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13.進んだ道

モモハルムアがヴェステの王立魔石研究所へ到着してから1の月少し欠ける程。

研究所で過ごす時間は大変有意義であり、此の国へ来た甲斐があったと思っていた。

多種多様な研究と研究に取り組む人達の活気ある向上心に触れていると、モモハルムア自身の気持ちも前へ進む。


『2の月ではなく5の月でも良かったのでは…だけど…』


モモハルムアは心から此の国への留学の道を選択した自分を誉めたかった。

だが一方で、伯父の関与を極力減らす努力を怠った事を後悔した。


「モモハルムアや、こちらがスピルリム公爵ご紹介のバルニフィカ公爵です。こちらの研究所にて賢者の塔の研究をしている方だそうだ」


はっきり言ってモモハルムアに興味の無い研究と人物だった。

モモハルムアは今回の留学では、実用的な魔石や陣の研究室を覗いてエリミアに取り入れ活用出来るものを探す事を目的としていた。

だが何故か伯父はヴェステに長期滞在をする構えで、あれやこれやとモモハルムアに色々手を掛けてくる。そして色々な人物との接点を設けモモハルムアを紹介し近付け、自分の利となるよう動いている。


紹介された今度の公爵様は更に王家に近く繋がる伝をお持ちの方の様で、エリミアの情報を餌に釣ろうとしているのがモモハルムアにさえ見え見えだ。

公爵様もその思惑に少し距離を取りつつ、生きた大賢者が入っている賢者の塔の情報が少しでも手に入るなら…と紹介に応じてくれた様だった。


閉ざされたエリミア王城に出入りする機会のある王族は、貴重な情報源である。

そのため情報を得られる期待で、どの方に会っても前のめりで質問される方が多い。

今回の方は珍しく、此方への質問前に自身の研究の説明をして下さる。


「遺跡にある既に機能していない賢者の塔への立ち入りより…塔を基点として魔力を放出させている基幹部分の構造が魔石の結晶構造を模した陣と類似していて………魔力の流入量と構造の耐久性の整合性を………」


ご親切でありがたいのだが、残念な事にモモハルムアには興味が無い分野であった。

ひたすら睡魔と戦い笑顔を維持していただけだった。この苦行、伯父の差し金による何かの修練の一環では無いのだろうかとモモハルムアは思った。

余計な方向に考えが走るモモハルムアより、後ろに控えるエシェリキアの方がメモを取りながらしっかりと聞いている様だ。

やっと研究の概要説明が終わったようで質問が飛んできた。


「主構造体である主塔への立ち入りのご経験は…」


言葉が難解だが見当をつけモモハルムアは答える。


「…王族の選任の儀と石樹の儀は賢者の塔・中央塔にある謁見の間にて行いました。だから王族は皆一度は立ち入っております」


「そうですか…では大賢者との面識は?」


「それも儀式の時に…」


質問をしてきてたバルニフィカ公爵もありきたりの回答に興味を無くしていく。モモハルムアは既に遠い目をしている。

折角の繋がりを取り逃がさんと伯父が焦っているのが分かるが、興味の無いモノは仕方ないし情報が無いのも仕方ない。

切り上げを早める為に物憂げな態度で応じていると伯父が気になることを言った。


「エリミアからサルトゥスに向かった第6王女の守護者がインゼルの白の巫女に大賢者と認定され略取された様だが、お前も同じ時に選任の…」


モモハルムアは今までの様子から一変し、いきなりガシッと伯父の腕を掴み強い口調で問う。


「第6王女の守護者が大賢者で白の巫女に略取されたとはどう言うことですか!」


伯父は、モモハルムアの今まで見せた事の無い勢いにたじろぎ説明した。


サルトゥス王国ボルデレ闇の神殿にて、王家の権力闘争に巻き込まれた様だと…。その影響か、魔力集中が起きたと思われる様な濃い魔力漂う状況が生じていたらしい。

インゼル共和国の白の塔・白の巫女がそのどさくさに現れ、大賢者である第6王女の守護者を塔に繋ぐため略取した…と言う情報を得たそうであった。


モモハルムアの顔から血の気が引く。


「そんな…大賢者だったなんて…塔に繋がってしまったら二度と塔から出られなくなってしまう…逃げることも叶わなくなる」


今まで興味を示さなかったバルニフィカ公爵がいつの間にかモモハルムアに注目していた。

獲物を発見したかのように、三日月の目に鋭さを加え笑む。


「その守護者殿と面識がおありの様ですが、彼の者がどの様な素性の者かご存じですか?」


モモハルムアの反応を気にせず続ける。


「彼の者はヴェステで特殊数背負う影をやっていた者でして、様々な殲滅に貢献する非情なる衰亡の賢者と呼ばれていました。奴が殲滅した場所は一瞬にして悠久の時を経た地となり、何千年も経った遺跡のような有り様になり、まさしく滅びを迎えるのです」


その状態を思い出すように呟く。


「正しく忌むべき賢者であった…。無表情に繰り広げられる敵を薙ぎ倒す卓越した魔力操作とその魂揺さぶる圧倒的強者が繰り広げる光景…大賢者だったとは…この国から逃がしたのが口惜しい…」


あり得ないと思う様な凄惨な場面が想像される状況…それを好ましいと思う者が此の国には他国に比して多く存在するようだ。

この比較的新しい国の貴族達は、戦いで功績をあげた者が殆どである。

血生臭さを好むものが多く、好戦的戦闘民族の血を研究職であっても持つようであった。

その光景を楽しそうに語っていたバルニフィカ公爵が、昼時の鐘に反応する。


「大変有意義な出会いでした…。しかし申し訳ありませんが、これから所長を交えた会合が有りますので此処で失礼させて頂きます。また改めて機会を頂ければ、ご興味が有るようでしたら彼の者の昔話などお話いたしましょう…私も彼の者の話を聞きたい」


伯父の情報は意外にも此の国の研究者であり公爵位を持つ者の耳に入っていない情報も含んでいたようで公爵様も割いた時間に対する埋め合わせは得られたようだ。

それに、彼の者に繋がるモモハルムアの存在も気に入られたようだった。


先程見せた血に宿る好戦的本能など欠片も見せずに、バルニフィカ男爵は優雅に満足そうな笑顔を浮かべて立ち去った。


だが、モモハルムアの心のさざ波は過去・現在・未来、全ての情報を得て迷う事になる。





鉱山は大変な事になっていた


「森の精霊と光の女神と火の妖精!お前が選ぶならどれだ!」


「あぁ、どれも撰びがたい…森ノの精霊に抱き締められ癒されたいし、光の女神に意地悪に弄ばれたい、そして火の妖精に心も体も燃やされたい~エラビガタイ!」


馬鹿であった。

そのメンバーの中に含められているタリクは、遠くから眺めてくるおバカな奴らの願いを本気で叶えて遣りそうなぐらいブチキレテイタ。


「望むなら何時でも骨も残らないように燃やす尽くしてやる…」


呟くタリクの声は、普段封じられている本気の猛々しさが目一杯含まれた迫力ある物騒なものだった。

それでも輝く新鮮な銅色のサラサラの髪から覗く色白の面差しは、美しく可憐であり…その苛立ちで心持ち精悍さが加わったかな…と言う感じだった。


この3人と共に旅に出る事が確定しているミーティは既に仲間内で針のむしろ状態だった。


「フレイちゃんとモーイちゃんが一緒の上に更にあの美人さんまで! お前は何様だ!! 」


全くもって反論出来ないが反論するとすれば最後の1人は男だってことだ。


だが誰一人信じてくれなかった。

其を知った上でタリクが意地悪にも手を掴んだり肩を組んだり、肩から覗き込んだり…必要以上に接触してくる。

タリクは自分の外見が誤解を受けているのを知っているのに、敢えて近づく小悪魔坊主だったのだ。


『このまま誤解を受けると性別が男だと理解された時、今度はオレに新たな疑惑が湧いてしまうではないか!』


誰も真実に気付いてくれない中でフレイが遣ってきて声を掛けてくれた。


「大丈夫ミーティ!元気だしてね」


やはりフレイがミーティにとって究極の女神なのだと確信した。だが、その後付け加えられた言葉に愕然とする…。


「…タリク男の子だけど可愛いもんね…私は気にしないし良いと思うよ!だからミーティを応援するよ!」


『ドコカラドコヘ話ガ転ガッテ応援??』


ミーティが呆然自失な表情で疑問を浮かべていると、致命傷となる一太刀が振り下ろされる。


「私は男の子同士も有だと思うから頑張ってね!」


そう言うと赤くなり立ち去っていったフレイ。


『………』


ミーティの骸と化した心と体が、洞窟を抜ける吹き荒ぶ風で更に欠片も残らないほど朽ち果てて行くのだった。


そのまま状況は放置され無情にも2日後、ミーティが生ける屍ぐらいに復活した頃に樹海の集落へ出立となった。


今回は大叉角羚羊(プロングホーン)を3頭とクリールで向かう。


クリールもエリミアまで連れて行ったが、なるべく目立たないよう隠蔽魔力を纏わせた魔石を首に下げ王城厩舎内で過ごさせようと思っていた。

だがクリールのかつての仲間が怯え警戒し共存を許さず、その計画は叶わなかった。


結局、厩舎裏にある王城内森林地帯に広めの防御結界陣を作り、クリールにはその上に居てもらうことにした。その周囲に定期的にモーイが隠蔽魔力を引き出し纏わせた魔石を配置してきてくれる。


この国の常識は強く重く前例を踏襲する。

クリールが遷化魔物へ変化している真実が露見すれば、処分への道一択しか用意されないだろう。

エリミア滞在の後半は監視が常に付いてしまい、フレイリアルはクリールの所へ行けなかった。もともと見つからないようにしていた為、クリールは人との接触が最小限になっていた。


エリミアから脱出し自由を得たクリールは、その反動で人間が側に居ないと寂しがり駄々っ子のようにバタツク。


『『『可愛い~』』』


「キュイー」と泣きながら潤るんとした瞳を此方に向け駆け寄り首を巻き付け擦り寄る…あのタリクでさえ落ちた。クリールの可愛さにメロメロで、皆時間が空くと寄付きふわふわのの羽に顔を擦り寄せ可愛がりまくっていた。


「お前は可愛い上に自分に正直で自由だよなぁ~羨ましいぜ」


比較的それに近い感じの行動を取るモーイさえ羨む。


クリールが自由なのが魔物の本能や欲望に忠実に従うせいだと言われるとそれまでだが、良い悪いの分別付けた上で自分を主張するようになった気がした。

自分に嘘をつかないでいられるならそれに越したことはない。



鎧小駝鳥(アマドロマイオス)は本来は背と脛と胸に硬質な鱗状の羽を持つ鳥であり、荷重や攻撃への耐久性があり重宝される。


クリールはそんな鎧小駝鳥の中で硬質化出来ない羽を持つ個体だった。


その様な個体は利用価値が少なく、人間からも仲間からも弾かれて処分の道に進むことが多い。

鎧羽の無い姿と厩舎内で1頭で居る様を見て、フレイリアルが初めてにして唯一自分のモノにしたいと国王に申し出たモノだった。

警備や重い荷物運びには耐えられないけれど、人1人乗せるのは以前から問題無く出来る。

普通に迷惑かけず生きていける。


『何故…虐げられる』


自分事のように憤ってしまった。

自分自身に重ねるが故に憤りが倍加する。


『何故虐げられねばならない…』


考え続けると、自分自身の中の仄暗い思いに辿り着いてしまいそうで怖くなる。


だが、そう言った思いを消す代償のようにクリールを可愛がり側に置くことで、フレイ自身が更に険しい道へとクリールを追いやってしまったのではないか。

自分や存在する環境を責めて自身の行き場を無くしてはいけないのは理解しているが責めない自分を自分が赦せない。


『私の選択が間違いなのでは無いか…』


いつの間にか暗い思いに足を引っ張られ深い沼に落ちそうになっていると、モーイがスタスタと目の前まで来てフレイの顔を両手で押し潰す。


「にゃにふうの?」


つぶれた頬から出される声は間抜けだった。


「仕置きだよ!」


「???」


「モーイさんの目は誤魔化せないんだよ」


真剣にフレイを見つめる。


「過ぎたことは責めるな…気付いて責めるだけが道じゃないんだよ」


「!!!」


「まだ先は長いんだ。余計な事考えるのは結果が出てからにしろ」


我関せず…周りに興味が無いように見えるモーイだが、見ているところは見ているのだ。

モーイの激しく思い込み浮かれ熱を上げる対象になってるニュールが略取されてから時間が経ち、真面目さが前面に出て余計に鋭さが際立つ。


何だか格好良くって惚れてしまいそうな気分になるフレイだった。

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