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15.集う流れが大きくなり

「王よ…何故…」


処分を受けたその者は深く穿たれた自身から流れ出る暖かさを感じながらその場に沈んで行く。

堅実な手腕を持つ大臣だった。


「何故って…止めた方が良いって言われても僕が欲しいからだよ…」


其処に有るものが欲しいならば手に入れる。ソレだけの事だ。


「…まぁ、面白いから欲しくなるんだけどね」


意見は求めるがそれは望みを叶える為の一手。反論は求めないし許さない。

舵をとるのは王であり、従えぬものは切り捨てる。



現在のヴェステ王国15代国王シュトラ・バタル・ドンジェは20代後半であり、他国の王に比べればまだ若輩と言われるような年代の王である。

だがその能力は15歳の時、既に後継争いをする他の者の追随を許さず、若年であると言う壁をぶち壊し王位を勝ち取った。そして現在は他国を圧倒的な力で凌駕し国威を振るう。そして今のヴェステ王国の立ち位置を確立した。

無難に振る舞えば最強にして最良の賢王となったことであろう。


だがその性質は、王家の血脈に巡り宿る性質を色濃く持ち、王自身が王家そのものの様だった。

すべてを渇望する呪いのような思いを抱く王。


『欲しいから欲しい』


どんなに偉そうでご立派な理由を付けたって、欲しいから欲しい。それが理由だと王は語る。

ただ、その王の欲は適切な道しるべとなり国を引き連れて進んで行く。


『この世の全てを解き明かし手に入れる…』


国中を巻き込むその思いが触れてはいけない領域へと進んで行こうとも、たとえ世界の理を崩す行いであっても止められない。



まだ王位に着かぬ幼き頃、一度だけ許される王族の諸国漫遊の旅。

そこで得た知識や体験はその者を作る礎となる。


大概の者が海側諸国を巡るなか、継承順位は1位であっても未だ継承者でしかなき頃、シュトラ・ディ・ドンジェは文献に載っていたお伽の国の不思議な生きた塔をめざす。

出会ったのは賢者の塔と其処に住まう美しき住人。


そして魅了された。


その後、同じ思いを抱くであろう自分の利となる者を本能で選び出し、適所に送り込み方向性を整える。

そうして一糸乱れぬ軍事大国ヴェステ王国を自身の希望を満たすために邁進し築き上げていく。

欲しいものを手に入れるためだけに。




赤、青、黒、白の四将軍が久々に王の前へ集う。

王の御前に並び揃い片膝つき頭を垂れる。


そして白の将軍が正式な挨拶を述べようとするのを片手で制止し、王自身でいきなり本題に入る。

砕けた口調で問い尋ねるが誰一人侮る者は無い。


「どう?計画は進んでる?」


「6塔のうち主なき2塔は問題なく…」


全体を統括管理する白が少し言い淀みながら現状を報告する。


「正しき所有者が居る塔はそれ事態が生き物の如く…」


実際に湖の国を落としに言って失敗した青が申し開きをした。


「ふーん。…で何時になったら全部手に入る?」


「「「「………」」」」


全員が返答に困り口を閉ざす。


「今のところまだ手が届かないって事かな…」


無言の者達を玉座より見渡し、話を切り替える。


「赤の!火力の補充は上手く行きそうかい?」


「はっ、計画は進んでいます」


「手が足りないんなら隠者出してあげるから言いなさい」


「有り難きお言葉!」


赤の将軍の顔に滅多に見られない緊張が浮かび、畏まり礼を述べる。


「青の!君の所に行かせいてる、暴れ魔物なウチの妹が迷惑かけてるねぇ」


「いえっ、大変優秀で…」


「そう言うのは要らない。それより、何か隠しているみたいだけど知ってる?」


「隠していると言うよりは整ってから開示したい…と、研究者としての思いかと存じます」


「…ふーん、まぁ夢中になって忘れちゃっただけだとは思っていたけど、君が付いているから一応ね…」


王は 砂漠王蛇(ミルロワサーペント)が楽しげに獲物を狙ってるかの様な表情で佇む。


「…だけど次は無い。不審なものは潰しておくに限る。それが僕の経験則だから…気をつけて」


普段は傲岸不遜を絵に描いたような青の将軍が王の前では形無しである。


「黒の!やっと出て来たね!君が心から僕に直接使えてくれる事を期待しているよ」


華やかに微笑み迎える王に素っ気なく対応する。


「…まっ、この位置に戻ったので宜しくお願いします」


「!!!」


黒の将軍はめんどくさがりで、昔からしっかり全てを喋らない事は皆に知れ渡っている。だが王へのその態度に、白の将軍が厭わしげに黒を見て剥き出しの怒気を向ける。


「白の!そう言うのは面倒だから他でやって」


白の将軍が行き場の無い怒りを内に押し殺した。王はそれを見やりながら力強く導く笑顔で皆を見下ろす。


「皆、白も黒も青も赤も僕のモノだから、其々を自身でも大切にしておくれ。この先に見える世界を皆と手にしたいんだ」


志の違うもの達を同じ方向に向かせ、その先を見てみたいと思わせる人物。


文字通りその言葉だけで皆を魅了し抗えなくしていた。

この王が望めば全てが目の前に差し出される…異を唱える者は排除される。


抗うものがいない世界では、恐怖と歓喜で吊り上げた足元に出来上がる世界がどんなに歪であろうとも運命を動かしたものが止めない限り動き出した運命は止まらない。


止めなかった者は、自らの首が絞まる時に行動の責任を悟るしかない。


だが思惑を持つものは何人も存在する。

また思惑無く世界を動かす可能性のあるものも…。




思惑を持つ者…。


「黒姫様お時間でございます」


「えぇ、ありがとう」


側仕えたちに促され控え室より移動し、その扉の前に立つ。


扉が開け放たれる。サルトゥス王国の宮殿横に建つかつて賢者の塔であった神殿。

その2層のテラスに現れる一人の尊き姿。


腰まである美しい黒髪をなびかせ、雪花魔石の肌に黒曜魔石の重厚な輝きを持つ瞳を輝かせ、面持ちは柔らかく周りのものすべてを慈しむ笑みを浮かべる風姿。

其処で待つ民達の前に美の女神が降臨されたが如き厳かで尊い姿形のその方が現れ、その神々しさに一瞬息を飲む様な静寂が訪れる。


その後、割れんばかりの歓声がその場にうねり昇っていく。

そしてその女神と見まごう方が一言述べる。


「皆様に神の手により、多くの幸が降り注ぎますよう願っております」


鈴のように美しい声が全体に広がり耳元へ降りてくる。

その響きに其処に居た者達の歓声は歓喜の雄叫びへと代わり人々は敬慕し賛美し心酔する。

その一瞬の邂逅を得るために人々は神殿へ詣でる。


その皆の尊崇を集める者が、サルトゥス神殿の時の巫女その人であった。



テラスでのその束の間の巡り合いの中で皆の尊崇を得、対価として至福を与える。

時の中で得た技か、未だ唯人が手に入れてない魅了の魔力を操るのか…。


黒姫と呼ばれる時の巫女は、部屋に戻り一人の側仕えのみ残し皆を退出させた。

其処にある柔らかな椅子に深く沈み呟く。


「そろそろ場面展開する頃かしら…私たちも参加しないとね」


無表情に世話をする一人残る側仕えに話しかけたのか独り言なのか…。

その美しい人は艶やかな笑みを浮かべ徐に上空へ手を伸ばす。


「…もうすぐだから」


そう呟きながら、其処に無き者への思いを募らせた。




テレノの街で素敵な魔石商さんに出会えたとフレイリアルは思った。


魔石商さんは宿の受け付けに荷物を受け取りに行く前に端の椅子に掛けて待つように言うので言われた通り待っていた。

直ぐに受け付けから貴重品を受け出し、ついでに飲み物を持って来てくれた。


「串焼きを食べたままだと喉が乾くでしょ?」


「嬉しいです!」


本当に塩辛いのは美味しいけど飲み物も一緒の方がよい。


『モーイ串焼きばかりでお金使いきって大丈夫だったのかな…』


そんなことを考えながら貰った甘い飲み物を飲む。


「サルトゥスにある果物と野菜で作ったジュースだよ。串焼き1本の昼食より健康的でしょ?」


『…あれっ、おじさん串焼き1本って??』


フレイが疑問に思ったときに目の前に希望していた魔石が差し出された。


その瞬間全ての疑問が頭から消し飛んだ…。


「灰簾魔石だ!」


その魔石は少し小振りだが輝きと色合いが好みの物だった。


『リーシェの瞳の色…』


そして持っている魔力が包み込むように優しくて、この魔石商のおじさん自身が大好きな魔石を、好みの物だけを選んで集めたと言うのが本当だと良く分かった。

そして、その魔石がフレイの所へ来ても良いと言ってくれてるような気がした。


「やっぱり君の所へ行きたがってるね!うちの子を宜しくね」


「本当に良いの??…ありがとう!」


おじさんが微笑み渡してくれる。そして嬉しくてフレイは、その魔石を直接手にした。

魔力が流れ込み、魔石の思いのようなものが伝わってくる。


『…ゴメンネ…と、…キヲツケテ…???』


その時、フレイは異様な眠気の中に自身が閉じ込められていくような感覚を得た。その場に沈んでいくような感覚。


「…ゴメンネ…お代はこの迷惑料と差引で…」


さっきの魔石から声まで出たと思ったら魔石商のおじさんの声だった。

フレイが遠ざかる意識の中で視界に入ったおじさんの顔には、今までと違う一切の表情が消えた顔があり、口が動いているのが不思議な位だった。

最後に聞こえた音はおじさんが冷たく言い放った言葉。


「神殿へ連れて行け」


その後完全に意識を失ったフレイは首に袋にいれて掛けられた灰簾魔石を持って神殿へと運ばれて行く。

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