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3.心持ち成長し進む

起きた時、イラダのドスの効いた恐ろしい声が頭上から聞こえた…。


「母さんが居ない時に2人も連れ込むたぁ、イイ根性してるじゃないか…ちゃんと責任取る度胸も持ってるんだよな」


ねぼけながら確認した状況に絶句した。

両腕で、あられもない姿の女子2人と肩を組み、足と身体に巻き付かれ、両の手のひらには各々感触の違うぷるんっとした柔らかなモノが…。


『うん、元気一杯勇気山盛りの俺は王様…って感じに大の字で寝ていました』


ミーティは心の中で開き直り、尚且つ感謝と懺悔と名残惜しい気持ちを持ちつつ、その状況からそっと抜け出し恐る恐る審判の場へ赴く。

食堂にて目の前の母へ釈明する。


「夜、襲撃があって、何とかなったけど、その後2人を休ませる所を思い付かなくて、年下の子供だと思ったけど…そうでもなくて…変な気は無くて…」


ミーティはかなり焦ってシドロモドロになり、話が今一つ繋がらない。


「其れでアンナんなっちまってたのかい…」


母の見下ろすような冷たい目が心を突き刺す。


「あぁ…、フレイ達なら部屋で休ませても良いかと思って…」


ミーティはイラダから向けられる刺し貫く様な視線と言葉が痛くて痛くてたまらない。


「ほうっ…全く考えなしのヤンチャ坊主な所業だな」


もう赤面するしか無かった。



来訪者の2人は疲れてたのか昼時まで起きなかった。

起き出して来てイラダの顔を見た瞬間、フレイは駆け寄り抱き付き…何だか自分自身でも分からないモノが込み上げ泣き出した。


一瞬イラダはミーティを疑い、瞬殺する様な視線を送り背後に炎を立ち上がらせた…のが見えたと後のミーティは言う。


「ニュールが…拐われてしまったの…」


泣きながらイラダとミーティに伝えた。

驚きと驚愕の表情に包まれる2人だが、フレイが落ち着きを取り戻すのを待ってくれた。

一応ミーティへの誤解は解けたようだ。

危うく母から下るはずの天誅を逃れることが出来てミーティはホッとした。


「そうか…ニュールが…」


噛み締めるようにイラダが沈うつな表情で呟くが、気を取り直すようにフレイをしっかりと抱き締め、優しい目を向け温かく語り掛ける。


「ホンノ2の月、見なかっただけなのにあっという間に大きくなって…でも気持ちは子供だねぇ」


愛情深い母の表情になる。

フレイもその腕の中で癒され、押さえていた悲しみを吐き出し気持ちの高ぶりを落ち着ける事が出来た。

気持ちを戻したフレイは、もう少し詳しい説明を始めていく。

けれどもフレイは自身の事情を全てをさらけ出すのはまだ怖かった。

結局、自分自身を含む詳細な内容は語れず大まかな話に留めことになったのだ。


「私が弱かったから捕まってしまって…大変な事になって…ニュールが助けてくれたの。だけどニュールはそのせいで傷ついていて…ニュール自身が連れ去られる時に抵抗できなかったの…」


悲痛な表情で告解を述べるかのように項垂れる。

そして、ニュールを連れ去ったのがインゼルからの者であったと…。

インゼルに繋がる陣が樹海の民の集落にあるかもしれないと言う情報を手に入れ、ニュールを救うためにインゼルヘなるべく早く渡るため、樹海の集落出身のイラダに聞いてみようと思い鉱山に立ち寄った…と言うことを説明した。


ニュールが何か事情を抱える者であった事はイラダもミーティも察していた。

そして深くは聞かなかった。


鉱山で地輝が湧いた日に起こったことは、イラダもミーティもそれぞれお互いに話題にすることは無かったが感覚として把握している。

イラダはフレイの処置の影響で…ミーティは魔力あたりで苦しむ中で意識があったため…2人とも把握していたのだ。

あの魔力の中で普通に対応するニュールとその大魔力を処理するフレイを…。


「悪い、陣の事は私には分からない。もしかしたら行けば直接聞けることも有るかも知れない…」


イラダからは何も聞けなかったが、まだ希望はあるようだ。


「樹海の集落には集落の人じゃ無くても入れる?」


「血族の者が案内すれば入れるが、単独だと取引のある商人が入り口に入るぐらいだねぇ」


フレイの質問にイラダは答えるが、エリミアと似ていて部外者お断りと言う感じのようだ。何とか方法は無いかと考えているとイラダが提案してくれた。


「ミーティにでも頼むと良いよ」


その言葉にミーティが怯む。


「でも、あそこへ行くと婆ちゃんが…ゴモゴモゴモ」


ゴモる。行きたくない理由が有るようだ。


「…まぁ一石二鳥の提案として、どっちかのお嬢さんに婚約者のふりでもお願いすればいい」


「!!!」


ミーティが絶句する。

そして、今まで黙って聞いていたモーイが口を挟む。


「アタシにはニュールって言う心に決めた未来の旦那様が居るから嫌だよ」


片手を挙げて最初から提案をキッパリと断る。


「フレイは特に自分で思う奴が居ないならイイんじゃね?」


しかもスグにフレイに話を振りニマニマしている。本当にモーイは最近ニュール以上にオヤジで叩きたくなるとフレイは思った。


『確かに特に決めた相手も居ないけど…』


2人の優しい笑顔が思い浮かんだ…そんな事を考えていると、ミーティが先に決断し宣言する。


「フレイが良ければオレの婚約者って事で行こう!」


畳み掛けるように決めてしまった。



樹海の集落までは徒歩なら1日半。乗用獣なら種類によるが半日チョイと、最低でも集落での1泊は必要だ。

善は急げと、翌日朝から出発することにした。


今回の鉱山へのフレイ達の訪問は、まだ皆に伝えてない。

戦闘中の来訪であった上に戦闘後の真夜中過ぎに対応し、皆の断りもなくミーティの部屋へ招いてしまった状況の後ろ暗さもあり、仲間への報告ができなかったのだ。

母も特に周りに触れ回る事もなかったのでそのままになっている。


まさに抜け駆け的機会だ。


フレイは、以前来訪した短期間で鉱山での人気者になっていた。

地輝事件の後も、お爺の孫のサクルは調子悪さに託つけてお近付きになろうとしていたぐらいだ。


「ミーティ、お前もう元気だよなぁ~オレはまだダメだ!フレイちゃんが看病してくれたら元気分けてもらえそうだけどなぁ。調子悪いって言ったら手を握って"大丈夫?"って言って近くで看病してくれるかなぁ?」


にへらっと鼻の下伸ばした笑いで純情男子的夢を語る。

昨日の夜から朝までのミーティの状態を知られたら、若い奴らによる私設緊急査問委員会が招集され断罪されそうだ。


フレイの持つ森の民よりは明るめの暖かい大地の色の髪と、森の民全てが心惹かれる新緑に輝く瞳。

森の精霊が舞い降りたような容貌と太陽の様に明るく、気さくで無邪気な性格は樹海の人々には好印象だった。


鉱山での結婚は早い者が多い。


ミーティの歳で子持ち何て事もある。

だから12歳になったと言うフレイは十分結婚対象であり早いもの勝ちな鉱山では狙われていた。

13世帯しか無いのに11歳から27歳まで嫁無し男が20人、それ以下を含めたら30人もいる。

未婚の女は赤ん坊も入れて15人。11歳から30歳だと9人しか居ない。


他から連れてくれば良いのだが、中々この環境に馴染んでもらえず逃げ出される事も多い。

なのにフレイはこの仕事を目を輝かせ褒め称えてくれる。


こんな鉱夫向けの良い子を嫁に欲しがらない奴はここには居なかった。

サクルみたいに本気で嫁に欲しいと思っている男が10人はいる。

以前もニュールの目を盗んで近づく者が大発生していた。


「オレはこの鉱山を復活させて金持ちになる。フレイちゃんがこの魔石に囲まれた生活を望むなら是非迎え入れたい!!」


…何てことまでサクルは言っている。皆、フレイの立場が御嬢さんだって事を忘れている。


ミーティはそんな事を思い、皆より一歩引いていた。

でも今改めて思う。

叶わないと思って諦めていたけれど、可能性に賭け皆と同じ様に挑戦してみる価値はあるのでは無いか…と。


やせ我慢をするのは今日で止めた。

この運びは絶好の機会。手を伸ばした先に希望があったなら掴み取るしかない。


『本当に嫁になってもらう約束を取り付けるぞっ、おー!!』


下心一杯に目論む心のなかで鬨の声を上げるミーティであった

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