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作者: くうる

 私は今までに桜を綺麗だと思った事が無い。移動中等に満開のそれを見掛けても特に何も感じた事は無く、それを目にした事で心が動いた経験は、新年度による環境の変化を思って胃が痛くなった事位である。故に花見などという行事は大人が酒を飲む口実の為だけに存在している文化だと思っているし、その酒を飲むという事にも否定的である私にはその文化もまるで理解し難いものである。

 その上、桜という花は咲いている期間がやたら短く、散った後の花びらの掃除に掛かる莫大な費用を考えれば、仮にそれが大多数にとって美しい物だとしても、そんな物をわざわざ有難がってそこら中に埋めている事には常々疑問を抱かずにはいられなかった。

 夏になればその幹には大量の毛虫が湧き、それを駆除する事にもまた多額の費用が掛かる。晩秋にはその葉の全てを散らし、その清掃も当然ながら有償で行われる。それでなくとも街路樹の維持には多少なり費用が掛かるであろうに、一年でも僅かな時期にしか用を成さない桜という樹木を、何故世の皆がそれ程までに有難がっているのか。

 その様な疑問を常々胸に抱いて生きて来た私であったが、今日、私は初めてそれを綺麗だと思った。既に盛りを過ぎて緑の葉と混じり合い、刻一刻と花びらが散って行くその光景を、生まれて初めて美しいと感じる事が出来た。そうなった理由は私にも分からなかったが、私はその光景を暫しの間ただ眺めていた。

 やがて時と共にその感動も薄くなり、その行為にも飽いた私がその場を去ろうとした時、私は自らの頬が濡れている事に気が付いた。それがその光景への単純な感動によるものなのか、それともこれまでの自身の感覚が自らによって否定された事への悔しさ故のものなのか、或いは単に瞬きを忘れていた事で目が乾いてしまっただけなのか。それはやはり私自身にも分からなかったが、その時の私にはその濡れた箇所が何故か温かく感じられていた。

念の為に書いておくが、作者の実体験という訳ではない

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