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11.進むべく足掻く

ニュールは文献の置いてある部屋でゆったりと椅子に座り、参考になりそうな資料を閲覧していた。

今日は朝のディリの襲撃が無いと思ったら、ラビリチェルが珍しくやって来たようだ。今日の姿は二十代半と言った大人の姿である。


2人ともほぼ同じ見た目であるが、ディリよりラビリチェルの方が大人である事が似合っている様な気がする。

そんな事を何とは無く考えていたので、言葉として発せられ、答えとして返ってきた。


「…今のラビリチェル。中身24歳。だからかも…」


しっとり物憂げな様子は大人のモノであった。

ニュールは久々に大人の女を感じ、その感覚にドキリとする。

そこら辺も全て語っていたようで、意味深な笑みを浮かべた艶麗な大人の表情のラビリチェルがさらりとした白い髪の中からニュールの表情を覗く。

そして長衣の足下をめくり胸元を緩め、徐ろにニュールの上に座る。更に首に腕を巻き付け耳元で甘く囁く。


「ニュール。我慢良くない。解放必要」


ニュールの目前に晒される、緩められた胸元に広がる柔らかで刺激的な光景…そして中身が24歳と言う事実を知った。

それだけだと言うのに逆上せるような感覚が一瞬にして湧き上がる自分はかなり単純な奴だと思った。

だが、見た目だけでは感じられないこの何とも言えない匂い立つ様な誘惑…。

ニュールは頭の芯から痺れるような感覚が広がり、膝の上でラビリチェルがわざと大きく開き晒した長衣の隙間から見える滑らかな肌へと手を伸ばしてしまいそうになる。


だが我慢する。


「キツい!!」


今度は自分でも叫んでいる感覚が分かった。この劣情を抱かせるために出来上がった肢体と笑みを拒絶するのは結構な苦行である。


「キツいなら我慢しなければ良い…ラビリ何時でも受け入れる…解放と接続」


「それでも、本体7歳だろ?中身や見た目や感触が24歳だろうと実際の外見が7歳なら一線超えたら犯罪」


「ニュール。心もジジイ。ディリ言う通り」



これ以上の誘惑は無効と判断したラビリチェルは、ニュールに別の提案をした。


「ニュール、街見る?」


そして街を見せてくれると言う。

外に出してくれるのかと思ったが、そう言う訳では無い。


「塔に接続しない限り出られない。出たければ接続必須。接続で塔操作」


ここに来て2の月近く経過したと思うが、2人の言うことは毎回変わらない。


そして必ず1日に1回は塔中央の賢者の石がある間へ導かれるのも変わらない。

そして今日も魔石の前で同じことを言われる。


「解放する、接続する」


「接続するって言っても、そんな感覚分からないよ」


「接続、繋がるの先の感覚」


多少の違いや付け足しはあれど同じやり取りの繰り返しだ。

ただ、この塔の魔力が操作しやすいとか快適と言う以上に、ニュールの中に浸透して自身の魔力と置き換わって行く様な感覚が出てきている気がした。


日課の様な賢者の石参りを終えると、中央の魔石部屋の外周にある部屋へ初めて入れてもらう。

ここは全ての部屋が窓に面しているようだ。


「ここで向こうを見ていて…繋ぐ」


ラビリチェルはそう言い、ニュールと手を繋ぎいきなり魔力を流した。

急に流された大量の魔力に一瞬たじろぐが、塔の魔力にかなり馴染んだニュールは寧ろ心地よく解放されていく気分になる。

塔の中は彼方よりディリチェルとラビリチェルが導き出した魔力で満たされている。


「この先に解放があるのかもしれないな…」


何時ものように心の呟きのつもりで口に出している。


「…この意思と関係なく何でも口にしちまう処は、全くもって勘弁だな」


一瞬、言葉無き思いに沈んでいると突然目に映る景色に空が広がる。

見せてくれた街の景色は、かなり高い場所からの視点だった。


「この景色はいったいどこから見てるんだ?」


「鳥…魔物の鳥。名前、忘れた」


「魔物?言うこと聞くものなのか?」


「魔物、人形に出来る」


ラビリの話だと、魔物もお人形に出来るものがあると言う。累代魔物で程々強くて穏やかな気質のものなら可能だそうだ。

弱ければ魔力暴走を起こさせる魔力に耐えられないし、狂暴だと抵抗するので繋げるのに苦労するそうだ。

それに回路を繋ぐと、その気質の影響を受けてしまうこともあるらしい。



回路を繋いだだけで影響を受けると言うなら、身の中にこの魔物魔石を内在させてしまっている自分への影響はいかほどなのか…自身の中の大賢者の知識に問うてみたくなった。



首都ボハイラの景色はエリミアのエイスと同じくらいの規模に見えるが、補修を重ねた耐久年数を過ぎてしまっている様な古い建物が多く賑わいが少ない。

湖畔の街のようだが、既に水底に沈んだ部分も多く見られる。


「この街もう既に半分。人も半分」


人口の流出が止まらない様だ。


「このままだと街消える」


「消えるなら移動すればよいじゃないか」


ニュールの言葉に反論する。


「移動できない者いる。塔も出来ない」


「人に関しては色々方法は有るはずだ。魔力で大地や水量を修正してまで維持するほど塔は必要なのか?」


ニュールは無理やり塔を維持することに費やす努力を他へ向け、自然と共に在ることを目指すべきなのでは…と、言葉にならない思いを巡らす。

だがラビリはひたすら自分達の中に浮かぶ不都合な理由を並べ立てる。


「塔消える。その塔の魔力消える。天地に宿る力消えていく。不毛の地となる」


「人間弱い、一番滅びる」


「この塔、力と知識ある。人間続く。知識必用」


「魔力なくなる魔石消える」


「塔全部動かなくなる。魔力滞る。爆発。消える。滅びる。可能性ある」


「塔閉じるなら扉開ける必用」


「巫女居ない」


「…」


色々聞き捨てならない様な内容もあったが、取り敢えず待つ。そして言葉が続かなくなった所で手に入れた情報を精査するため問う。


「塔があると制御されてしまうかも知れないんだろ?」


「!!」


「先々代の大賢者?…リベルザの日記を読んだよ」


「リベルザ大賢者じゃない。塔所属の賢者。先々代の大賢者付きの賢者。だけど先々代の人形に望んでなった者」


ラビリチェルが微妙な処で引っかかる。

リベルザは大賢者への試練を受けて先代大賢者の中の賢者の石と繋がるか、魔力に飲まれて暴走して人形となるか…そして勝負に負けた者となり人形として仕えたそうだ。


「大地制御される…有益無益は紙一重。有益、住みやすい世界。無益、住めない世界」


「ヤッパリ駄目じゃないか」


少し支離滅裂になりつつあるラビリに突っ込みを入れる。


「大賢者の中で一人反対居れば大丈夫…」


どうやっても塔の存続を危惧する視点にしかならないのは、ヤハリ塔のお人形だからかもしれない。


「もう、制御するしないじゃ無い。そもそも塔に大賢者を繋いで維持する機構に無理がある。少数を犠牲にして成り立つ世界は健全か?」


「不健全と矛盾消す手段、塔と大賢者…理に接続出来る可能性ある…鍵」


文献を探る以上にディリやラビリから聞いていくのが大きな手掛かりに繋がるようだった。





「準備は出来たか…では行くぞ」


濃紺の鎧に銀のマントを纏い、肩までのうねる金の髪をなびかせる華やかな美貌の男。

ヴェステ王国、青の軍取り仕切る青の将軍。

将軍の中では格段に若い部類だ。王族に連なる名家の出身とはいえ、その戦果は華々しく相応の実力伴う者ではある。

その点で異を唱える者は居なかったが、若さを揶揄する者はいる。

現王は年若くして王になった者で有り、同じ境遇を感じるのか青の将軍を取り立てる機会が多かった。

今回は初めて青の将軍自ら雪辱戦を王に申し出て、インゼルの白い塔への再出陣となる。


出兵式。

テラスに立ち眼下に整然と並ぶ出兵を待つ兵に向かい、自軍の正当性と崇高なる目的をつらつらと述べまとめる。


「…私たちは間違って無い!苦しむ者達を救うのは我々だ!」


一斉に上がる鬨の声に手を上げ答え出立の号令を掛ける。

今回は三千連れていく。前回千で余裕だと思ったら、してやられてしまったので万全を期すことにしたのだ。


今回は出資者がいるのでそれが其が叶う。

出陣の儀を室内で見守る男が、戻ってきて椅子にドカリと腰掛ける青の将軍に声をかけた。


「兵達も閣下の激励を心に刻み士気高まる事でしょう」


「前回は負け戦のようになってしまったからな…」


将軍が自嘲めいた事を述べる。

そのチョットした弱気な部分に、侍従の様に軽い叱咤激励を込めて答える男。


「青の将軍たる閣下のその様な気弱な言葉を望む者など居りません。…してやられると言うのは悔しくも士気高まる事であります。私の様な者の些末な手で有りますが少しでもお役に立てればと思っております」


そして青の将軍に対し恭しく礼をとる。


「殊勝な事だ…」


実力がある分ひとつの負け戦に心が囚われ、全体を縛る足枷となり重さを増す。

被出資者に万全の体制で臨んでもらい資金を回収するためならば、出資者であるその男は道化になる事など容易かった。


「私事ですが、先日手痛い失敗をしました。…野生のコドコドの幼体を手に入れられそうだったのですが、既の所で逃げられてしまったのです。弱っているかと甘く見たら、してやられました…」


「ほう、それは残念だったな」


青の将軍が興味を示す。


「ですが、その分はキッチリと捕まえて可愛がってやろうと思っております。…してやられて私の志気は燃えるように昂りましたぞ!」


その男の残忍さと執念深さを理解し思わず言葉が漏れる。


「その尻尾の無いコドコドが気の毒になるぞ…」


「はて、尻尾の有る無しを述べたつもりはなかったですが、閣下の目や耳も大きいようですな…」


「フフッ、貴殿の話で少しは気が紛れたぞ」


青の将軍は少し肩肘張る自分の糞真面目さを取り外すことが出来たと、この男に少し感謝する。この秀麗な見た目の一見優しげな商人は、敵に回すには厄介だが味方にすれば使い方では役に立つ。


「お役に立てたなら重畳であります」


将軍を見送り、美麗な面差しをした出資者の男…リャーフ王国のアスマクシル商会の商会長エルシニアは、自身の思索の中へと沈み独りごちる。


「幼いコドコドは仮親を求めて白の塔を目指しているようですから、今度こそ押さえつけて捕らえてみましょうか…」


『その身に爪を食い込ませ押さえつけ、血が滴るのを楽しみつつ逃げられないように時間をかけてジックリ毒で痺れさせて動けない様にしてから、丁寧に気遣いからがんじがらめに捕らえてあげようか…』


とりとめもなく勝手な先を思い描き、身震いするような恍惚の思いで表情を作り上げる。


「虚仮にするから執着してしまうのです。邪険にするから押さえつけたくなるのです。大人しく捕まっていれば普通に遇してやったものを…後悔するのは嫌いですが、後悔させるのは大好きです」


そう呟くと薄暗く酷薄で残忍な甘い笑みを、隠す気も無く深まるままに周りに晒し続けたのだった。

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