表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

行き止まりの向こう側

作者: まる

お盆の時期なので書いてみました。

お母さんと、僕との2人でお盆のための買い物にいったんだ。


その帰り道、変な貼り紙を見つけた。


お母さん、あの道の先は行き止まりなのに、

「歩道を歩きましょう」なんて貼ってあるよ、変じゃないかなあ、と僕が言う。


あら、そんな事ないわよ、とお母さん。


どうしてさ、僕は尋ねた。

行き止まりなのに、「歩道を歩きましょう」だよ。変じゃないかなあ。


しかも、わざわざ、貼り紙は手書きで目立つように貼ってあるよ。


僕が尋ねると、

お母さんはくすくす笑った。

もう八月だからねえ。

お盆の時期でしょう。


あの向こうには、私たちには見えない道があるんだよ。


お盆の時期になると迎え火を焚くでしょう。その火を目指して、ご先祖さま達がやって来るのよ。


そんなわけで、八月になると、

ここら辺りの道路がね、

みんなのご先祖様たちで、

わんさかいっぱいになってしまうのよ。


ご先祖様たちの大渋滞よ。

よく、昔から、きゅうりの馬にのってお家に帰る、茄子の牛に乗ってあの世に帰ると言われているでしょう。


あれ、ここだけの話、

今ではそんなにお役に立ってないようなのよ。


この頃のご先祖様達は、お盆の直前に、

神様の使いの方から馬や牛の乗り方を教えて貰うそうなんだけれど、乗り慣れていないから、

結構な確率で落馬するそうなのよ。


だってねえ、

考えてもご覧なさいよ。

昔の人達は馬や牛に乗っていたかもしれないけれど、今ではどれぐらいの人達が乗れるのかしら。


きっと乗馬部出身とか競馬の選手ぐらいよねえ。

もちろん、お母さんも乗ったことないわ。


そこら辺、あの世の偉い方々も考えて欲しいわよね。

きっと偉い方々も宗派とかあるから、

色んな意見があって、

お話が纏まらないのかもしれないわねえ。


そういうところは、

あの世もこちらの世界も

同じようなものなのかしらねえ。


お話を元に戻すのだけれども、

馬や牛に、もう乗るのは諦めて、

私たちと同じように歩いて帰るご先祖様もいるそうよ。


たとえ、馬や牛に乗れたとしても、

うまく操れなくて

道路にうっかり飛び出しちゃうご先祖様もいるそうよ。


そうすると走っている車にぶつかっちゃうの。


運転している人は見えないのだけれど、気配は感じるのよ。なんとなく気持ちが何か落ち着かなくて、何も見えていないのに、何もないのにね、

人とぶつかった感覚だけが残るらしいのよ。


運転している人、お気の毒でしょう。


ご先祖様も亡くなっているから、

車にぶつかっても大丈夫に思うかもしれないけれど、骨折はするそうなのよ。


そうすると、早く歩けなくて、

お家に帰るのに時間がかかってしまうのよ。


きゅうりや茄子の馬や牛も、

車にぶつかるそうなんだけれど、

その瞬間に元の形に戻るから怪我はしないそうよ。


まるでシンデレラの魔法が解けたカボチャみたいね。


そして、もしご先祖様が歩いて帰る場合、

きゅうりやなすは馬や牛になるのだけれど、

付き添って歩くんですって。


あらあら、話が逸れちゃった。

あの目印はね、

歩道はこちらですよーってお知らせしているのよ。


そのための「歩道を歩きましょう」なのよ。


分かりやすいでしょう。


ふーん。お母さん、詳しいんだねえ。

知らなかったよ。


そういうと、母はにんまりした。


あのね、去年、

おじいちゃんから聞いたのよ。


去年はきゅうりの馬にうまく乗れなくて、

落馬して車にぶつかってしまい、

うっかり骨折したから、

帰るのが遅くなってしまった。


初盆だから気が急いてしまい、

却って散々な目に遭った。


車を運転している人にも悪いことをしたって。


そこで、慌てておじいちゃんも、

運転していた人にお詫びをしたら、

びっくり仰天されて、

その人ったら、

腰を抜かしちゃったんだって。


おじいちゃんは、気遣ったつもりが、

却って余計なことしちゃった、

って言ってたわ。


まあ、腰も抜かすわよねえ。


そんな訳で、

今年はきゅうりの馬さんと、

てくてく歩いて帰るから、

うっかり間違えて、

道路に飛び出さないように、

何か目印になる貼り紙をしておくれって、忘れないからって、お願いされたのよ。


おばあちゃんにも相談して決めたのよ。


そんなわけでね、

八月になったから、

私が手書きで張り紙をあの場所に貼ったのよ。

おじいちゃんに頼まれちゃったからね。


えー、あれ、お母さんが貼ったんだ!


僕も腰を抜かしちゃうところだった。


僕のおじいちゃんは去年が初盆だったんだ。

おばあちゃんがおじいちゃんの帰りが遅いなあって心配してた。


夫婦だからなのかなあ、

家族だからなのかなあ、

帰って来るのが分かるんだね。


そんな事があったのかあ。

知らなかった。


そうかあ、ご先祖様達は一年に一度帰るのが楽しみなんだね。準備万端にしないとね。


それじゃあ、

きっと今年は貼り紙の注意書きがあるから、

うっかり道路に出ないで、

真っ直ぐ歩道を歩いて帰ってこられるね。

僕、迎えに行くよ。


きゅうりや茄子の代わりに、プラモデルのとびきりカッコいい車も用意しておくよ。車はどうかな。動くのかな。


その時、ふわっ〜、

風がそよそよしたんだ。

きっと、ありがとう、分かったよって、

おじいちゃんからの合図だ。


僕も感じたよ!

意識すれば、いつでもそばにいるんだね。

いつでも見守ってくれているんだ。


そう言ったら、お母さんはニコニコしていた。


あ、きゅうりや茄子も用意しておくよ。

おじいちゃん以外のご先祖様もきっと帰ってくるものね。


おじいちゃん、ご先祖様たち、

待ってるよ。


皆さんのご先祖様もね。

ご先祖様を大切に思う心がありますように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ