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2.一歩進んだその夜…

「いきなりこの状態かよ!」


「でも目的地だし、しょうがないよ」


モーイとフレイリアルが居るのはスウェルの町外れ。

宵時の迷宮仕様な鉱山の秘密の入り口。


やっと辿り着いたのに、そこは戦闘中だった。

モーイは隠蔽魔力を駆使して忍び寄り、敵の情報を集める。


『アタシが前に捕まった、ハグレの奴ら…だな。ニュールが始末した残党か…』


フレイは遠距離からの探索魔力で状況を把握する。

坑道内では見知った感じの魔力攻撃や防御結界が展開されているのが分かった。


相手方は最初から長期戦覚悟の様で、あらかじめ自陣を作り足下に防御結界陣を敷いている。

そのため、闇組織のハグレ者達に攻撃が通らず一方的な被害を産み出している。


「フレイ、アレやっちまうか?」


「うん、そうだね。アレ遣っとかないと潰せないもんね」



樹海に至ってからの1の月近く、モーイと過ごすことで大きく影響を受けた。

スウェルの街への道すがら、フレイはモーイを教官にして攻撃や防御を狩りをしながら学んだ。

少しだけ成長できた…とフレイは自分自身で思った。



「フレイ!まずお前の強みは何だ?」


「魔石!」


指導するに当っての聞き取りで、最初から少しだけ頭を抱えたくなるモーイだった。


『ニュールが、アタシが同行して助かったと言っていた意味が分かったわぁ~』


フレイの魔石至上主義は全てを凌駕する。

そして、あの最初に見掛けた状態のフレイをモーイが相手にする事になっているのだ。

犬っころの様に楽しそうに走り回り探し回る姿は可愛いのだが…管理しきれない。略取されフレイのお守りからお役御免状態のニュールをチョット恨みたくなった。

とりあえず魔石話をちらつかせ落ち着かせる。


「じゃあ魔石でフレイが出来る魔力操作は?」


「探索かなぁ…」


「他には何か…」


「うーん、遣ったこと無いからわかんない」


こう言う所は年相応以下で幼い。

フレイの事を、つくづく均衡の取れてない奴だとモーイは思った。


「じゃあ陣とかで作れるのは?」


「多分見たことの有る陣…防御と転位は小さいのなら魔石があれば作れると思う…あと解除も…ナイショだけど出来る」


「!!!」


フレイは小声で告げてきたが、聞いて良い話だったのかモーイは悩む。

陣に関しては予想外の内容だがモーイは恐る恐る更に聞く。


「陣って発動させる前に解除出来るのか?」


「出来るよ…リーシェに本当に必要なときだけ…って言われてる」


大賢者様直伝の結界解除術…確かに近寄ってはいけない臭いがする。ヤッパリ耳にしない方が良い話だったのでは…と後悔した。


「そうだな…必殺技で取って置いた方が良いかもな」


取り敢えずお茶を濁しつつ、大賢者様の方針に従う。


「あと出来そうな事…魔石に魔法陣付けられるかも…」


認証魔石に遣ってあったことを応用すれば可能だとフレイは言う。

ニュールが頭を抱えたようにモーイも頭を抱えた。


『この常識破りなお姫様、どう扱えって言うんだよ…』


唯一横にいたクリールに同意を求める視線を送ってみたが、まるでわざと視線を逸らしたかの様によそへ移動してしまった。


こうしてフレイの実践での武器、転移陣魔石と防御結界陣魔石が出来上がり、更に最終兵器として陣破壊を備える。

歴戦の猛者でも苦労しそうな装備が出来上がった。


但し、本人の動きはまだまだ素人なのでモーイの支援は必須だ。

だが、体術が仕上がれば結構良い感じに一人でも戦える様に仕上がるのでは…と教え子の未来図を思い描き、モーイは自分の優秀な教官っぷりを自画自賛してしまう。



着いた目的地での戦闘を納めないと、本来の目的に近付けない2人は決断した。


モーイが隠蔽を掛けフレイと共に敵陣へ近付き観察する。

攻撃の届かないその中は緩みきっている。

帰ってから飯を食うか、まだ手に入らぬ戦利品を確かめるか…など、今日中に余裕で鉱山入り口を落とすつもりでいるらしい。


「フレイ遣れるか?」


「うん、10数えるぐらいかな…」


そう言うと敵陣の端で、築かれている防御結界陣に触れる。


「…あ、3で出来ちゃった!」


その呟き声にか、結界が無くなったのを察知してか、違和感を感じた者が探索を掛け2人をみつける。


「お嬢さんたちが何~の用かな?」


見つけた者達は2人を見て、束の間の楽しみを得た…と歪な喜びで下卑た笑みを広げ近付いて来る。


「お呼びでないよ!」


モーイの鋭い攻撃魔力が陣の中へ到達し荷物や陣を爆散させる。


陣の守りを疑わなかった者達は驚愕する。

その攻撃で、やっと陣の中が安全でないと悟った者たちが各々防御結界を立ち上げ、2人を標的に攻撃魔力を打ち込んでくる。


瞬時、フレイが手にした珪線魔石の魔力を動かし魔石に直接書き込んだ防御結界陣を起動させる。陣として仕上がっている防御結界は、ただ魔力で編み上げた結界よりも強力である。

そこにいる全員の魔力を収束したとしても、破壊する事は不可能であったろう。

もともと敵の防御結界陣に残ってたのは、殆んどが雑魚ばかり。地道に遣ればモーイ1人でも楽勝であった。


「こんな奴らに時間掛けてないで先に進まないとな!」


そう言うとモーイはここまでの道々で集めた魔石袋から紅柱魔石を取り出し、魔力を取り出し収束する。


「結構キツいと思うけど、アタシの雇い主の方針でこの場ではできるだけ命を取らない事になってるから安心しな」


独り言の様に言うと、フレイの防御結界陣の外に歩みだし攻撃を放つ。

相手も攻撃魔力を用意して対峙するが、今のモーイの敵になるには実力不足の集団だった。


その者達が更なる攻撃を放つ前に、モーイが濃密に収束させた魔力が再度攻撃の為に鋭く枝分れし各々へ届く。

敵対する全員が…その場に崩れ落ちた。

皆、意識が飛んでいる、通常に戻れない者も存在するかもしれない。其れを一人一人フレイが回って行き…飛ばし、その場から消す。


「モーイ…これやり過ぎじゃない?」


爆発的魔力を取り出し、敵にぶち当て意識を奪うモーイに苦言を呈す。


「それ以上加減して残ったらコッチがヤバイって」


「…本当は面倒なだけでしょ~」


もっともらしい言い訳で、面倒という一言を覆い隠すモーイに突っ込みを入れる。


「まぁ、細かいことは気にすんな!…中は何人だ?」


何だかんだと有耶無耶にして次へ向かおうとするモーイ。


「18人かな…」


「そっちは今以上でやらないとな」


少し気合いが入るモーイにフレイが答える。


「うん、気を付けて行こう!」



迷宮仕様の洞窟へ向かう。


モーイとフレイは、薄暗く入り組み鉱山の人々が仕掛けた罠の宝庫であるこの場所で、比較的表側に居た14人を楽勝で排除し樹海に掘った穴に飛ばした。

フレイの正確で広範囲の探索と、鋭く的確なモーイの攻撃魔力と極め付けのフレイの転移陣が刻まれた魔石によって。


フレイが転移陣を刻んだ魔石は、武器として底知れない悪しき可能性を秘めている。


今までも転移陣を罠として利用する事はあった。

但しフレイのは、陣を持ち運べる上に人ひとりを飛ばすことが出来る。先を定めなければ情け容赦のない非人道的武器となる…。

フレイ自身は其れは許されないと思っているので、今回の捕縛先は川原の穴にしてある。


そして一番重要な点は、通常使う蒼玉魔石と違い廉価な燐灰魔石で飛べる所だ。

武器商なら声を大にして売り込んでいるであろう。


但し距離や運べる量に問題が有って移動中に色々試したが酷いことになるときもあった。

この転移陣魔石は1の月の試行錯誤の上に存在している。


そして今回は色々想定し飛ばせる最大の距離に、出口用に手元の魔石と回路を繋いだ2つの転移陣魔石を埋めてきた。

一つは捕縛用に深い穴の底に、一つは逃亡用に木立並ぶ木の影に。


「後4人か?」


「うん、でも2人逃げちゃったよ」


あっという間過ぎて気付かない内にモーイとフレイに片付けられていた奴らの極一部の者が、ギリギリで気付き逃げたようだ。


「どおすっかぁ~」


「コッチ来なきゃ良いんじゃない?」


「まぁ良いか」


モーイもフレイもこう言う所は共通して緩かった。


フレイの緻密な探索魔力で同士討ちにならないようには気を付けている。だが深部に入り、残った者達が敵味方共に有り密集しはじめた状態。

そろそろ、フレイの知り合いに接触を試みたい所であるとモーイは考えた。



坑道へ繋がる迷宮の様な通路の中で、ミーティたちはじわじわと追い詰められていた。


ニュールが奴らの大半を始末してから1の月は、この入り口回りを彷徨くやつ一人として居なかった。そこからポツポツと増え始め2の月を過ぎた今、総力戦を仕掛けられている。


『結構、今回はきついかも…』


何日か前の侵攻でサクルが腕を怪我して内部の守りへと下がってしまった。7名だけの攻撃部隊では足留めするのさえ辛くなってきた。


『ニュールに色々教わっときゃ良かった…』


この劣勢の中で無い物ねだりをしてしまう。ミーティ以外は洞窟から坑道に下げた…足下まで攻撃魔力が届き始め、終わりが近い事を悟る。


『ヤバイ!回想と悔恨なんてお決まりの展開…旗立ちまくり?敵、主要人物登場で…一般人ヤラレタ的な?』


ミーティは自身の運命が風前の灯火である事を感じ天を仰ぐ。

不意に横からも攻撃が仕掛けられ、ミーティの身体を撃ち抜く勢いで迫ってきた…もう防御も間に合わない…目を瞑るしか無かった。


『あぁ、こう言う決定的な瞬間ってゆっくり物事が過ぎるって言うけど…長すぎる』


ゆっくり目を開けるとそこにはくるくるの金の髪に包まれた色白の整った面立ちをした、澄んだ濃い青の瞳を此方に向けている美少女がいた。


「おい、こんな時に寝てるたぁ、いい度胸だな!」


オヤジ口調のその美少女の後ろから、懐かしい新緑の瞳を輝かせ愛くるしい顔を愛嬌たっぷりの満面の笑みで満たした大地の髪色の見知った少女が顔を覗かせた。


「ミーティ大丈夫?」


心配そうに覗く瞳にミーティの動悸が増した。


「フレイ!!何故ここに?!」


そんな問いかけの中、残っている一番のヤバそうな奴が最前線の此処で攻撃を仕掛けてくる。


「2人ともこんな所に居たら危ない!」


ミーティの切なる叫びが響く。

それと同時に、モーイの手に既に用意されていた攻撃魔力が撃ち放たれた。

その攻撃は、敵の防御結界があたかも硝子だったと思えるぐらいに簡易にパキリと破壊され、その先にある脳天を直撃する。


「ここまで来て助けてやったアタシ達に向かってそりゃないだろ」


モーイは少し呆れて投げやりな感じだ。


「…!!」


絶句するミーティの横でフレイがモーイに文句を言う。


「モーイやり過ぎ!これ残っちゃう!!」


平然と息せぬ者が残す液体を見ながら、その者を処理するフレイに再度絶句し、その後起こった事にも目を疑った。

フレイがいきなり陣を展開し、その者を消し去った。


「あと一人、サクッと行こう!」


モーイの掛け声に力強くコブシを挙げて答えるフレイに更に驚くのであった。

残り一人となった者は呆気なくモーイに倒されフレイに森の仲間の下へ送られた。



突然の来訪者によって手こずっていた襲撃者は全て排除された。


「メッチャ疲れたスグ休みたい!」


モーイの姫様発言が出た。

モーイは自らが傅き尽くす事も知っているが、傅かれ尽くされる事も知っている女である。

フレイはニュールが居なくなってからモーイと旅する中で、上げ膳据え膳で奉仕されているモーイと搾りカスの様になっても身を捧げ幸せそうな男達を見て、世の中の不条理を学んだ。


そんなモーイの言葉と希望は押し通され、ミーティの部屋を占拠することになった。


ミーティの母イラダが不在であり、代わりに取り仕切る者はミーティである。だが、この時間で他の者には頼れずこうなった。

イラダは明日帰宅予定だそうだ。


年下二人…子供と部屋を共にしても特に気にならないし、ミーティの部屋は樹海の集落仕様で床に厚い絨毯を敷きそこで休むものなので5~6人ぐらいなら招き入れられるからだ。


久々に会うフレイの成長は何だか追い越されそうだけど、とても嬉しかった。


だがミーティはそんな呑気な状況で無い事を、マントを脱ぎ捨てて転がり休もうとしている2人を見て悟った。


『…ヤバイ…』


ミーティは男子的には最高の状況が展開されているのを理解してしまった。


ひとりは金の短めの髪をくるくると頬に巻き付かせ、クッションに気だるげにもたれ掛かり青い目を半分閉じている滑らかですらりとした肢体の美少女。


もうひとりは、柔らかい微笑みを浮かべとても眠そうに子猫のように伸びをする数ヶ月前より少し大人びた見知った顔の少女…だがその身体は見知らぬ大人のモノだった。

滑らかで柔らかそうな健康的な肢体…出るところが出て引っ込む所が引っ込む。マントの下の厚めの服も脱いでいるので、しっかりと流線型の形と膨らみが把握出来てしまう。

他の奴らに教えたら殴り殺されそうな状況である。


しかも子首をかしげ宣う。


「ミーティも疲れたでしょ?早く寝よ~」


もともと好意的な気持ちを抱いていた少女が大変身した身体を目の前にさらしミーティを待っている。


鼻血案件であった。


『はいっ。一度退室して出直さないと眠れません…』


ミーティは先に休んでるよう伝え一度食堂で頭と身体を冷やしてから部屋に戻り、なるべく隅の方で休んだ。

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