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ブーケのようなご褒美を  作者: 津々井サクラ
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お墓参り

「やっと着いた…」

 午後一にお店を後にして霊園にたどり着いたのはもうすぐ二時になるくらいの時間だった。滴り落ちる汗を拭きながらおばあちゃんのお墓を目指す。こじんまりとした霊園でここからおばあちゃんのお墓まではそう遠くない。

 おばあちゃんのお墓が見えた時そこの前に家族がいて、どう見てもおばあちゃんのお墓に手を合わせていた。

 私の足は根っこが生えたみたいに動かない。

 母親だ。遠くても分かる。

 やはり再婚相手との間に子供が出来たみたいだ。見る限り小学生くらいだろうか。少し私と似ている。反抗期なのか両親が手を合わせていても手を合わせようとしない。

 そんなことよりも私はこの家族が午後にお墓参りに来ている事に驚いた。前に午前中に来た時ちょうど鉢合わせてしまったのだ。私は急いで逃げたから顔は合わせていない。それ以降午前中に母親たちが来るなら、私は午後にしようと決めて暑い中えっちらおっちら歩いて来ているのだ。

 午後に来ているならこの暑い中歩いた意味がない。ため息が漏れる。

 用事が済んだのか、母親たちはお墓を去っていった。今回もバレることはなかった。

「久しぶり。楽しく過ごしてる?」

 私はまずおばあちゃんに語りかけた。お店の話から、柳じいさんの話、キヨさんの話、お花の話。

 これが私なりのお墓参り。まずはおばあちゃんとおしゃべりする。幸いなことに、母親たちが周囲を綺麗にしてくれていたおかげで、縁に腰掛けることが出来た。

 きっと無礼な行為だろう。こんなことしちゃいけないのは分かっているがこうして腰掛けて話すと縁側でおばあちゃんと色んな話をした時の事を思い出すのだ。

 ひと通り話し終わってから墓石を綺麗にする。母親たちがやってくれたのか墓石本体にはそこまで目立った汚れはない。

 けど、周囲には雑草がたくさん生えている。それを引き抜く所から始めようか。

 雑草を引き抜きながらも口は止まらない。おばあちゃんには聞いて欲しい話がたくさんあるのだ。傍から見たら変な人。雑草抜きながら独り言話してるんだから。たまに通る他のお墓参りに来た人がちらちらと見てくるがお構いなし。

「よし、あらかた終わったかな」

 ようやく自分が納得するところまで雑草を抜くことが出来た。駅で買ったお茶を口にする。もうすでに温くなっているがずっと喋り続けた喉には温くてもなんでも良かった。おばあちゃんも「よくしゃべるねぇ」って言ってるみたいだった。

「そうだ、ポプリ作ったんだよ」

 一番の目的と言っても過言ではないポプリをお墓の前に置いた。ゼラニウムの香りがふんわりと周囲に漂う。風で飛んで行ってしまわないように隙間に置いて、またおしゃべりを再開する。

 あとやることはお花を入れてお線香を上げること。すでにお花を入れる所には母親たちが入れた仏花が入っている。少ししおれている。きっとお花屋さんが早く捌きたいからすでに開ききったお花を包んだのだろう。

 私はそれを引き抜いてスターチスを入れた。おばあちゃんは紫が好きなのだ。一般的な菊等が入っている仏花より、こっちの方が似合ってる。実の母親のことなのにまったく何にも分かっていない母親に呆れた。

 あとはお線香をあげて手を合わせてお終い。ここでは声を出さないのが私なりの流儀。ここはおばあちゃんの近くにいるであろう神様におばあちゃんをよろしくお願いします、とお願いしているのだ。だから声は出さない。

 十分にお願いしたらこれにて毎年恒例のお墓参りは終了。また、来年来るね、と呟いた。

 霊園から出る前に私は手に持った仏花をゴミ箱に投げ捨てた。センスの悪い花を持ってこないで欲しい。

 菊のことも花のことも何にも分かっていない。ただ、仏花だからという理由で持ってこられた花が可哀そうだし、おばあちゃんのことを特に何にも思っていなくてただの行事になっているのがにじみ出ていて、反吐が出る。

「ほんっとに気持ち悪い」

 私は日が落ちかけている中、霊園を後にした。


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