呪い
そいつのよく言う冗談の一つに、ちょっと不謹慎なのがあった。もちろん悪気がある訳じゃないし、誰かを傷つける類のもんでもない。その冗談を、そいつはいつもこんな感じにやっていた。まずは「手相見てあげるよ」って相手の手をまじまじと見つめる、それからわざとらしそうな真剣な表情で、タイミングを見計らって「ああ、明日、死にますね」とそう言う。
たいがいのヤツは、それを聞くと笑う。インパクトがあるし、手相占いの定番の物言いとは違う突飛さが面白い。相手さえ間違えなければ、こういうブッラクユーモアなノリは案外、好評だったりするもんだ。
でも、その時はまずかった。いや、その場では、ある程度の笑いはとれたんだ。そいつはいっつも言う相手を選んでやるから、たいていは失敗をしない。だけど、それからがまずかったんだ。次の日に、それを言われた相手は、本当に死んじまったのさ。もちろん、ただの偶然で運が悪かったってだけの話だろう。でも、世間がそう思うとは限らないんだ。
次の日から、そいつのその冗談は噂になっていった。死を予言した、と。ただの冗談だったはずなのに。そして、何しろ、そいつは色々なヤツに向かってその冗談を言っていたものだからさ、中にはその噂を気にし過ぎるヤツも出てきた訳さ。更に、その気にし過ぎるヤツが、その所為で体調を崩したりなんかしたものだから、事態はもっと深刻になった。いつの間にかに、そいつのその冗談は、死の予言から、呪いの言葉だと言われるようになっちまったのさ。そうすると、もう世間の噂は止まらなかった。そいつは、世間から呪術師だと言われるようになっちまった。その所為でそいつは怖がられるようになって、孤立していき、今じゃ独りぼっちだ。ただの冗談の所為で。笑えない笑い話だよな。でも、マジなんだぜ。
呪いだとか、なんだって言うとさ、馬鹿にするヤツがいるだろう?そんなのは嘘っぱちだって。もちろん、呪いは嘘っぱちかもしれないよ。でも、こんな話を聞くとさ、例え嘘だとしたって充分に怖いってそう思わないか?
少なくとも、気軽に扱うものじゃないってそう思うね。オレは。