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1/キャッチボール

 サブタイトルの「/1」は、つまりは第一章という括りの表現ですのでミスではありません。紛らわしくてすいません(汗


 普段はサブタイトル付けないので、久々に付けたいなーとか(ネーミングセンスの鍛錬)


 では、そんな惑わしサブタイトル「/1」は今回で最後です。

 コメディーっぽくない……と思う方、遠慮せず罵倒を浴びせてくださいな。

 /3




 *




 もう会うこともないだろうと思っていた。

 現在の時刻は午後十時三十分を少し過ぎた頃。いつもの河原沿いに差し掛かった俺の脳裏に浮かんだのは、そんな願いにも似た根拠のない一言だった。しかし一切のプライドや羞恥をかなぐり捨てて正確にいうのならば。もう二度と会いたくない、が正しいのだが。

 なんのことかといえば、それはもはや述べるまでもないと思う。

 夕刻に見舞われた殺人的な一撃は脳天を貫く衝撃でもって俺の意識を朦朧とした白いところへ運び去った。そうして世界の裏側辺りを浮遊していた自我を取り戻したのは、およそ悲劇から数十分後のことになる。気がついたときには激痛が患部だけでなく全身を駆け巡っていて目覚めは最悪。それでもダメージのほどを考えれば絶命していなかっただけ幸運と思わなければならないのかもしれない。

 ……というのは勿論過剰表現で、現実は絶命どころか気絶すらしなかった。だが顎下を襲った蹴りの衝撃は確かに失神寸前まで意識を追いやってはいたし、倒れ伏した全身が本来痛むはずもない部分で痛覚を絶叫させていたのもまた紛れもない事実である。非日常的な痛覚を表現するなら、それが大袈裟になっても仕方のないことだろう。

 その後。

 名前も知らない先輩を蹴り上げた一年女子は髪を翻して憤然と歩き去り、名前も知らない後輩に撃沈させられた二年男子がバイトに遅刻することで事態は収束した。

 結局誰に得があったのか、そもそも損得勘定の適用される事象であるかも不明な暴力事件から数時間。まだ痛む患部を気にしながら夜道を歩く俺が、夕陽の演出がなくなったことですっかり暗く静謐に沈んだ河原沿いに差し掛かって抱いた感想が前述の一言だった。

 人の出会いは一期一会。もう会うことはきっとない。……きっと。

「ない……んだよな」

 絶望を感じさせる呟き。

 途端、歩みが止まった。

 均等に立ち並んだ街灯が照らし出す円形の空間が夜の世界で露になっている。さながらスポットライトが当てられているかのようなその内の一つに、俺の眼球はとんでもないものを認めていた。

 丁度光の輪を三つ挟んだ距離。

 手前のそれから数えて三つ目に、奴がいた。

「……」

「……あ」

 今度の呟きは俺ではなく、夜の静寂に響いたのは涼やかな声音であった。

 世界が静止する。

 ぴたりと固定された視線が一部に縫い付けられて黒瞳から逸らすことは叶わない。性質の悪い呪いに掛かった心地で俺は自らの状況を鑑みた。俺がそんなことをしている間に、奇しくも二度目の邂逅は、

「……何よ、なんか用?」

 一度目と同じ言葉により迎えられる。

 なるほど、これがデジャビュという奴か。どうやら冗談を交えて思考できるくらいには、俺の精神状態は安定しているらしい。

「なんか用かって訊いてんのよ!」

 いきなり怒鳴られた。

 相当ご立腹の様子である。怖い。

「いや、別に用ってのはねえけど……」

「おっけー。宣戦布告ね。了承したわ。さあ、戦争を始めましょう」

「おまえの耳はどんな構造をしてやがるんだ」

「賽はとうに投げられたわ」

「おまえによってな!」

 じり、と砂利を踏む音がした。夜に煌く漆黒の眼光は、さながら発砲直前の銃口の輝き。

 冷たい夜風が身を切り裂く刃となり、熱を帯びて闇を焦がす。一触即発の緊張感が張り詰める中、

「って……あれ?」

 場違い過ぎる空気を正常化したのは、それを発生させた本人の感動詞二節。後に残ったのは間抜けなほどに平穏な日常だった。

 臨戦態勢を解き、そうして少女はようやくにしてその事実を口にする。

「あんた、それって市坂の制服よね?」

 きょとんとした面持ちに尋ねられる。

 今更に過ぎる発見に俺が首肯による無言肯定を返信すると。

「……てことは、え? あ、そっか、だから解ったんだ」

 一人でどんどん疑問を解決していく。納得の度に漏れる呟きはさらに続いた。

「それじゃあ、えっと、つまり透視ってのは嘘で――」

 街灯に照らされた表情が、夕方のそれとは明らかに違った理由で赤く変色していく。ぽかんと開いた口。絡まっていた疑問の糸が解けたことによる爽快を表したままの面持ち。そして次の瞬間に大気を揺らしたのは絶叫だった。

「じゃ、じゃあ! あたし、パンツ見られ損じゃないっ!」

 響き渡る叫び。見開かれた眼がぎょろりとこちらを向く。

 え……なに? 

「っざけんじゃないわよ! あんたやっぱりヘンタイじゃないのよ!」

「いや、ちょっと待った! ありゃ不可抗力だ!」

 全否定できない俺がいた。

 誤解だが、なんにしても見てしまったことは事実である。……原因が俺の嘘であることも。

「もー! どうせあの後、記憶を頼りに『ぐへへー』とか『ふへへー』ってしたりしたんでしょ!」

「してねえよ!」

 限りなく抽象的な決め付けだった。伏字のつもりだろうか。

 天井知らずの怒りが、その矛先を一ミクロン単位でぶれることなく俺に突きつける。

「このバカ! ヘンタイ!」

 罵倒を連呼しながらずんずん近づいてくる。留まることを知らず吐き出される無実の糾弾を投げつけられつつ、同時進行で物理的な距離は着実に縮まっていく。暴力に訴えることはないが、どこかで際限の外れた少女は激情の決壊を抑え切れず、言葉は前進の代償のように繰り返された。

「お、おい、落ち着けよ!」

「うるさい黙れ死ね木っ端微塵になれえ!」

 接近を牽制しようとして手を出し、両者を隔てる距離がほんの僅かしか残されていないことに気付く。このままでは衝突は避けられない。当然、少女の踏み込みに対して俺は後退するしかなかった。

 三歩ほど退いたところでバランスが崩れる。傾ぐ姿勢。踏み違えた右足。

 崩れた重心を修復するために体を旋回させ――河原が背になる体勢――どうにか持ち堪える。

「地獄に落ちろ! バカ! 馬鹿ばか莫迦バカあ!」

「ちょ、待てって、これ以上はやばい――」

 勿論。

 待ってくれなかった。

 止むを得ず半歩下がる。が、苦肉の策であることを理解していたそれが予想の範疇内でありながら驚愕を生んだ。

 突然に崩れる体勢。背後が傾斜になっていることは認識していたので、脚を引く幅はぎりぎりにしていたはずだった。だがこの暗闇や無理な体勢、迫り来る少女の威圧など、様々な要因の下に距離の判断を誤ったらしい。

 反った姿勢を戻すことは不可能で、既に抵抗のしようがないほど強大化した重力が強制的に天を仰がせる。夜空に疎らな星の下。俺は盛大に背中から斜面を転がり落ちた。それはもう、喜劇染みた勢いで。

「え? うわっ、ちょっと!」

 ほとんど密着状態にあった両者の位置関係が喜劇(悲劇)の連鎖を生む。少女の踏み込んだ脚は瞬間前まで俺が踏んでいた位置より少し奥に下ろされ、平面であると信じて疑わなかった地面に裏切られる結果になった。前進の勢いが全て置換された状況下で、その後何が起こったかは二の轍を踏んだとだけいっておこう。

 廻る視界。世界が震撼していた。

 それはもう悲惨なほどに頭や体の各所をぶつけて、とうとう行き着くところまで行き着いた俺は頭痛に魘されるように呟いた。

「……厄日だ、こんちくしょう」

 仰向けで地面に伏し、真っ暗な夜の空を見上げる。

 頭の中がまだ揺れてやがるし、目も回っていて気持ち悪い。どんな悪いことをしてこんな仕打ちを受けているのだろう。……いやまあ、原因は俺なんだが。夕方、どうやら俺はとんでもない外れフラグを立ててしまったらしい。

 眼に映る果てまで全てを埋め尽くす黒い壁面。アクセントのように散りばめられた星の輝きが頭痛の比喩に思えて苦笑する。ありゃなんだ。やまねこ座か? 

「……そんなの見えるわけないじゃない」

 何気ない疑問を否定する声。

 声が「痛たたあ……」と一度聞いたことのある台詞を挟んでから続けた。

「見えても精々北斗七星くらいだよ、この辺だと。だから……うん、あの辺りがおおくま座かな。田舎とかだったら違うんだろうけど。ていうか、やまねこ座なんて肉眼じゃどこ行ったって見えないわよ」

 独白のつもりが口に出ていたようだ。比較的落ち着いた雰囲気の声が俺の言葉を正した。別段本気でいったつもりはないのでそのことについてはなんとも思わないが、問題は声がした位置である。

 頭を起こして声の方向に眼を向けてみれば、案の定。暗闇でも確認できる、ちょうど腹の上くらいに白い顔を発見する。なんだかもう慌てる気にもならない。

「もう……邪魔。さっさとどきなさいよ」

「乗っかってんのはおまえだ」

 落ち着いてるようで、実は内情が錯乱していたりするのか。

「……ふん。今回だけはあんたの口車に乗せられてやるわよ」

「いや、事実だから。俺の言ったこと」

 しかも既に口車には定期券が必要と思えるくらい散々乗ってもらっている。その行き先がこの結果だから、どこかで運転手がストを起こしてくれていたらよかったのに。

 十字に重なる形になっていた状態が解除され、俺とは逆にうつ伏せで倒れていた少女が体を起こす。腕立てに似た運動でバネ仕掛けのように上体を跳ね起こすと、勢い余って尻餅をついていた。

「わざとよ!」

「そうかい」

 言い訳された。知るかよ。

 むぅ、とか唸りながら制服の汚れを払っている少女の姿を眼の端に引っ掛けて俺も立ち上がる。同じ様に制服についた土を手で落として、何気なく首を上空へ向けた。田舎とはいわないまでも、都会というには発展に乏しい街の夜空。天気がよければ星は結構に綺麗に見える。人口の灯りに慣れた人間の眼には映らない天然の輝きが、街灯の支配下から外れることで確認できた。

 なるほど気付かなかった。今日の星空が、意外と綺麗だったことに。

「星に詳しいんだな、おまえ」

 視線をそのままにして、俺が話しかける。

「……まあ、それなりにはね。詳しいってほどじゃないと思うけど」

「好きなのか、天体とか?」

「別に、そういうんじゃない」

 声が途切れて、俺はそこでようやく少女を見た。

 初見で窺えた儚い横顔が星の天蓋に傾き、そして、ぼんやりとした遠い声が――

「――あたしにはただ、それしかなかっただけ」

 憂鬱な、言霊だった。

 かと思えば次の瞬間にはスイッチで切り替えたみたいに表情が変化して、

「ねえ、ちょっと」

 不機嫌と無表情の狭間にある微妙な顔がこちらに向く。挑むようで睨むような瞳が発する鋭い眼差し。星明りの下で輝く眼光が寸分外れることなく俺の眼球を射抜いた。

「……キャッチボールするから。付き合いなさい」

「はあ……? なんだって?」

「キャッチボール!」

 いや、聞こえてる。

「ボールは?」

 問う俺に、ふん、と鼻を鳴らして汚れで黄ばんだ軟球を見せ付ける。

「さっき拾ったの。転がってるときに」

「物凄い反射神経だな。あ、いや、動体視力か?」

 どっちでもいい。

「ていうのは嘘で、今拾ったのよ。ばーか、騙されちゃったー」

「……嘘を吐く意味がまったく解らん」

 本心から意味不明だった。少しだけ楽しそうな表情の訳もまた、一ミリ程度も解せない。

「仕返しよ。仕返し。やられっぱなしは性に合わないから」

「何の仕返しだ。……ああ、なるほど解った。もういい」

 よくよく考えれば先に嘘を吐いたのは俺の方か。しかしながら、俺の吐いた虚実は嘘と呼ぶにもお粗末過ぎる戯言で、こいつのは妙なところでリアリティがありながら欠片も意味のない捏造だ。別にどこでボールを拾ったかなんてどうでもいい。

 俺がなんといっていいやら解らず黙っていると、だから、と沈黙を裂いて少女が声を落とした。

「だから……これで手打ち! 終戦協定よ」

 そういって。

 ボールを握っていない方の手が、俺に差し向けられた。

「なんだ、その手。和解金の要求か?」

「違うわよ! いってんでしょ、終戦協定だって!」

 イマイチ飲み込めないが、とどのつまりこいつは俺に調印行為を求めているらしい。といっても俺は印鑑など持ち合わせていないし、調印すべき書類もない。ならば――状況から判断して俺が取るべき受諾の意思表明は一つだった。

 少女白い手を握る。

 夕方は拒絶されたその行為が、ここに長い過程を経て完了した。

 それにしても滅茶苦茶な遠回りだ。今後は挙動に気をつけようと思う。

「よっと」

 ぐっ、と力の篭る手。体が前のめりになるのを耐えて、その原因が少女が握った手を引いて立ち上がる勢いをつけたことだと知る。合図くらいして欲しい。

「よしっ。それじゃ、あんたあっち行きなさい」

「はい?」

 これはイジメですか。

「はい? じゃないわよ。キャッチボールするっていったでしょ。それともこの至近距離でする気?」

「いや待てよ。俺はそのことについてまで同意したわけじゃねえ。てか、何でそんなことしなくちゃいけないんだ」

「暇だから」

 至極簡潔である。

「じゃあ家帰れよ。とっくに条例に引っ掛かる時間だぞ」

「うるさいなぁ、もう!」

「転用禁止!」

「人のパンツ見といて、それくらいの責任も取れないの?」

 そのことは解決したんじゃないのかよ。

「今度俺のも見せてやるから」

「ほんとに!?」

「見たいのか!?」

「んなわけないでしょ、バカ」

 いいから早く行きなさいよ、と強引に押し切られて遂に観念する。駄目だこいつ。話し合いの通じる相手じゃねえ。

 流石にこの暗がりでは危険を伴うので街灯の当たる舗道に上がる。

 適度に間隔を空けてから振り返って準備完了の合図を送ると、少女は右手から左手にボールを投げつけて感触を確認していた。なんだか様になっている。

「……痛い」

 アホだ。

「オッケー。そんじゃあ早速座りなさい」

「座る? キャッチボールじゃねえのかよ。素手でピッチングは危険だろ。暗いし」

「心配ないわ。肩は十分温まったから」

「俺の心配をしてるんだよ!」

「自分のことしか考えられないなんて……。人として最低ね」

 こいつにだけは言われたくない言葉だ。

「……おまえがそれを言うか。とにかく、投げ込みは禁止だ。マジで危ないから」

 諭す口調で断固拒否すると、ここは珍しく相手の方が折れた。

「解ったわよ」

 この上なく不満を満開にした口調が命令調で言う。

 そういえばこいつは、俺の制服を見て市坂の生徒だと判断しておきながら学年までは解っていないのだろうか。あるいは都合よく気付かないふりをしているか、だ。確信犯ということもありえる。

「そっか。立ってする派か……マニアックね」

「キャッチボールは元来立ってするものだ」

「ん。そう?」

「そうなんです」

「まあ、いいわ。で、あんた前からする派なの? それとも後ろからする派?」

「キャッチボールだよな!?」

 いうまでもなく前者である。

 などなど。そんな会話を二三挟んでからボールの投げ合いが始められる。瞬きくらいの間隔で闇に溶ける白球。灯りの下に現れて姿を曝したそれを難なく掴み取る。予想していた位置との誤差はほとんどない。素手ということもあり掌が少し痺れるように痛む。フォームも綺麗で、コントロールは悪くないし女子にしてはなかなかの球速だった。運動神経がいいらしい。

 手に収まったゴム製のボールを持ち変えて返球。白い放物線が少女のいる光の輪に架かる。

「ねえ、あんた名前は?」

 数回同じやり取りを行い、握りの確認をしている少女に訊かれる。質問後間をおかずに相手が投球フォームに入ったため、返答は放たれた白球を受け取ってからにした。

「人に名前を尋ねるときは、まず自分からじゃねえのか」

 常套句過ぎて、いってから後悔する。無駄に名乗ることを惜しんでいるのか、それとも、俺自身もこの後輩の名前を知りたがっているのだろうか。答えはどうにも見えそうにない。

 俺が投げ返したボールを受け取って少女が応える。

「だったらあんた、先に答えなさいよ」

「『だったら』の用法がおかしい。今の流れをどう解釈すれば、俺が名乗ることになるんだ」

「メンズファーストよ」

「なんだその男性ファッション誌みたいな単語は」

 いってる間に返球が来る。気を抜いていただけに若干慌てた形での捕球になるが、指先が上手く縫い目に引っ掛かって敢えなく落球さずに済んだ。

 見れば、少女はご機嫌斜めに眉を吊り上げてこちらを睨んでいる。その表情はおそらく、俺に対して「うだうだ言ってないでさっさと答えろ」と訴える意思表示だ。どこまで自分勝手なんだろうこいつは。

 やれやれ。この一言に尽きる心境で、俺は握り直したボールを放った。

「紘井律――おまえは?」

 意図せず力の入る肩。振り下ろした腕は今までより勢いよく、当然球速も上がるのだが、少女は何事もない様子で難なく捕球に成功する。それも利き手の方向にコントロールミスしたのを逆手で。なんとなく何かに負けた気がして暗澹とした。胸を満たす謎の敗北感に息を吐く。

「あたしは――」

 キャッチしてから投球モーションに移行するまでが今までよりも早い。

 興が乗ってきたとかそんな理由からか、フォームもさっきまでと比べて随分本格的で心なし脚も高く上がってやがる。

 そして。

 指先を離れたボールは思った通り勢い五割増しで、受け止めた俺の掌がゴムに打たれて実に悲痛な音を響かせた。

 痛みを気取られないように努めつつ見据える先は闇に立つ長い黒髪の少女。

「あたしは――」

 その表情に張り付いた、固く閉ざされた不機嫌が氷解して、

「――朱空末那。よろしく、律」

 思えばそれが、俺がはじめて見た少女――朱空末那の笑顔だったと思う。夜空の下で、月にも負けじと輝く太陽みたいな明るい笑顔。

 俺はそれを忘れてしまわないように。

 なくしてしまわないように、消え入りそうに綺麗な輝きを記憶に焼き付けた。

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