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9.衝撃に巻き込まれ

サージャの申し出を受け入れたニュールは…案内に従い商会長室へ赴く、そして…其の最奥…サージャの執務机横にある扉まで進む。


「それじゃあ、此処の応接室を使おう。…あぁ、僕も是非…其の御方のお話を聞かせて頂きたいので…まずは御挨拶でもさせて頂こうかな」


そう告げて…商会長専用の特別な応接室に二人を導くと、サージャはフレイリアルの前で大きく優雅な動作で片膝付き…恭しく頭を垂れ改まり申し述べる。


「この度は第六王女フレイリアル・レクス・リトス様のご尊顔拝し奉り、恐悦至極にございます。私…サージャ・ナルキッシュと申し、此のナルキサ商会の商会長を務めさせて頂いております。一応このニュールを雇い入れる者として、御挨拶申し上げます。今回お目通り叶いました事、僥倖であります」


サージャの挨拶にニュールは動揺した。


『えっ? 王女? 女の子?? レクスって王位継承権のある王族の称号だ…ってぇえっ?』


今まで王城関係と言っても末端血族の子供だろうと高を括っていた上に、予想外の女子判明。ニュールは椅子の横に立ったまま固まり、頭の中は混乱に陥り…怒りも吹き飛ぶと言った様子。

一方…サージャに挨拶されたフレイリアルは、儀礼に従いフードを外し手を差し出し…粛々と挨拶を受ける。公式な礼儀に則った仕草は、ずたぼろマントのままでも高貴な雰囲気を漂わせ…今までの子供とは違う者に見えた。


全員着席してはみたのだが、重々しい無言の時と空間が広がる。

沈黙を破り…最初に口を切ったのは、フレイリアルだった。


「説明…するね」


正面に座ったニュールに向かい、今までと同じ口調で語り始める。


「名前や肩書きは省くけど、何でこんな騙すみたいに巻き込んでしまったのか…を話すね。あの場所で…、王宮で生まれ…育った…のは本当だよ。だけど見た目が…色合いが…みんなと違うせいで、昔から森の民との《取り替え子》って言われてきた…」


森の民。

エリミアでは、樹海側結界…境界壁の外…樹海の中に住む人々を指し示す。


"樹海" と言う領域は、エリミアとサルトゥスに半分ずつ所属する。

一部とは言え、歴とした国の内。

だが其処は、全くの "別世界" であるとエリミアでは言われてきた。

実際に結界外…境界壁外側の魔物は、残忍で未知の存在も多く…だからこそ結界内に住むエリミアの民は樹海を忌避する。

更に其処に住む森の民は…黒い髪の琥珀魔石色の肌を持つ人々が主で、エリミアの砂色の髪や瞳とは完全に異なり…畏怖の対象とされた。

其の上…エリミアの外縁部に住まう種族だと言うのに、境界壁内で類似した色合い持つ者は…皆無。


混血しても…エリミアの血が勝つとか…生まれても弱くて育たない…等の説が表立つが、真実は…生まれた者を境界壁の外へ処分している。

其れは此の地での、暗黙の了解。

何が原因か…いつから行われているか…何1つ気にされない、根深く残る因習。


だからこそ…フレイリアルが持つ色合いへの風当たりは強く、此の国の…エリミアの人々より劣る存在であるくせに生き残ってる樹海側に近しき者…と聞こえよがしに囁かれ…蔑みの言葉浴びせられながら過ごしてきた。


第六王女であるのに継承順位が4位なのは、諸事情とは関係なく…単純に上の王女達が結婚して籍を他国へ移し、継承権を返上しているため。

だがフレイリアルを見た目だけで拒絶する者も多く、色々と難癖付け継承権剥奪を狙い動く者もある。

一連の噂も…其の者達が流したと思われ、今回もあわよくば亡き者に…と画策する過激な王城関係者さえ居るようだ。


王城外に流された《取り替え子》の姫君の恐ろしい物語、口々に語られ…娯楽の一つと面白おかしく脚色され…尾ひれを付けて広まっていく。


《取り替え子》は忌むべき森の民、偽物の姫君。

近付けば、魔力奪われ…呪われる。


フレイリアルは王城に閉じ籠り、ただ目立たず人目に触れず生活していただけ。

其れなのに…悪意ある者に勝手に撒き散らされた法螺話は自由気ままに駆け巡り、フレイリアルが存在出来る場所を奪う。

事実無根であっても、広まった噂は根付き…花が咲く…。

フレイリアルに手を差し伸べる者は、王城にも…街にも…居なくなった。


「…私は…絶対手に入れなきゃならない。…解放に…必要な…力ある天輝石を探しに行くため、自由が必要なの。だけど…決して他の誰かの自由を、奪いたい訳では…ない」


大体の経緯を話し終え、最期にフレイリアルは自分の希望を小さく呟く。


「私には…守護者が…必要なの…」


切実な思い込められた呟きを…ニュールは冷淡に処理し、自身の疑問解消すべく…問い掛ける。


「理由は納得した。…だが、何で俺が内包者(インクルージョン)だと判ったんだ?」


「荒れ地でニュールが探索魔力を広げた時。魔力を受け気付いて、砦門で手紙を渡して握手する時に…確認したの…」


今までの説明で、ニュールがフレイリアルに抱いた嫌悪と不審感は幾分か和らぎはしたが…完全に消せるものではない。

自身の素性が一部が丸裸であった事も判明し、ニュールは今の自分が迂闊で甘い…と言う事実を再度突き付けられた。

ある意味…自業自得…自身の落ち度と感じ、ニュールは…己を戒める。


横の椅子でユルリと腰掛け…静かに耳を傾けていたサージャが、2人での遣り取りが一通り片が付いたと判断したのか…商談用の笑顔で声を掛けてきた。


「多分…王女様も此の選任の儀での守護者選びについては、知ってても知らない事が多いと思うんだ。特に…今回の儀式に伴い選ばれる、留学生と言う名目で差し出す…人質について」


突然口を開いたサージャに驚きつつも、反射的に注目する2人。

遮る事無く、耳を傾ける。


「詳しくは知らないでしょ? だから僕が知ってる範囲で教えてあげるよ」


冷静さ取り戻したニュールは、此の親切なサージャの申し出に思わずおののく。

受け入れざるを得ないのだが、与えられる情報の対価…其れが高額にならない事を只々願う。


「エリミアの商会連盟の会合で、通達があったんだ」


サージャは笑顔で、すらすらと状況を語り始める。


「ニュールにはさっき広場で少し伝えたんだけどね、儀式への参加者は17名。留学先は、近隣の7か国。今回継承権を持つのは、王女様だけだよ。だけど例え王女様であっても、順位が下位ならば留学組」


サージャは片眼を瞑り…愛嬌振り撒きつつ間を置き、理解を促す。


「だからこそ…王女様を留学組に入るよう仕向け、尚且つ自身は残留して継承権に手を伸ばそうとする子達が居るんだ。王女様が留学しちゃえば、継承権が転がり込む可能性…無きにしも非ずだからね」


今度は少し真剣な表情で…二人の顔を順番に見つめ、サージャは言葉続ける。


「特に今回の参加者達は、次点…と言う感じで継承権に手が届かなかった…微妙な立ち位置の子が多いんだ。だから激しい遣り合いになるのは、必然…だよね」


そして…少し力抜き、今度は条件について告げる。


「王家の人達は皆、守護魔石を持っているでしょ? 今回は各参加者が持っているそれを取り合い、多く獲得した者順で決めるそうなんだ。奪われてしまうか、数が少ないかで留学決定。そして留学になった場合も、魔石の有無や数で行き先を選ぶ権利が得られるかどうかが決まる様だよ」


「では此のまま隠れてれば、少なくとも留学先を選べる可能性が高い…のか?」


否応無く組み込まれたのは…既に今更な事であり、変更しようの無い現実…としてニュールは諦める。

だからと言って、腹立たしくもあり…極力関わりたくない。

出来るだけ消極的な策で立ち回ろうと思うが、サージャは其の質問に首を振る。


「元々…選任の儀では、王城の者達は3つの力を示すことを求められるんだ。攻撃力と防御力、そして其の者が持つ言葉の力。守護者でも本人でもどっちが示しても良いのだけど…今回も其れは審査されていて、守護魔石で優劣が定まらない時は…そちらも加点するらしいよ」


徐にサージャは口に人差し指を立て…秘密表すしぐさ示し、声を潜め続ける。


「それと、此れは僕からだけの情報。選任の儀での…王族および守護者候補の生死は、不問に伏す…と言う御触れが内密に出されているらしいんだ…」


言葉が終わるか終わらぬか…同時に、外壁が吹き飛び…建物全体が揺さぶられる。

部屋から空が見えるようになっていた。         

しかし其処にあるサージャご自慢の結界が、部屋が崩れるのを防ぐ。

そんな非常事態の中…全く慌てることもなく、眉一つ動かさず…優雅にお茶を飲み言葉続けるサージャ。


「…一応のルールとして…関係者以外を巻き込んでの戦闘は減点対象の様だけど、基本何でもありみたいだね。建物や物など破壊しても、後で賠償するなら減点対象にはならないみたい。財力が無いと厳しいねぇ~」


サージャは、自分の商会建物が攻撃を受け…破壊されている状況。

其れなのに…心から楽しそうな微笑み浮かべ、ワザと驚いた様に軽く両手を挙げ…小首をかしげ面白そうに道化てみせる。


「そう言えば時間は過ぎちゃってるけど、始まりは昼の鐘から儀式の始まる夕時の鐘まで。終了時間に指定の場所、儀式行う部屋に居ることも条件らしいね。まぁ…既に勝手に始まっちゃってる様だけど、此の状況切り抜けないと…ニュールも行きたくない所に行くことになっちゃうよ? だから…頑張って!」


「…マジかよ」


他人事にして逃げてるいるだけでは、待っているのは地獄への帰還。

其の可能性が高確率で存在することが、ニュールにもジワリと実感できた。

そして次の攻撃が差し迫っている事も、魔力の高まりや移動する気配で感じる。


「…っチッ!」 


舌打ちしつつも、ニュールは覚悟を決める。


「さぁ姫さん! 人を巻き込み踏みつけてでも何か得ようとする根性あるんなら、俯いたまま諦めたりせず…踏ん張りやがれ。国内残留…若しくは、快適な行き先を選べる立場をものにするぞ!」


そしてフレイリアルの背中を押し、立ち向かう。


攻撃してきた相手が展開する魔力の感じから、取り敢えず遠隔攻撃主体で攻めてくるとニュールは判断した。

予想通り、2射目もほぼ同じ場所に攻撃される。


『魔力は多いが、比較的単純な力押し。技術力に乏しい…と言う感じだな』


防御結界纏いつつ…壊れかけの部屋から抜け出し、商会建物からの脱出を図る。

人少ない地区の建物…人的被害を及ぼしづらいと判断すれば、財力ある儀式参加者は…先程の様な破壊に至る攻撃を仕掛けてくるのだろう。

ニュールであっても…フレイリアルを庇いつつ手持ちの廉価魔石から隠蔽魔力導くだけでは、金に飽かし手に入れているであろう高位魔石を使った探査の目を持つ者から…隠れ続けるのは難しい。


攻撃を受けた最上階から、商会建物の1階に降り立つ。

祭り当日…休みの者も多く、階下の職員も客も…粗方の避難は完了していた。

察知される前に…攻撃を受けやすい人目少ない商会地区から逃れるべく、手慣れた感じでニュールは速やかに行動を起こす。

まず…魔力纏わせた魔石を近場の噴水に投げ入れ、熱と振動で…霧を発生させる。

そして防御結界立ち上げた魔石を囮の影として四方に飛ばす偽装施し、危険度の高い地区からの離脱を目指す。

其の後…人混みに紛れ、祭りの中心…雑多な中央広場へ向かう。

ニュールは完全に気持ち切り替え、前向きに状況改善すべく最善目指し…決断下し行動する。

しかし…ニュールから本気の嫌悪…そして奥底から湧き上がる怒気をぶつけられ、意気消沈したフレイリアルは未だ動揺収まらず…ぎこちない。


脱出は上手くいった。

作戦が無難に成功したのか…敢えて相手が見逃してくれたのか、無事人混みに紛れ一難去った。

勿論…其の後の警戒怠らず、周りの人々に気付かれないようニュールは微細な探索魔力を広域展開していた。そして自分たちの周りに小さく強固な防御結界を張り、結界ごと隠蔽魔力で覆う。

微細な多重の魔力制御を…難なくこなすニュール、其の様を横目でチラリと窺い…フレイリアルは勇気を出し話し掛ける。


「あ…の…ニュール…さん」


昨日からの付き合いであるにも関わらず、フレイリアルの無理矢理なお願いを色々聞いてくれたニュール。フレイリアルの自分勝手な行動や話にも付き合い、何だかんだと相手をしてくれた上…助けてくれた。

フレイリアルは、ニュールに信頼を寄せる。

此の短い間の中、ニュールはリーシェライルに次いで頼れる…心置き無く過ごせる数少ない相手…となっていた。

甘え過ぎて失ってしまったものが、最早取り返せない状態なのか…フレイリアルは確認したかった。


「あ~何だ? 今さら~さんってのも無いだろ」


チョットぶっきらぼうに返してくる。

だが先程の冷たく突き放す様な雰囲気は消え、フレイリアルは一縷の望み繋ぐ。

そして心からの謝罪を口にする。


「…勝手に巻き込んで…ごめんなさい」


ニュールは、フレイの言葉を聞きながら前方上空を見つめていた。


「過ぎてしまった事を悔いてもしょうがないが今後の糧にはなる。お前の無邪気な行動や考えなしの決断であっても、害となり…人を破滅に導くことがあるって事を忘れるな」


不意に斜め上空に輝く点が煌めき、直後二人を包む結界に衝撃が走る。

再度の襲撃。


「競争相手は、かなり本気で戦うつもりらしいぞ」


攻撃魔力の着弾で揺らぐ結界を強化し、ニュールはフレイリアルに伝えた。


「生き延び勝ち残る…には、改めて少し策が必要だな…」

オッサンも逃れ続けるために、結局受け入れざるを得なかったのです。

何だか手慣れた対応で捌いていく…意外とオッサンに任せとけば楽勝な感じです。

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