《願掛け-20XX0406》
セイの家に遊びに行くと約束をした次の日。私は以前もセイの家に遊びに行ったことがあるという瑞月の道案内のもと(といっても移動はうちの車に乗ってだったけれど)セイの家の門の前に立っていた。
「かなり立派なお家だね」
広々とした和風建築の御屋敷で、洋風であるうちの家とは全く違う雰囲気だ。
(でもセイの雰囲気と似てる)
「久城家といえば華道の家元で有名な家だよ」
「セイも華道やってるのかな?」
「さあ?聞いたことないな。でもあいつが花って似合わなくないか?」
「そう?私は結構似合うと思うけれど」
確かにお花とセイって考えるとなんとなくイメージがつかないけれど、背筋を伸ばして畳の上でお花を生ける……って考えると結構かっこいいんじゃないかと思う。
「えーそうかなー?」
全然同意できないという気持ちを滲ませながら瑞月が答えた。
そんなことを話していたら目の前の門が開いて、中から袴を身にまとったセイが現れた。着なれてるんだなとすぐに感じるほどに袴とセイはよく馴染んでいた。
「セイ!袴着てるのね!」
「だってお前ら弓道見に来たんだろ?」
面倒くさいという気持ちを隠しもせずに言い捨てると、私達を門の中へ案内した。
「弓道場も立派だね!」
案内された弓道場は的が3つほど用意されていて広々として心地よい静けさをまとった空間だった。
「俺が弓道好きだからってじいさんが作ってくれたんだ。親父はやっぱ花やって欲しかったみたいだけど、好きなことやらせろって言って」
お爺さまのことを話しているセイはいつもより饒舌で声色が明るかった。
「素敵なおじい様だね」
「ああ」
(大好きなんだろうな、おじい様のこと)
「星は華道やってないの?」
瑞月はこの弓道場にも来たことがあるのかリラックスした様子で射場の床の上に胡座をかいていた。
「花が嫌いな訳じゃないが、やっぱこれが一番好きだからな」
セイの手には弓が握られていた。
「華道の家元の息子だからって絶対花をやらなきゃいけないなんておかしいだろ。花だってやりたいやつがやって極めればいい。俺は弓道が好きだから弓道をやり続ける」
セイは的に向かって弓を引いて矢を射った。
大きな音を立てて放たれた矢はまるで吸い込まれるように的に突き刺さった。
「すごい……」
「お前もやってみるか?」
「え!!そんな私出来ないよ!?」
セイがとんでもないことを言い出した。
「弓道……っていうか弓で矢を射るっていう行為は昔から魔除けとか邪気祓いになるって言われてるんだよ」
セイはこちらに歩みよって私に弓を差し出した。
「魔除けにいいんじゃねぇの?」
わざわざ魔の部分を強調して少し小馬鹿したようにセイが言う。
「魔って……」
「ほら、立てよ。これからは自分の足で自分の道を歩くんだろ?」
まだ何も言っていないのにセイは私の手を取って私を立ち上がらせた。
隣に座っていた瑞月は何を言うでもなくそんな私たちの様子を静観していた。
セイに促されて弓を構えたはいいもののやっぱり姿勢が安定しない。
「さすがに日奈莉は初心者なんだから星がサポートしなよー星がそこまで引っ張ったんだろー?」
瑞月は後ろから野次を飛ばすように言葉を投げる。
「わざわざ言われなくてもその予定だったけどな」
そう言うとセイは私のすぐ後ろに立って、私を腕ごと包むようにして一緒に弓を構えた。
「へぁ!?」
(距離が……近い……!)
「一人でたってても姿勢は綺麗なもんだな。ヴァイオリンやってるからか?足りないのは弓を引く力くらいか」
思わず溢れ出た私の奇声にも反応することなく冷静に分析しているセイ。
そんなセイの呟く声はまるで囁かれてるみたいに私の耳元に入ってくる。
(だから色々近いんだって!!)
顔に血が巡るのを感じて、咄嗟に助けを求めるように瑞月の方に視線をやったが、彼は上体を前に倒して肩を震わせている。
(私の慌てた様子を見て笑いの種にしてるわね!?後で絶対文句言ってやるんだから)
「ほら、集中しろ」
また耳元からセイの声が聞こえてくる。
「しっかり的を見て、弓を引いて」
邪念は何とか打ち払ってセイに言われた通り目の前のことに集中する。
「魔を打ち払うんだ。これがお前の最初の一歩の願掛けだ」
カウントダウンするセイの声に合わせて、矢を放った。私の手元から放たれた矢はまた真っ直ぐに的を貫いた。
「……当たった」
ヴァイオリン以外には能がない私だ。少し弓道をかじったことがあるといえど、自分の放った矢が的に命中することなんて一度もなかった。
「飛び立てそうだな、鳥籠から」
私に語りかけた彼に、
「……全部セイのおかげよ」
私は顔を合わせるのが照れくさくて、
窓に突き刺さった矢を見ながらそう呟いた。




