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13.流れが早まりつつ

「まずお姫様を略取しましょう。そうすれば元《三》は簡単に獲れる」


《五》は計画を簡略に伝える。


「但しお姫様には捕らわれたと気付かないように来てもらおうかな…」


不満げな《7》が計画に異を挟む。


「その姫君が大した魔力操作はできないと言うなら、簡単に力押しで捕縛すれば良いじゃ無いか」


大分この街での待ち時間に飽き飽きしたのか、最初の頃は《五》より丁寧だった《7》の口調が以前より荒々しさを増していた。

まさしく化けの皮が剥がれつつあると言った感じだった。

《五》は《7》の不満を流しつつ《30》に向かう。


「お姫様を連れてくるのは君の役割にして良いかな…周りは好きに使って下さいね」


次に不満をためつつある《7》へ向かい伝える。


「元《三》が、お姫様を捉える時に邪魔する様なら《7》にお願いしたいのですけど…大丈夫かなぁ?」


その微妙な言葉に《7》がいきり立つ。


「…っは?毎日鍛練に励む私に出来ない事だと思うのか?その場で捕縛してみせる!」


「出来るのなら是非お願いします…但し冷静さを欠いて計画全てを潰さないで下さいね…」


笑顔で《五》が《7》を煽る。


「…!!、お前の計画を私が補完してやります。有り難いと思って下さい!」


怒りはそのままに、冷静さを取り戻し冷たい火を宿す《7》の瞳が其処にあった。


『まだ10代に見える様なこの男の、人心掌握術が半端ないな…』


《30》は自身の長い年月をかけて得たそれとは違う才能の様なものを感じた。



《30》はいつも思っていた。


『ここに所属する者達が皆、別の場所で道を歩んだならどんな人生が待っていたのか…』


タラレバのない世界であるのは十分に分かっているが別の人生を想像してしまうのだった。



旅の仲間にモーイが加わったことでフレイの日中の行動の制御を手伝ってもらえる。それだけでも、ニュールは非常に助かっていた。

付いてくるのを許可するに当たって、護衛兼、雑用兼、道案内として雇うことで話はついたが…道案内としては頂けなかった。


テレノの町に着くまでの長くは無い道のりを、樹海経路の旧道に危うく導かれそうになって引き返したり、獣道に突入したり…色々あって結構な時間を費やしてしまった。

フレイと本来の目的地の細かい話し合いが気軽に出来ないと言うのも少し不便だった。

その為、野宿で休む時はフレイがクリールと一緒にニュールをクッション代わりに寄り掛かりに来て、結界と静穏の魔力の元で話すと言う習慣が出来た。


「ニュールってばちょっと固くて青の間のクッションみたい…そんなに経ってないのに懐かしいな。…リーシェ…元気かな…」


遠い目をしてフレイは呟く。

最近モーイが居るのでエリミアの話をする機会も減り、少し塔が恋しくなっているのかも知れない。

なのでニュールはボルデッケでの注意事項と共に少しだけ大賢者様の話を振ってみる。


「ボルデッケに入ると神殿ってのがあって、そこは神様が居る所だそうだ。そこに行って転移陣を使わせて貰うんだけど、そう言う所では失礼な事を言ったり騒いだりしない様にした方が良いから注意しろ」


「神様って何?」


フレイはポカンとした顔をして聞いてくる。

大賢者様の所で学習したはずだが…あまり興味を覚えなかったようだ。

エリミアにはそう言う概念がなかったから仕方ない。


「オレもよく分からんけど、色々見てて何でも出来て願いを叶えてくれる者かな…まぁヴェステとかは王様を神様、王族をその眷属のように扱うらしいから、エリミアがソレと同じだったらお前も神様の眷属だな…まぁ、一番神様が似合いそうなのは大賢者様な気がするがな…」


「本当だ!!リーシェなら、そのまま神様できるよ!もうみんなのために水とか空気とか管理して働いてるもん」


「そうだな、エリミアは既に大賢者様無しだとやってけないもんな…これ以上神様っぽくなったら凄いことになりそうだ…」


世界中全てを従え信者としたリーシェライル様を想像したら…笑えなかった。


「うん。スゴいことになりそう」


「あの姿で皆の前に出て、皆に幸あれ…とか言ったら幸が溢れそうだよな。それにお布施でエリミアが豊かになるんじゃ無いか?」


「お布施ってなに?」


「願いを叶えてくれ~とか、叶ったからありがとう~とか、そう言う気持ちをお金に変えて寄付するんだそうだ」


とてつもなく杜撰な説明だがそれ以上のものを求められても、ニュール自身あまり理解出来てなかったので難しい。


「笑ってるだけでお金もらえるなら羨ましいけど、本当は神様だって頑張ってるのに、それに気づいてもらえないなら寂しいね…」


「そうだな…頑張った事は分かって欲しいよな」


フレイは神妙な顔になって呟く。


「神様みたいなリーシェのお願い叶えてくれる神様はいないかな…」


「お前が神様の代わりに願いを叶えてやるんだろ?」


「…でも私だけじゃリーシェが可哀想…」


フレイリアルはリーシェライルを思い切なそうに遠くを見る。


「オレだって手伝ってるし、大賢者様の幸せを願うよ…」


その話の後、アルドからボルデッケへ移動した後の話もした。


神殿はボルデッケの街の東、ムルタシア樹海渓谷の際にある。

其処に転移陣が有り、利用許可は大賢者様が連絡してくれているはずだ。そこからは本来の身分に戻り、転移陣を使って王都へ飛び友好使節として活動する。その後、帰路につく予定であると…。


「もう一度…スウェルやドリズルに寄りたいな…」


「今は先の事じゃなくて、アルドの街に入ってからの注意事項も少しは覚えておけ!」


…既にフレイリアルの耳にはニュールの声が届かなくなっていた。

大賢者様の話の後、申し送り的確認をしつつ…ニュールを枕にして早々に寝てしまった。




モーイはニュールは達の旅に護衛と雑用…と言うことで加わって居たが、ニュール達の旅にはもう一匹フワフワの仲間も居た。


鎧小駝鳥(アマドロマイオス)のクリールはモーイの事を一目見たときから、かなり気に入ったようでいつも頭突きして擦り寄る…但しモーイはクリールが相当苦手なようだった。


『昨日はニュール父さんが展開した強力な結界魔力の中で守られた娘フレイが、父さんにもたれ掛かって休む姿…それは幸せ家族そのものだったのに!…モーイ母さん混ざれなかったよ~』


妙な妄想に染まりつつ心で叫び嘆いていた。

クリールが居るので混ざれなかったのだ。


モーイは子供の頃遊んでいる時に魔物鳥に嘴でツツカレ、相当痛い思いをしたことがあった。

それからモーイはどの大きさの鳥もダメになった。

だから任務中も近くにソレの気配を感じる時、モーイは先に殺って排除する。


『コイツはアタシより皆に近い奴…家族並みに扱われている。優先順位的にはコイツの方が上!…排除しちゃダメ!』


希望と理性の間で独り悩むモーイであった。




テレノまで辿り着くのに結局何だかんだ1の月程かかった。橋入り口には境界壁大橋管理事務所にて通過処理を受けるのを待つ人々で賑わっていた。

半時ほどその列で待つと順番が回ってきた。橋入り口の門前で、認証魔石の確認を行った。


フレイリアルもニュールも本来の魔石ではなくリーシェライルが選んだ物だった。

本来のものだとフレイの場合、即どこぞの国の王位継承権持ち…とばれてしまう。

青の間にてフレイとニュールに大賢者様からソレは直接手渡された。


「フレイには黄玉魔石と緑柱魔石を、ニュールハは赤柱魔石を用意したよ」


「瞳の色だね…」


フレイは嬉しそうに受け取る。


「そうだね。他国の民が認証魔石を選ぶとき目の色等を参考にする事が多いらしいよ…フレイは設定で使い分けてね…」


「リーシェに送るなら灰簾魔石が似合うと思う!今度贈るね」


「ありがとう。待っているよ」


優しく甘く微笑むリーシェライルはその時も儚く寂しそうで…一層闇色が濃くなっていくようで…天空の天輝石を探す為であっても大賢者様を独り残す選択が本当に正解なのかその時ニュールは不安になったのだった。




テレノ側の確認終了後、橋を渡る。しっかりした石造りの橋で、所々に魔法陣用の魔石が埋め込まれているのでフレイが引っ掛かりまくり、橋を越えたのがこの時間だった。


クリールは魔力検査場に出さねばならない。

飼育可能な魔物や獣の境界門から中への持ち込みは魔力検査で暴走の兆しが無いか確認してからでないと連れ込めない。

門外の検査場に預けて問題無ければ門内の窓口でそのまま登録書を受け取り連れて行ける。

エリミアの様に基本外部の者全てお断りな国と違って、出入り出来るからこその確認審査手続きが色々生じるようだ。



「今が昼時から1つ時過ぎる少し前だからだから2つ時には門の前に居てくれ…。モーイ済まないがフレイを頼む。オレはクリールを検査場に出したらボルデッケまでの乗り合い客車の時間を調べる。場合によっては宿を用意する」


ニュールは今後の予定を伝えた後、再度注意を与えようとしたが既に遅かったようだ。


「こっから先は店が並ぶ区域だ。例え魅惑的な魔石でも勝手に…モーイもちゃんと見て…」


二人共もう説明するニュールの声が耳に入る余地は無かった。


ニュールに頼まれたモーイはウキウキだった。


『奥さん的立場じゃないか!』


また何時ものように妄想に浸り何も聞いてない状態になりつつある。


フレイはフレイで既に魔石の展示してある店先の硝子にへばりついて店の者の不興を買っている。


「……」


ニュールは頭を抱えながら注意事項を重ねる。


「おいっ、クリールの連れ出し忘れないでくれよ!あそこにある時告げの塔にはでっかい期計りがついてるから、あの針が反対に向いたらクリールを門横の窓口に連れ出しに行ってやれ。クリールの登録証には皆で魔力を流してあるから3人の誰でも連れ出せるからな!」


「「はーい!」」


二人とも、余所を向いているがよい返事が帰ってくる。


のっけから二人の自由さに、チョット…イヤっ、かなり…不安になるニュールだったが、人通りの多い場所なので人目があるし、しっかり強めの魔力で結界も施してある。一時を凌ぐ力になりそうなモーイも今回は居る。


ニュールは自分を納得させながら、遣らねば先に進めない雑用をこなす為その場を離れた。


その隙を…好機を見逃さない者が既に巧妙な隠蔽魔力をその身に施し控えていることにニュールはその時点では気付かなかったのだった。

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