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ブーケのようなご褒美を  作者: 津々井サクラ
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ヒーロー?

 こんな日くらいお店を閉じても良かったのだが、お花はそんな事情は知らないしお客さんも知らない。わざわざ知って来てくれているのに、お店が閉まってたなんて悲しいことはない。お花のお世話も私がしなくては誰もしてくれない。

 苦しくて気を抜くと今日見た夢がフラッシュバックする。何も考えないように、いつも通りお客さんを接客して、合間でサシェを作る。だんだん上手くなってきたと思う。そろそろレース布で縫ってみよう。

 私は戸棚に入れてあったレース布を取り出した。そっと布を撫でる。

「おばあちゃん…」

 私を地獄から救い出してくれたのはおばあちゃんだった。おばあちゃんの形見は私にとってのお守り。きっとこのサシェも、頭に付いたすみれ色のリボンも。私を守ってくれる。

「大丈夫」

「何が大丈夫なん?」

 レース布から顔を上げると一星さんが不思議そうな顔をして立っていた。

「あ、一星さん。いらっしゃい。何お飲みになりますか?」

「んじゃ、すみれちゃんのオススメで」

「分かりました」

 今日はルフナで入れるロイヤルミルクティーだった。

 なんとなく自分でもホッとしたかったのかもしれない。お鍋で牛乳に茶葉を入れてゆっくりと沸騰させる。ロイヤルミルクティーは時間がかかるが味わいが濃くなって好きなのだ。

「で、何が大丈夫なん?なんかあった?」

 いつもは私がお茶を入れている時は何も喋らない一星さんが喋りかけてきた。お鍋から一星さんに視線を移すと、想像よりもずっと優しい顔をしていた。

「夢を見たんです」

 そんな一星さんの顔を見たら自然と言葉が漏れていた。

「どんな?」

 一星さんは馬鹿にすることなく更に聞いてきてくれる。

 でも、言葉にするのは憚られた。こんな話、誰が聞きたいだろうか。私が考えている間も私の言葉を待ってくれている。

 私は一星さんにロイヤルミルクティーをお出しして、隣に座った。顔を見ていたら何かが溢れてしまいそうだったから。 

 幸い、一星さんが来たのはもう閉店時間近く。もう誰かが来ることはないだろう。

「このカフェを開く前の夢を見たんです」

 きっとこの話は長くなる。そう思って自分用にロイヤルミルクティーを入れた。入れ終わってからもう一度一星さんの隣に座ってポツポツと自分の昔話をした。


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