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ブーケのようなご褒美を  作者: 津々井サクラ
11/31

大丈夫

「キヨさんはここでカフェをすることを提案してくれたんです。それで私は今ここにいます」

 私の長くて支離滅裂な話を一星さんはずっと聞いてくれていた。時間を見ればもうとっくにお店を閉める時間を過ぎている。看板をしまいに行こう。勘違いしてお客さんが来てしまうかもしれない。

 私は一星さんに断りを入れて看板だけしまいに階段を降りた。

 看板を持って戻ると一星さんがお店に迎え入れてくれた。

「ありがとうございま…」

「俺は大丈夫?」

 一星さんが被せて聞いてきた。いつもみたいに一星さんを見上げようとしたけど、そこに一星さんの顔はなくて、一星さんは腰を屈めて私に目線を合わせてくれていた。

「俺は怖くない?」

 一星さんの顔には複雑な感情が浮かんでいた。心配と同情と、それから自分が怖がられていないかの不安。そんな顔一星さんに似合わない。一星さんには優しく微笑んでいて欲しいのだ。

「一星さんは、怖くないです。大丈夫」

 今日ずっと言い続けた、『大丈夫』。今ようやくそれが本当になった。

「そうか、良かった」

 一星さんの顔が安堵に変わる。そして優しいいつもの笑顔を浮かべた。

「今までよぅ頑張ったな」

 ぐしゃっと頭を撫でられる。その手に父親や上司のような冷たさは一切なかった。むしろ花のように優しくて、さっき飲んだロイヤルミルクティーのように温かかった。

 その手が私の頬に移る。そこで自分が泣いていることに気が付いた。

 昔のことを思い出して泣くなんて子供じゃあるまいし。なんて思ったけど目の前で、優しい顔で一星さんが微笑むから涙を止めることが出来ない。

 そんな私の心境を知ってか知らずか、一星さんは

「ええよ、もっと泣き。こんなに頑張って耐えて来たんやから、ちょっと泣いたくらいじゃ神様も怒らんよ」

 と言葉をかけてきた。

 あぁ、なんでこの人はこんなにも優しいのだろうか。なんでこんなにも温かいのだろうか。私はそこから頭が痛くなるほど泣いた。

 苦しかった。なんで自分がって思っていた。消えてしまいたかった。

 でも出来なかった。消えるのが怖かった。それもある。けどいつかおばあちゃんのように自分を温めてくれる存在が現れてくれるのではないかと思っていた。だから消えられなかった。私は許されたかったのではない。私は誰かに認めて欲しかったのだ。頑張ったねって。泣いていいよって。

 でもそんなことを許してくれる人はいなかった。そんな事を求めたらきっとまた何か代償が来る。そう思っていた。だから必死に謝って『大丈夫』と隠した。

 それをいとも簡単に一星さんは飛び越えてきた。嬉しかった。それと同時に私の周りにはあんなにもたくさんの私の幸せを願ってくれる人がいるのにそれに気が付かなかった自分に腹が立った。

 感情がぐちゃぐちゃにかき乱される。でも、全部一星さんが受け止めてくれる。

 声にならない声が漏れだして、言葉じゃない言葉が飛び出しても一星さんは黙ったままだった。

 ブルーレースフラワーの花言葉を思い出した。こんなにも『無言の愛』が私に届いている。こんなにも受け取って良いんだろうかと卑下する自分を、一星さんの愛が良いんだよといった声がした気がした。


「泣き止んだ?」

「あたまいたい…」

「ふはっ!それが言えるんやったら元気やね」

 どれくらい泣いていたのか見当も付かないくらいに泣いた。

 あ〜あ、きっと明日目が腫れるんだろうな、なんて思ったと同時に、一星さんはこんな時間までいて大丈夫なのか心配になった。

「あの、」

「あ〜時間なら大丈夫やで。明日夕方からなんよ」

 ビックリした。この人は本当は超能力者で人の心が読めるのではないだろうか。

「なんで分かったん、って顔してるな。すみれちゃん気が付いてないかもやけど、かなり顔に出てるで」

 ぱっと手で顔を覆った。そんなに分かりやすかっただろうか。

「他の事が考えられるようになるくらい元気になったなら良かったわ。ちゃんと目冷やしたりするんやで」

 一星さんはもう一度私の頭に手を置いてポンポンとしてから「ごちそうさん」と言いながらお店を出た。

 私は一星さんの優しさ、安心感を心にかみしめてじんわりと温かいぬくもりを思い出した。

「おばあちゃん、私幸せを諦めなくてもいいのかな?」

 ぽつりと零れた独り言におばあちゃんが「大丈夫」と答えてくれた気がした。


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