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《告白-20XX1221》

ジリリリという目覚ましの音でゆっくりと目を覚ました。手を伸ばして手に取った時計の針が指する時刻はいつもの起床時間より少しばかり早い。

冬の朝は寒さが身に染みて、起きなければと分かっていながら布団の中に身を埋めてしまう。

寝ぼけ眼で目についたベッドサイドのチェスト上では綺麗な赤い薔薇が咲いている。


「……はっ!」


一気に目が覚めた。

今日は12月21日、瑞月の誕生日。

それと同時に私の決戦の日だ。


すぐさまベッドから降りて、急いで身支度を整え始める。

時間に余裕はあるけれど、今日だけは少しでも綺麗な自分で大好きな彼に向かい合いたい。

準備を終えて、いつも通り車を出してもらい学園へ向かう。車から降りて、ちょうど校舎内に入ったところでスマホの通知が鳴った。瑞月は一足先に音楽室に着いているらしい。

まだほとんど人がいない校舎内で私の足音だけが響いていた。


「いまさらながら緊張してきた……」


小さく呟いたつもりの言葉は空っぽの校舎で反響して予想以上に大きな音で耳を震わせた。

いつもの通い慣れた場所。私の足はいつも通り第2音楽室に向かう。音楽室の扉に向かい合ったところで歩みを止めた。

そしてそのまま冷え切った空気を大きく吸い込んでゆっくりと吐き出した。

手元の赤い薔薇の華やかで甘い香りが私の花をくすぐった。


「……ふぅ。よし」


この教室の扉をこんなに重いと感じたことはない。私は震えて力が入りきっていない手でゆっくりと扉を開けた。


「やあ日奈莉、おはよう」


手元のスマホから顔を上げて、瑞月はいつもと変わらない微笑みを私に向ける。


「おはよう瑞月。朝早くからごめんね」

「いいよ全然、日奈莉の頼みだし。それに今日僕の誕生日だし」


何かくれるんでしょ?とでもいうようにニヤニヤと嬉しそうに笑う。


(こっちがどんなに緊張してるかも知らないで!)


自分の顔が赤くなり始めているのは分かっている。私は咄嗟に彼の顔の前に突き出すように手元にある赤い薔薇を彼に差し出した。


「……赤い、薔薇?」

「そう。あげる。今日誕生日でしょ」


本当は告白と一緒にこれを選んだ意味も伝えてから差し出そうと思っていたのに。シミュレーションと違ってまったく可愛くない自分の言動に腹が立った。


「そっか、ありがとう日奈莉」


瑞月はなんでもないように花束を受け取った。

顔を上げて表情を伺うと、いつもと同じ微笑み……ではなく少々眉を下げているように見える。


「薔薇は好きだし嬉しいけど、花の贈り物は色や本数によって色んな意味合いがあるから気をつけないと」


そうかもとは思っていた。

やっぱり彼は『3本の赤い薔薇』の意味を知っている。


「僕だからよかったけど、他の人にこれやったら勘違いしちゃうから、花束贈る時はちゃんと意味を調べ……」

「勘違いじゃないもん」


声が震える。心臓が喉から飛び出そう。

よくある表現だけど本当にこんなことあるんだ。

自分の体が自分のものじゃないみたいに全身で脈を打っている。


「私、瑞月のことが好きだよ」


瑞月は少し驚いたように目を丸くしたけれど、それだけだった。またいつも通りの笑顔で私に微笑みかけた。


「だから勘違いだよ」


まるで物分かりの悪い子を諭すみたいに彼は言う。


「君の好きな人は僕じゃない。勘違いしてるんだよ」

「……え?」


彼が何を言っているのか理解できないのは私だけなんだろうか。この場には私達二人しかいないから知りようがない。


「……なんでそんなこと言うの?」


これ以上考えたくないと思ってもどうしても思い出してしまったり、

嬉しいことがあったら真っ先に伝えたくなったり、


「確かに自覚するまで遅かったかもしれないけれど」


触れられるとそれだけで心臓が高鳴ったり、

彼の前で可愛くいたいと思ってもつい空回りしてしまったり、


「私だってちゃんとわかるよ、これは恋だって」


なのに、彼は変わらない。


「違うよ。日奈莉が僕を好きになるわけがない」


いつもと変わらない口調で、表情で。


「君に相応しい人は他にいるだろ?」  


全てわかっているかのように私の気持ちを踏み躙る。


「どうして瑞月が私の気持ちを決めつけるの?」


長期戦は覚悟していた。少しずつ好きになってもらえば良いって。

でも気持ちを受け取ってすらもらえないなんて思わなかった。


「気の迷いだよ、絶対にそうだ」

「これは僕の『役』じゃない」


今、傷つけられているのは間違いなく私の方なのに。


この人はなんで

こんなに寂しそうな顔をして笑うんだろう。


「もういい!瑞月なんて大嫌い!」


そんなこと思ったことないのに、溢れ出た悲しみの感情は怒りの言葉となって口から飛び出した。


私はそのまま音楽室を飛び出して廊下を駆け出した。一度も振り返らなかった。



「大嫌い、か」


音楽室に残された青年は一人で俯いていた。


「流石に『二度目』は堪える」


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