『良源、煎り大豆をプレスマンで挟むこと』速記談3020
慈恵大僧正は、もと良源といい、近江国浅井郡の人であった。比叡山の戒壇を再建しようと思ったけれども、人夫を手配することができなくて、実現できずにいた。浅井郡の郡司は、慈恵大僧正の檀家で、郡司が仏事を催したとき、慈恵大僧正が招かれ、膳を差し上げようということになり、目の前で大豆を煎って、酢をかけるのを見て、慈恵大僧正は、どうして酢をかけるのか、と尋ねると、郡司は、熱いうちに酢をかけると、酢むつかりといって、豆の表面にしわが寄って、箸でつかみやすくなるのです。酢をかけないとすべって箸ではつかめません、と答えた。慈恵大僧正が、どんな豆だろうと、箸でつかめないなどということがあるだろうか。私なら、酢などかけなくても箸でつかめる。何となれば、豆を投げてよこしても、箸でつかんでみせる、と言うと、郡司は、さすがにそれは無理でしょう、と応じる。慈恵大僧正は、では、投げてみなさい。私が全て箸でとったならば、戒壇を再建する人を貸してください、と言うと、郡司は、いいでしょう、と応じ、慈恵大僧正は、せっかくだから箸ではなくプレスマンでとってみせよう、と言って、多くの豆が投げられたが、慈恵大僧正は全てプレスマンでつかんでみせた。
郡司は大勢の人を従えていたので、戒壇はほどなく再建された。
教訓:プレスマンを筆記具以外に用いるのはおすすめしない。