おもしろくないからだ
今日も真っ黒です(^^;)
第3営業部のやらかし(談合摘発)で5年前の交際費の領収書まで社内調査の対象となり、当時、経費関係を担当していた私が、倉庫部屋へ行かされた。
部屋の中の経理部の棚回りは書類の詰まった段ボールがうず高く積まれていて、ちょっとでも何かに触れると、埃が髪や水色の制服に舞い落ちて、ただでさえサイズの合わない制服を着ている私をよりみすぼらしくさせた。
ガシャッ!とドアが開いて誰かが話しながら入って来る……
「~らいさんだって?! 経理部の??」
ドキン!として聞き耳を立てる。
「なんだ、知ってるのか?」
「当たり前だろ!『御手洗』って名前だけはインパクトあるからな!」
間違いない!! 男性ふたりが話題にしているのは、この私だ!!
そしてその内容はきっと“嘲弄”……
「お前なあ! いくら自分がひょろっとしてるからって!あんなのは論外!! 知ってるか? アイツ3年前は“丸っころ”だったんだぜ!! 『痩せれば美しくなれる』って勘違いして無茶苦茶なダイエットしたに決まってる! あーいうのを“面白くないカラダ”って言うんだよ!! っと!バカだよなー」
男の……容赦ない言葉は私の胸を抉り、漏れ出そうになる嗚咽をマスクで押さえて止める。
確かに!!以前の私はふくよかを通り越したただのデブだった。男の子にモテるなんて勿論なかったし、カレシのカの字も居たためしはない。そんなのは私には無縁の事と端から諦めていたのだけど……
忘れもしない、あの“夏の日の通勤電車”……私の隣に少しだけ空いていた隙間に強引に座り込んで来た“油っぽい”オヤジと二の腕同士がくっ付いてしまった。
そしたらこのオヤジ! ヨレヨレのハンカチを出して私にぶつかった二の腕を拭った。
それだけでは無い! 私のスマホを覗き込んで、耽美系のマンガを読んでいた私の事を鼻で笑ったのだ!!
ここまでバカにされて怒りが湧かない訳が無い!!
私は怒りに押されて何度も断食を繰り返し、ついに手に入れた“今の体重を“リバウンド”する事なく維持し続けている。
それを“面白くないカラダ”だなんて!!
けれども男は更に追い打ちを掛ける。
「きっとケツとか“メロン”みたく酷い肉割れでさ!メロンなら食べれば甘いけど……あんなの抱いても洗濯板だし、ヤッても骨が刺さって痛いだけだぜ!!」
「そんな発言!聞かれらそれこそお前が刺されるぜ!」
まだ何か言いたそうな男の話をもう一人が遮って、二人は部屋を出て行った。
残された私は……
あの“電車の中”と同じ様に
怒っていい筈なのに!!
怒りが湧いて来ない
ただ
茫然としていた……
『面白くないカラダ』なんて蔑まれるのは
私が『面白くないからだ』
美しくはなくても……皆から好かれている女性は少なからず居るのだから。
私、思わず埃っぽい床に膝をついていた。
ああ、汚れちゃったかな……
よろよろと立ち上がって汚れをチェックしようとしたら、またガチャン!とドアを開ける音がしてバチン!と明りが消された。
「えっ?!!」
思わず出てしまった声に……
「あー!やっぱりまだ居た」と反応された。
「ごめんねー連れが酷い事言って」
さっきの……窘めた方の男の声だ!!
何が何だか判断がつかず私は声が出せない。
だって!明りは消されたままだし
あ! ぼわーと光が……スマホのライト??
「かくれんぼ? 就業時間中にマズくない?」
私の中にさっきと別の緊張が走る。
「御手洗さ~ん! 出て来なよ」
多分、男はドアの近くだ。 今の状態じゃ逃げられない。どうしよう……
「仕方ないなあ~かくれんぼ付き合うよ12345678910!!」
素早いカウントダウンと共にスマホの明かりと物音が近付いて来る。
私はそれをかわすように忍び足で棚と棚の隙間を抜け、辿り着いたドアノブを回した。
開かない??!!
その瞬間!ワニッ!と足首を掴まれた。
「邪魔が入らない様に鍵閉めてるよ」
私は過呼吸になったみたいで「ヒィーッ!!」と叫ぶ声もかすれている。
「あああ~こんなに綺麗な足首なのにサンダルはやめようよ」
変態だ!!
この男!
間違いなく変態だ!!
私が“フリーズ”しているのをいいことに、この変態はオフィススリッパを脱がせ私のストッキングの足を自分の額に押しいだき、つま先をさらさらの髪の上に置いた。
その瞬間、私の怒りは弾け、この変態をグリグリと踏み付けた。
“害虫潰し”の筈なのに!!
コイツが呻くとゾクゾクする!!
それは私がおかしくなったからじゃない!!
きっと私を取り巻く現状が
余りにも面白くないからだ
終わり
タイトルから連想しているうちになんだかこういう結末になってしまいました(^^;)
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