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20.加わる流れ

タリクはアルバシェルの私室のある西棟から中央塔を横切り爆発の有ったらしい北棟へ向かう。


中央塔もかなり慌ただしいが、北棟の事件への対応と言うだけでないようだった。何か他の重大事に対応しているかの様であり、嫌な予感をタリクに起こさせた。


「やはり、あのボロは本当に疫病神かもしれない…」


アルバシェルには黙っていたがあの者達がサルトゥスの者でない事や、色々な素性は既に報告を受けていた。

やけにボロに執着しているので、それらを聞くと色々な方向に動き出しかねないので黙っていた。



タリクは今ではアルバシェルに付いているが、元々は皇太子の精鋭となるべく育つ者の一人だった。


選りすぐりの20人程が皇太子の回りで過ごし、色々な実地の対応訓練の中で5人程残るように選出していく。

タリクは元々神殿からの推薦枠でその中に入っていた。優秀ではあったが少女のような見た目が災いし、能力で勝り残っても信じて貰えなかった。

ある日、選考中の仲間に集団で襲撃され捉えられ、通常と違う趣味の貴族に提供されそうになった。


…その状態を、偶々王宮に戻っていたアルバシェルに救われた。


かなり思うがままに救ってくれたので、角が立ちまくった状態だった。その為、丸く納めてくれたのは実質は黒姫だった。

だが、その虫唾の走る貴族に痛快な蹴りを入れて助けてくれたのはアルバシェルだった。

ある意味問題になるぐらい再起出来たか心配になる大事な場所への蹴りであったが、その一発をぶちかましてくれたお蔭で今までの全ての嫌なことが吹き飛びタリクは心から笑えるようになった。


それからもう7年経つが、途中で守護者にしてもらった。


アルバシェルは最初から守護者を持つことを拒否していた。

タリクはそれでも申し出た。


初めは自身に内包する負の力に染まる魔石への負い目があると言って拒否した。

その後は自身の生存年数が通常と異なる事について説明をして拒否した。

最後は特別な者を持つのが怖い…と話し拒否した。


…だが拒否させなかった。


「僕が貴方を守護します!!」


タリクはそう言い切り、アルバシェルを説得し、そして今がある。




タリクは北棟の現状を確認した。


門が吹き飛ばされている。それと厩舎が破壊され様々な牽引用や単独移動用の獣があちこちに散らばり闊歩している。

統括する者無く、バラバラに奔走する出仕や禰宜達。


ここの神殿は基本的に神職の者しか存在しない。

王都の神殿程では無いがそこそこの規模があるのでそれだけで運営出来るのだ。

各棟5名と中央塔10名の小殿司30名が実質の管理者であり、その中の中央塔上位4名が統べる者として上に立つ。

そして全体を纏めるのが大殿司である。

祭主は神殿で一番上の役職ではあるが、神々と人々の間を取り持つ存在として据えられた神職であり、中央神殿と辺境神殿のみに存在しアルバシェルとその姉だけであった。


タリクは中央塔の小殿司である。

更にアルバシェル付きで普段は神殿に出向く事が無いのであまり認識はされていないが中央塔上位4名の内の1名であり…統べる者である。


今現在この場所に辿り着いている禰宜は少なく、小殿司は居ない状態。状況確認であったので隠蔽等は使わずに来たため、その場で実質最上位であるタリクは指示を出さざろう得なかった。


しかも目の端に信者に紛れて見掛けたことの有るものを発見してしまった。


『ちっ!雑魚』


タリクはニュールがクリールと見知らぬ女を連れてて歩いているのを見つけてしまった。魔力を感知され無いが警戒も受けない程度の軽い隠蔽を掛け、信者のマントを被り移動している。

巧妙な魔力操作であった。

闇夜と言うこともあり、気づいたのはタリクぐらいであろう。


消火の手伝いや、野次馬として結構な人数の一般人が入り込んでいる。北棟の小殿司もやっと出てきたのでタリクはその者に指示し、入り込んだ一般の者達の安全を守る指示と、元々やっていた消火と厩舎の獣の回収を効率的に行うよう指示しその場を離れる。


そして客車付けから棟内へ侵入しようとしている者達に声を掛ける。


「ここは死者の門です。この先は関係者のみとなりますのでお戻り頂くか…ここを通る資格を得ますか?」


声を掛けられた者は警戒し一斉に振り向く。


「…タリク」


「ここへ入ろうとするならモット周到に行うべきです。程度が知れる杜撰さです」


綺麗で可憐な顔で相変わらず丁寧に辛辣だ。


「アルバシェル様の元にボロは保護してあります。そこに向かいます。最短経路の中央を抜けるので隠蔽を強めに掛けて下さい」


「…助かる」


ニュール達は思わぬ助力に出会い先に進む事になった。


「先に言っておきます。アルバシェル様の私室は西棟の最奥です。もし、私が引き留められた…若しくは留まったなら、なるべく早く離脱し私抜きで目指して下さい。もし中央が抜けられないようなら各棟の通路中央付近に中庭への扉がありますので其れをうまく使って下さい…ただし中庭は迷…」


先頭を涼しい顔で足早に歩きながら隠蔽魔力で完全に気配を消している背後の者達へ情報を伝えていたが、中央塔に差し掛かると案の定、そのまま抜けていくには問題がある状況がそこに展開されていた。


中央塔入り口からそのまま上の階へ向かう吹き抜けの階段の回りに殆どの神職の者が片膝付き頭を垂れていた。


皇太子殿下ご一行が何故か転移陣を使わずに大叉角羚羊(プロングホーン)の騎兵近衛隊50名程度の陣営を引き連れ、ムルタシア神殿にやって来たようだ…周りのおしゃべりに耳を傾けると囁く者達のお蔭で状況を把握できた。

後ろに付いてきていたニュール達は、この状況を速やかに判断し入り口と反対の東側へ向かったようだった。


『こんな時間に何故…』


タリクは皇太子殿下の急の来訪を訝しむが、素早くその一行からの死角に入りそうな端を選び片膝付き頭を深く垂れ災難に見つからないようにじっとしていた。


だが災難は自ら近付き声を掛ける。


「久しいな!」


聡明な瞳を輝かせ明るく朗らかに近づく未だ少年の様な青年…陰湿で残忍な魔物のごとき本性は少しも見せず語り掛ける。


「会えて嬉しいよ!!」


この皇太子殿下が、かつてタリクを集団で捕らえ利する貴族に提供しようとした張本人だった。

その事件の後、本人がタリクの目の前で言ってのけたのだ。


「君自身に利害を感じ無いし、面白そうだから話しに乗っただけだよ!あの貴族が僕に利益をもたらすって言うから動いたのに…黒姫に怒られて損しちゃったよ!!」


大変不満を持ったようだ。


「あの貴族にはキッチリ責任取ってもらわないと…これなら君を僕のオモチャに加えて遊んだ方が楽しかったかもしれない…」


その言葉を聞き、当時タリクと大差ない子供であったその者に寒気を感じたのであった。



そして今、目の前にその大きくなった姿を目にすることになった。

あのとき以来会って無いのに予想通りと言うか予想以上に…見目麗しい外見に反して捻れ曲がって歪んで育ったようだ。


「殿下も御健勝そうで何よりです…」


「以前も綺麗で可愛かったけど…叔父上の所にいるせいなのかな…」


皇太子殿下は手を伸ばし、タリクのさらりとした新鮮な銅色に輝く髪に指を絡ませながら引き上げ無理やり面を上げさせる。

タリクは良く年齢と見た目でそう言う…疑いの目で見られる事も多かったし、実力以外で得た地位…と神殿でも言われる事が多かった。

だが、タリクの態度と実力が其の雑言を封じる以上の力を持っていたため、今現在この場所でそう言った事を表立って口にする者は居なくなっていた。


「僕はお嬢さんのお相手しか出来ないけど、君を見ていると叔父上に御教授頂けば良かったのかと後悔するよ…」


下世話な表情で失笑する回りの者達の中、怒りを抑え無表情でいたタリクの顔に一瞬昇る怒気。

しかし押さえ込み述べる。


「私など些末な者にまでお心配り頂きありがとうございます。我が身はアルバシェル様に捧げたものゆえ、ご所望ならば新たなる華をお奨め致します」


殿下はタリクの冷静な返答に余裕で答え爆弾を投じる。


「そうだね…僕もやはりお嬢さん方が良いかな。丁度、野に咲く華が手に入るようだから失敗しないよう良く見せてもらう事にするよ…気に入ったら叔父上に今度は先に譲ってもらうよ」


「!!」


タリクは皇太子殿下に対峙した顔に驚きと疑念の表情を浮かべてしまった。


「素直な子は好きだよ…ふふふふっ!ハハハハハっ!!」


高笑いと共にタリクを解放し元の場所へ戻り進んで行く。


『…人質だとしたら最悪だな』


タリクは皇太子が手に入れようとしている物のための人質がフレイならばアルバシェルは其れを差し出してしまうかもしれないと思った。

其れが自らの生命と引き換えであったとしても…。


『もし、アルバシェル様が其れを選ぶならば禍根となる者を断つ…』


もし、大元を排除できないのならアルバシェルに恨まれようとも、執着する者を排する覚悟を持つタリクだった。




ニュール達はその入り口大広間の吹き抜けの階段裏からなるべく見つからないよう移動する。


フレイとの守護者の回路は繋がっているのは分かるが樹海に居る時と同じように魔力の干渉が多すぎて明確には掴めない。

西棟に向かうには、中央塔は人が集まり過ぎているが北棟は先程の事件の収拾で通路を行き交う人も多い。

南棟の経路だと中央塔入口が南棟と東棟の間に先程の客の出入によっては危険だ。

北棟は通路を使わず中庭への扉を使うだけなら問題は少なかろう。抜けた先の中庭も事件の現場が150メルほど先の棟最奥なので庭の中程を通り過ぎても目立たないであろう。

ざっと予測を立て、一番手近にあった東棟の中央の扉から中庭へ出る。中庭は閑散としていた。

ただし、その庭だが仕切や上下移動のある不思議な作りをしていて単純な移動のはずなのに手間がかかる。


「あっちじゃない?」


そう言うモーイの言葉には一切耳を貸さずニュールの感覚で進む。


「アタシの意見だって聞いてくれても良くない??」


「ムルタシア渓谷に落下したくない…」


「ひっど…!」


酷いと言うがモーイの示す方向は、この前も今も皆危険地帯への道か振り出しに戻るかどちらかだった。

タリクを見てから何だかモーイが落ち着かない。


「…オジサンだと甘くみてたらアンナ美少女とも知り合いってどう言うこと!…だからアタシの魅力に抵抗できるのか…どんな関係…」


ひたすらゴニョゴニョ言って妄想が突き進みそうなので伝える。


「タリクは男だぞ!」


「!!!」


モーイに取ってはかなり衝撃的な事だったようだ。


「男なのに美しすぎる…っえ!そっちだったら望み無いじゃないか!!」


面倒くさいから放っておくがモーイの頭の中の妄想がタリクとニュールの妖しい場面で染め上げられない事を願うばかりだった。

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