《告白-20XX1222》
ジリリリという目覚ましの音でゆっくりと目を覚ました。手を伸ばして手に取った時計の針が指する時刻はいつもの起床時間より少しばかり早い。
冬の朝は寒さが身に染みて、起きなければと分かっていながら布団の中に身を埋めてしまう。
寝ぼけ眼で目についたベッドサイドのチェスト上には……
「……あれ?」
(ここに置いた気がするのに、プレゼントのバラ)
大事なプレゼントを一体どこに置き忘れてしまったんだろうか。
顔から血の気が引く。
一気に目が覚めた。
今日は12月21日、瑞月の誕生日。
それと同時に私の決戦の日だ。
すぐさまベッドから降りて、花束の行方を探す。
なのにいくら探しても見つからない。
待ち合わせの時間が刻一刻と近づき、結局バタバタで準備を終わらせて学校に向かった。
車から降りたところでちょうどスマホの通知が鳴った。おそらく瑞月が一足先に音楽室に着いだんだろう。私はスマホを見ずに駆け出した。
まだほとんど人がいない校舎内で私の足音だけが響いていた。
「花束どこにいっちゃったんだろう……」
小さく呟いたつもりの言葉は空っぽの校舎で反響して予想以上に大きな音で耳を震わせた。
いつもの通い慣れた場所。私の足はいつも通り第2音楽室に向かう。音楽室の扉に向かい合ったところで歩みを止めた。
走って乱れた呼吸を整えるため冷え切った空気を大きく吸い込んでゆっくりと吐き出した。
「……ふぅ。よし」
花束がないものは仕方ない。プレゼントは延期にしてまた渡せばいい。
(早く来てもらったのに瑞月に申し訳ないな……このまま告白というのも格好がつかないしどうしよう)
この教室の扉をこんなに重いと感じたことはない。私はゆっくりと扉を開けた。
「やあ日奈莉、おはよう」
手元のスマホから顔を上げて、瑞月は私に微笑みかけた。
「おはよう瑞月。朝早くからごめんね」
「いいよ全然。……日奈莉の頼みだし、ね」
瑞月はどことなく気まずそうに微笑みを浮かべた。
(なんで告白する前から、そんな表情なんだろう。もしかしてバレてるとか……?)
瑞月ならあり得そうだ。でもその前に私には一つ謝らなきゃいけないことがある。
「あのね、こちらから呼び出しておいて申し訳ないんだけど、渡すはずだったプレゼント無くしちゃったみたいで……」
「……」
「後日また準備して渡すから今日の用事は無かったことに……でも誕生日おめでとう!」
「……3本の赤い薔薇の花束」
「……え?」
私が渡すだったはずのプレゼントをなぜ瑞月が知っているんだろう。
「僕はもう貰ってるよ」
「……?何を言って」
「今日起きてからスマホは見た?」
スマホ……?そういえば朝はプレゼント捜索でバタバタしていたからポケットに放り込んだまま見ていないかもしれない。
スマホが指し示すのは20XX年12月22日7時45分だ。
「え?22……日?」
「やっぱり『ここ』でもこの日が基準か。僕が管理者なんだから当たり前ではあるけど」
「……瑞月?」
「今回の日菜莉の『バックアップ』を使って、改築し直そう。『この日』を越えられるように」
「……さっきから何を言ってるの?」
「『起きて』。日奈莉」
『起きて』
そんな言葉に相反して私の意識は遠のいていく。
(……なんで?何が起こっているの?)
青年が糸が切れたような力の抜けた彼女の体を優しく抱き止めた。
そのまままるで壊れ物を扱うようにこれ以上にないほど優しく彼女の体を抱え上げた。
「大丈夫だよ、日奈莉。何も心配はいらない」
青年はそのままゆっくりと目を閉じた。
「だってこの【リコール】が上手くいけば、この物語はハッピーエンドなんだって」
「『最初』から決まってる」