚約者もいませんし、これから花開く方です。ですが周りはそう甘くないんですよ?」
「つまり、クリスティーナ自身ではなく周囲がごちゃごちゃ言っていると…?」
「そういう事です。私が何も言わなくても私のご友人の方々は私の味方、貴方が不誠実な浮気をしていたらアタナーシャさんに厳しい目が向くのは当然の事ではなくて?」
扇子を閉じて冷たい目でこちらを見るクリスティーナに内心泣きそう…
結婚前だけどもし完璧に演じ切ってくれたらお礼に枕投げと添い寝を一回してあげるから!…ね?という甘いご褒美話にまんまと釣られた僕だけど精神的にかなり辛い…
これは一回だけじゃなくて五回ぐらい追加してもらわないと釣り合わないよな!うん。
黙った僕に構わずクリスティーナは続けて発言する。
「そもそもアタナーシャさんと婚約したいならまずはこのような場で宣言するのではなく、アタナーシャさんと恋仲になる前に私に相談したり、貴方の両親と私の両親を含めたメンバーで話し合いの場を設けるのが適切ではなくて?」
「う゛…それは…」
「それに婚約者がいる相手に擦り寄るような軽い女性に惚れる方とか婚約者がいるのに浮気をする方とかきちんと確認をせず片方の言い分を信じて婚約破棄する方とかこちらから願い下げだわ!!」
「う゛…じゃあ婚約破棄でいいんだな?」
「勿論ですわ!婚約破棄の慰謝料と大勢の方々がいる前で私の名誉を傷付けたことによる名誉毀損に対する慰謝料、覚悟しておいてくださいませ。あ、そうそう!お義父様になる予定だったアルゼン公爵様には既に今までのふしだらなやり取りや今回の愚行を余す事なくお伝えしておりますの。」
「どういう事だ?」
「最近の魔道具は優れてるんですよ。今日のお茶会の様子も魔道具を通してアルゼン公爵様が見ています。前に相談した際に公然の場で婚約破棄といったことをした場合廃嫡も視野に入れる…と発言なさっていたので帰ったらいつも通りではいられないかもしれませんね。」
扇子片手にふふふっ…と笑う彼女はとても可愛いけど変な冷や汗が背中から流れた気がする。
実際はみんなの演技が見たいと駄々を捏ねた父上達アルゼン公爵家一同とロベルト侯爵家一同が仲良く映像を見ているだけなんだけど。
現実と演技中の僕達、周囲の温度差が激しい。
…台詞を考案した母上にはあとで文句の一言でも言わねば。
ふとクリスティーナと目が合い最後の台詞を言う。
「以上、クロード・アルゼンと」
「クリスティーナ・ロベルトと」
「アタナーシャ・アルゼンによる原作『花びらが舞う頃に君と笑う』をアレンジした婚約破棄をテーマにした劇を終わります。」
「「「ご覧頂きありがとうございました!」」」
僕達演者と一人の少年、マリー・アルトン侯爵令嬢の婚約者オリンズ・ビストロ公爵令息以外が大きな拍手を僕らに送る。
あらかじめビストロ公爵令息以外にはこの劇の事を伝えていたので好意的に演技を褒めてくる方が多い。
「素晴らしい劇でしたわ!クリスティーナもクロード様もアタナーシャ様も見事な演技力で引き込まれてしまいました!」
「マリーのお願いだったから頑張りましたの!」
「クリスティーナ、僕頑張ったしご褒美五回に増やしてくれない?」
「クロード様、欲張りすぎではなくて?」
「クリスティーナ、ご褒美ってなんの話?」
「クロード様ったら演技でも婚約破棄なんてしたくないって駄々を捏ねるものだから完璧に演技したら枕投げと添い寝を一回してあげますわ!って釣ったのよ。」
「ふふっ…それでクロード様は釣られたんですね。」
「クリスティーナはアタナーシャとばかり枕投げや添い寝するんだ。婚約者は僕なのに妹とばかりイチャイチャして…!」
「あらあら、それはクリスティーナが悪いわ!」
「ほら、アルトン嬢もそう言ってるんだし、ご褒美は増やすべきだろう?」
「クロードお兄様、私はご褒美にクリスティーナお姉様とケーキを食べに行って、お揃いのネックレス買うんですよ!それを付けてデビュタントに出るんです!」
「お揃いのものか。ふむ…クリスティーナ、来週はお揃いの指輪でも買いに行こうか。」
「さっきまで婚約破棄ごっこしていた方々とは思えないほど仲がいいのね。」
「小さい頃から僕の為にそしてアルゼン公爵家の為に一生懸命勉強を頑張ってくれているクリスティーナを好きならないわけないだろう。劇の様な視野の狭い無能男と一緒にしないで欲しいな。」
「むしろお兄様がお姉様を捨てる前に捨てられますわ!まあもし仮に婚約破棄とか言い出したら何らかの魅了魔法のよう物で操られているって断言出来るからお姉様はきっぱり捨てられるんじゃなくて?」
「アタナーシャ…!?」
少し離れた所で僕らの会話を聞いていたオリンズ・ビストロ公爵令息がマリー・アルトン侯爵令嬢を呼び僕らはお茶会の席に着いた。
今回の劇は表面上は恋愛小説が好きなマリー・アルトン侯爵令嬢の為に僕達が劇をした事になっているが実際はオリンズ・ビストロ公爵令息がとある男爵令嬢に目移りしていたから彼へ彼女からの警告として劇を行ったというのが正解。
幸いオリンズ・ビストロ公爵令息はその警告に気付いたらしく彼女に平謝りをしてもう目移りしない、君だけだと約束してくれたとのちの彼女から聞く事となる。
僕はというとご褒美の枕投げと添い寝を五回堪能し、添い寝中クリスティーナから甘えられ鼻血を出す失態を犯したけど幸せだったから劇を頑張ってよかったなと思ったよ。
ただ演技中のクロード様の表情が好きなのよ…と言われてももう婚約破棄の劇はしないからね?
どうせなら溺愛する令息役がいいな。
勿論お相手はクリスティーナ固定で。
ご覧頂きありがとうございました!
⭐︎宣伝
他にもお話を書いているので良ければそちらもどうぞ!