はじまり
何時もより重い瞼を開けると、そこは見慣れた天井ではなく、薄暗い森のような場所だった。
何だ、夢か……昨日はさすがに無理しすぎたしな……
最近の俺はずっと勉強漬けだった。母さんが亡くなってから、俺はがむしゃらに努力してきた。絶対に成功して、俺の力で社会のトップに立つ——そう誓った。東大に入り、政治家か起業家になる。それが俺の目標だ。
だからこそ、睡眠時間を削ってでも勉強を続けた。昨日も遅くまで机に向かっていたし、そのせいでこんな変な夢を見ているのかもしれない。
夢を見るなんて、何時ぶりだろうか。しかも明晰夢とは珍しい。
このまま夢の世界を楽しむのも悪くないが、期末試験を目前に控えてそんなことをしている場合ではない。
俺は夢の世界に終わりを告げ、目を再び閉じる。
なんだ? どういう状況だ?
あれから何度も目を閉じたが、一向に夢から覚めることができない。それどころか、何度も夢の中で目覚めている。
よっぽど疲れているのか?
とりあえず、ゆっくりとあたりを見回してみる。
まだ夜明け前だろうか。薄暗くてよく見えないが、俺は倒れているようだ。視点が低く、周りの木々はどれも背が高く見えた。
立ち上がろうと腕を動かそうとしたが、腕に力が入らない。
それどころか、腕の感覚自体がない。腕だけではない。足も、胴も、何もかもが消えたような感覚。動かせるのは首だけだった。
見渡す限りの木々。ここはどこかの森なのだろうか? 確か、夢は自分が見たことのある景色しか見られないと聞いたことがあるが、思い当たる記憶はない。テレビで見たのかもしれない。
いや、そもそもこれは本当に夢なのか?
そんな疑念が頭をよぎるが、まだ完全に疑う気にはなれなかった。俺は夢から覚めるのをのんびりと待っていた。
おかしい。何かがおかしい。
夢の中でかれこれ数時間ほど過ごしているが、状況は一向に変わらない。動くこともできず、ただ周りを見ることしかできない。
暗闇に目が慣れてきたのか、それとも太陽が昇り始めたのか、少しずつ周囲が明るくなってきた。それでも、景色は相変わらず薄暗い森のままだ。しかし、さっきよりは格段に周囲が見えやすくなった。
森というより、ジャングルに近い。時々聞こえてくる奇妙な鳴き声が、それを物語っている。見たことのない植物ばかりが生い茂り、何よりすべてが大きい。周囲に生えている草も、木も、何もかもが巨大だった。
突拍子もない夢だな……とはいえ、動けず、声も出せない。退屈極まりない。
……いや、待てよ。普通の夢でこんなに長く意識が続くものなのか?
一体、この夢はいつまで続くのだろうか。そう思いながら、再び目を閉じた。
大きな音に目が覚めた。
ガサガサと、大きなビニール袋を踏むような音が聞こえる。
目を覚ましても、やはり夢の中。その事実に、俺は落胆した。
……目が覚めても? 夢の中で寝ていたのか?
やはりおかしい。これは普通の夢ではない。
じわじわと恐怖が胸に広がる。
その時、また大きな音が聞こえた。
音はどんどんこちらへ近づいてくる。
何かが来る!
ふと音の方を見ると、そこには家ほどの大きさの蟻のような昆虫が、頭上を通り過ぎていった。
うわぁぁぁ!! なんだあれ!? でかい、でかすぎる! キモい、怖い!!
頭がパニックになりながらも、視界の端に薄緑色のものが見えた。
なんだろう? そう思い、目を向ける。
そこには、柔らかそうな新芽の葉っぱが揺れていた。
その瞬間、俺は本能的に理解してしまった。
この弱々しく、風が吹けば飛んでいってしまいそうな新芽が——自分自身であることに。
そして、これが夢ではないことに。