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《誕生日-20XX0522》

四方を薔薇の花壇が囲う庭園の中。

中央に立派なガゼボがあると言うのに、そこには腰掛けずに庭園の隅っこで小さな女の子が一人で縮こまって泣いている。あれは……

(小さい頃の、私だ)

これは夢なんだと直感的に気づいた。


「ひなり!また泣いているの?」


そんな小さな私に駆け寄ったのは、彼女と同じくらい小さな男の子。

(これは小さい頃の瑞月)

瑞月の産まれた橘家だって、うちの花園家と勝るとも劣らない名家だ。そういう繋がりもあってか、私たちは物心つく前からの幼なじみだった。


「わたし、またおとうさまに叱られちゃった。わたしが何もできない悪い子だから」


小さい頃はお父様に振り向いてもらうために必死だった。

頭が良ければ、運動が出来れば、なにかお父様の琴線に触れる一芸に秀でていれば、私のことを大切にしてくれると、そう思っていた。

(まあ何もかも中途半端だったんだけどね)

今泣いている女の子が何もかも諦めたその未来が私だ。


「ひなりは悪い子なんかじゃないよ」


そうやって弱音を吐く私を瑞月はずっと支えてくれていた。励ましてくれていた。


「ひなりは僕の太陽なんだよ」


こんな小さい頃から、ずっとずっと。


「だから泣かないで」


そういって小さな私の涙を拭う瑞月はまるで小さな王子様だ。


「ぼくは、何があってもずっとひなりのことが大好きだよ」



目を開けると広がったのは立派なベッドの天蓋だった。

――私の部屋だ。

(何だか素敵な夢を見ていた心地がするのに)


「んー、思い出せないな……」


夢を思い出すことをそうそうに諦めて学園に行くための準備を始めた。

校庭の桜の木もすっかり葉桜に変わって、

第2音楽室は何事も無かったかのように綺麗に修復され、

廊下でヴァイオリンを聴いていたセイが音楽室の中にいて、

そんなことが日常として馴染んできたある日だった。

いつもの第2音楽室でヴァイオリンを弾いていたら、パシャっとシャッター音が鳴り響いた。


「え?」


思わず演奏の手を止めて振り返ると、瑞月が私の方に向けて少し大きめのカメラ?を構えていた。

するとそのカメラからウィーンという機械音が鳴り響き、小さなシートが出力された。


「なんだ?それ」


瑞月の隣に座っていたセイが尋ねる。


「シャッターを切ったらその場で写真として出力出来る機械なんだ」


瑞月は出力した写真を私達に掲げた。ヴァイオリンを弾いている自分が写っている。自分では見ることない構図だから不思議な感じだ。


「へー!凄いね!これも瑞月のお手製?」

「うん、そうだよ」


瑞月は小さい頃から工学系の才能に秀でていて、機械の発明分解修理……機械いじり諸々が大好きなのだ。


「わざわざ自分で作ったのは凄いけど、こういうのって結構売ってないか?」

「まあそうなんだけどね。これは日奈莉仕様なんだ」

瑞月は手に持っていたカメラを私の方に差し出した。

「あげるよ」

「え、いいの?」


私は目を瞬かせてそのままカメラを受け取った。本体は淡い桃色で本体の隅の方に小さくヴァイオリンのデザインが施してあった。


「かわいい!ありがとう!」


あまりにも可愛いデザインだからおもちゃみたいだけど、さっきの写真で性能は実証済みだ。


「瑞月はやろうと思えばどんなものでも発明できちゃいそうだよね!」

「さすがになんでもは無理だと思うけど……日奈莉ならどんな発明がしたい?」

「んーそうだな……」


私は今朝の出来事を思い出した。素敵な夢だったはずなのにどうしても思い出せなかったこと。


「……寝る時は自分が思い描く素敵な夢を見せてくれる機械……とか?」

「へぇ……今朝嫌な夢でも見た?」

「いや、その逆よ、いい夢だったのに思い出せないのが残念だったの。でも目覚めが良かったから毎日こうだといいなーって!」

「なるほどね」


瑞月は私の方を見ていつも通りの笑顔を浮かべていた。


「でも急になんでこんなのくれたの?」

「あーやっぱりまた忘れてる?今日日奈莉の誕生日だよ?」

「そういえば……」


5月22日は私の誕生日だ。毎年瑞月にプレゼントを貰うことで思い出している。


「自分の誕生日の当日になっても思い出さないってマジなんだな」


少し呆れたようにセイが言った。


「毎年瑞月からプレゼント貰える日という認識でしかないのよ」


そう言った私のことをセイはじっと見つめていた。

(……?)


「ヒナ、今日この後俺の家にこないか?」

「えーなんかその誘い方やーらし……」


からかうように言った瑞月の頭をセイが思いっきり(はた)いた。結構痛そうな音がした。瑞月は頭を抑えている。


「うるせーよ。そう言うならミヅも来ればいい」

「ほんと?じゃあ僕も行こうかな」


私と瑞月でセイの家に訪問するのもそう珍しいことじゃなくなっていた。

今日は早めに第2音楽室から撤収してみんなでセイの家に向かうことにした。



いつもの通りの弓道場に案内された後、数分の間この場を離れていたセイが綺麗なブーケを手にして帰ってきた。


「これ、やる。プレゼントに」

「用意してくれてたの!?」

「ミヅに聞いてたんだ」


ブーケを受け取るとふわっと生花特有の香りが鼻をくすぐった。パステルカラーを基調とした可愛い花束で薔薇やカーネーション、かすみ草……私の手の中に綺麗と可愛いがたくさん詰まっていた。


「これセイが作ってくれたの?」

「……まあ」


セイは照れくさそうに片手を頭の上に置いた。


「前言っただろ?花は嫌いなわけじゃないんだ」

「お花も生けられるの、すごいね!」


自然と私の顔が笑顔になるのが分かった。


「まあ、一からカメラ作ったミヅに比べれば大したことじゃねぇけど」

「そんなことないよ、どちらも本当に嬉しいの。ありがとう!瑞月、セイ!」


セイから貰った小さなブーケと瑞月から貰ったカメラ。また宝物が増えた。


「あ、セイ!一つお願いしてもいい?」

「なんだ?」

「写真が撮りたいの。弓を引いてるセイ」

「そんなの撮って面白いか?」

「せっかくだから写真(かたち)にしたいの!私にとって大切な時間をこのカメラで残しておきたい!」


私はカバンから瑞月に貰ったカメラを手に取って笑いかけた。

それくらい別にいいけど、と言ってセイはいつも通り弓を構えてくれた。私はカメラを構えて何枚かシャッターを切ったけれど、集中しているセイの耳には届いていなさそうだった。

(好きなことには真剣でいたいよね)

カメラから出力された写真には袴を身にまとい弓矢を引いてるセイが写っていた。


「どう?上手く撮れた?」


そう言ってこちらを覗き込もうとする瑞月の方にも振り返ってレンズを向けシャッターを切る。


「何でもない僕を撮っても仕方ないだろ」

「仕方なくなんてないよ」


出力された写真には、いきなりレンズを向けられて驚いている瑞月が写っていた。


「私の大事な友達(たからもの)なんだもん」

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