コーヒーとケーキ
縋りつくようなオムを宥めつつ、ネウはカウンター席に案内すると、自身はカウンター横の階段を上がり奥のキッチンに入る。
まずポットで湯を温めコーヒーを入れ、次にきつね色をした長方形のスポンジケーキを戸棚から取り出し皿に盛った。
そして、その二つを盆に載せオムの前に差し出す。
「まずは特製コーヒーと疲れた身体に甘い百年ケーキを召し上がれ。」
百年ケーキとは崩壊前に製造されたにも関わらず、現在でも美味しく食べられる不思議なケーキである。
「特製っていつものとなんか違うの?」
「一口飲んでみれば違いが・・・オムにわかるかな?」
ネウは自信有りげに言い出すが、すぐにトーンダウンした。
「おい。」
「ま、まあ、とりあえず飲んでみてよ。」
笑顔で誤魔化しながらオムにコーヒーを勧める。
「あ、ああ・・・」
ネウに押し切られ、オムは注意深くコーヒーを一口飲んだ。
「うん?なんかいつもより香ばしくて、味に奥行きがある・・・!」
「お、わかったか。」
嬉しそうにネウが目を見開く。
「いつもと明らかに違うからこれはわかる。何か変えたの?」
「ふっふっふ・・・行商人が本物を持ってきたんよ。」
ネウはニヤリとしてカウンター下から茶色い粉末の入った瓶をちらりと見せた。
この店で出されるコーヒーは、パンの焦げ目や植物の根を使った代用品が主であり、この世界において生産する術のない本物のコーヒーは貴重品である。
「マジか・・・。高かったんじゃない?」
「値は張ったけど、贔屓にしてる行商人だったから多少はね・・・」
そう話しながらネウは含み笑いをした。
「基本は特別料金で出すけど、オムみたいな一部の常連には通常価格でご奉仕させていただきます。」
両手の肉球を上下に合わせ、ムニムニとやり商人がよくやるポーズを取る。
「ありがたいね。」
ケーキと一緒にコーヒーをズズッとやりながらオムは礼を言った。
「それじゃ、メインを作るからごゆっくり〜。」