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11.流れは近づき集まりつつ

地下にある、酒の一覧と一緒に裏組織の依頼が載るメニュー表を出してくれる酒場。その一覧を確認する女二人。


「ほらっ、またヴェステからの依頼が出てるよ」


「アタシはあそこの依頼は妙に嫌な感じがするから遠慮しとくよ」


「だって割が良いよ!」


「アンタそんな選び方ばっかりしてると痛い目見るよ!」


こんな世界でも親身になってくれる気のいい仲間はいる。

その仲間の折角の忠告を無視して割りの良い怪しい依頼ばかり受けるモーイは直ぐに痛い目を見ることになった。


標的の情報なら50グリの紅玉魔石。身柄の引き渡しなら100キグリの紅玉魔石と言う依頼だった。


チョロそうな標的だったから、迷宮の様な洞窟で奴を見失った後、モーイは悔しさに歯噛みした。


『グリとキグリじゃ全然量が違う!!』


逃した獲物の価格は大きく感じる。

本人を捕らえる事には失敗したけど、あの高値の依頼なら情報だけでも更に高く買ってくれる所があるんじゃ無いか…と欲をかいてしまった。


そして自ら失態を招き寄せた。


後ろ手に縛られたモーイは洞窟内をつれ回され男の痕跡を探させられた。


「自分で探した時だって分からなかったのに、もう一度探したって分かるわけ無いじゃないか!」


そのモーイの言葉に反応した男に無言で腹を蹴り上げられ胃液が上がる。


「…ウプっ」


『何でこんな事になってるんだ…』


自分で出した呻きと同時に心で思う。


だが、モーイは色々やってしまってた。

守秘義務違反…自分の組織以外に情報を漏らし…と、契約義務違反…受けた仕事を投げ捨てた…を。

最低限のルールしかない裏組織でも歓迎されない行いをやってしまった。

此がバレたら其処にも戻れなくなるのに…。


その上、情報を高値で買うと言う奴らに情報を売ったつもりで捕まった。


『あぁ~良くてコイツらに売り飛ばされるぐらいで、悪きゃここで殺られる…』


妙な達観の中で引き回される。

その時、何の気配もなく背後にいた男たちが膝をつき倒れ…そして次々と動かなくなる。


一人…二人…十人、十四人。これで全員だ。


其処にいた組織のハグレ者達は吐息ひとつ立てることなく動かなくなっていた。

モーイが気配なき気配が背後にあると感じたのは、後ろ手に縛られた手を掴まれた時。


次に殺られるのは自分…と覚悟を決めた。

縛られた紐がほどかれ声をかけられた。


「大丈夫か?」


其処にはターゲットにしていたオヤジが困った顔で此方を見つめ微笑んでいた…。


何時ものモーイなら「くそオヤジ見るな!」とか、「存在がうざい」とか言っているような距離と笑顔。


『ダメだ!オヤジなのに格好良く見えちまう!!この助け出された姫君シチュエーションは何だ!』


モーイが顔を紅くして無言でいると男が呟く。


「街まで送る…」


そして姫様抱っこで運ばれる。男が足に纏わせた魔力は強力で街までの距離が近い…あっという間に時間が過ぎ去り、残念に思った分そう感じたのかも知れない。


街に着き、モーイにとっての夢のひとときが終わりを告げた。

でも終わらせたくなかったモーイは勇気を出して伝えた。


「貴方に付いて行きたい…」


「…イヤっ、お断りします」


予想外の即答とウンザリ顔。


「!!!」


モーイはそう来るとは思わなくて絶句した。


気配を消してないときのモーイは、町中を歩いてると何人かは振り返るぐらいの美少女だった。

短めのくるくるした濃い金の髪と青い瞳。絵に描いた様な見目だった。

多少、発育不十分な所があるのは自覚しているが、まだ17歳。

此れからに乞うご期待…と言った所なのに、あまりに素気無い対応は少し納得がいかない。


だが次の瞬間、二の句がつげない凍るような雰囲気を男が纏う。


「次は無いぞ…」


モーイが何をして陥った状況なのか全て理解されてる…。


『もう無理…』


心の中の逆上せる様な呟きと共に、本能の赴くまま男に抱きつこうとした…モーイは自身の行動が止められなかった。


…が、あっさりとすり抜けられた。


「家帰って寝ろ!」


微笑みと共に男は姿を消した。

モーイは持っていかれた心を取り戻す為に追いかけて手に入れる決意をする。





ミーティ達から橋の存在を聞き自分の迂闊さに気を重くしていたニュールだが、取り敢えず前向きに先々の予定を組もうとしていたその刹那だった。

鉱山の入り口として使っている洞窟が迷宮の様になっている辺りで、魔力が動く気配がする。


ニュールは居住区から其処へ至るドアの前に佇み沈鬱な表情で思案する。


『やはり情報の遅滞で付け入る隙を与えてしまったか…』


後ろからミーティ達若手の荒事担当8名が、ニュールに対峙した時のようにやって来た。


8人が皆、内包者(インクルージョン)であるのは最初に会った時からニュールには何となく分かっていた。

樹海は魔石持ちが多いようで人々の半数は内包者のようだった。

皆、それぞれ繋がり方は違うが綺麗な回路が開いている。

最近、見えなかった回路がはっきり見えるようになっているがニュールはあまり気にしていなかった。


ミーティ達はニュールを見ると少し驚いた様な顔をしたが、手合わせした時を思い出したのか敵に気付き其処に居ることに一瞬で納得していた。


ミーティたちを見てニュールが言う。


「こっちのお客様だといけないから先に行かせてもらえないか?」


ミーティ達が反論しようと口を開く前に付け足す。


「もし色々な意味で心配なら2名一緒に来い…だが、手出しは無用だ」


ニュールを信じられないなら…と言うことらしいが、一人で危険に当たらせるほど鉱山の者は薄情じゃない。それに皆とのやり取りを見ていればニュールが良い奴であることは分かった。


ミーティとお爺の孫サクルが出る事になった。



地上部にある迷宮の様な洞窟にたどり着く。


「確認したいので其処で隠蔽と防御を展開して待っててくれ…もう少し探ってくる」


ニュールはそう言って出たが、ミーティ達が探った感じだと結構手練れの感じの者が10名以上いる。しかも人質まで居るようだ…。

しかし、ミーティ達がその後の自身の行動指針を考える間もなくニュールは戻り報告した。


「なんらかの裏の組織って感じだな。しかもハグレの奴っぽい。そいつら14人と娘1人。オレの客では無かったが、娘はオレがこの前付けられたのを放置しちまった奴だ…まだ常識も知らなそうな子供の様だからその子だけは見逃しても良いか?」


ミーティ達は顔を見合わせ頷く。


「それじゃソイツらを殺ったらそのままその子は街へ置いてくるから、片付けだけはスマンが頼む」


最後まで言うか言わないかの内にニュールの気配と姿は消え、二十数える間もなく其処にいた者達の気配が消えた。

そして同じ二十を数え終わる頃には少女を抱え街の方面へ飛ぶ様に走り去るニュールらしき人影を認めた。


『『何だったんだ!!』』


ミーティとサクルは顔を見合わせた。


警戒しながら気配の合った場所に近付く。

街で見掛けたことのあるゴロツキがいた。程ほどの強さを持っていた為、やりたい放題な奴等だった。

ミーティ達も装備や状況によっては自分達でも負けてしまうだろうと分かっていた。そのため、極力近付かないようにしていた。


全員倒れているようだが、引き続きの警戒を怠らず更に近づいた。

呻きも微動することもなく、その者達は既に物体と化していた。


その表情は何が起こったのか疑問ひとつ抱かず、その直前まで行動していたままの表情で止まっている。

筋肉ひとつ動かす間も与えず、一瞬ですべての生命活動を停止しているように…絶命した後の痙攣ひとつ許さぬように。


『格が違う。イヤっ、人間としてのレベルを越えている…』


もちろんミーティ達だって自分達の今後を守るために、相手の目的は察知してたので殺るつもりで準備してた。

だが殺された側の者ではないのに…驚異を取り除いてもらった側であるにも関わらず、ミーティは身震いするような恐怖をニュールに感じた。

サクルも同じような思いを抱いたのか、そのハグレ達を処理をする手が重い。


『良い人であっても近づいては行けない人間がいる』


抱えた恐怖と共に自身の心に深く刻み付けるのであった。



翌日早朝にフレイリアルとニュールとクリールは鉱山を出立した。

敵を排除後、ニュールが街から帰るとミーティは目を合わせてくれなかった。

体に表れる動きが恐怖への痕跡を物語る。


『あぁ…そうだよな…』


ニュールの戦いのなかに存在する《三》で有ったことの残滓が人々に恐怖を与えてしまう。


自身の引き起こした結果である。

結果がもたらす寂しさはあるが、これで良いと思えた。


笑顔で別れるが二度と訪れてはいけない場だと思った。


ただ、最後にフレイとニュールに向けてイラダが代表して礼を言って来た、地輝の魔力から救ってくれた事、驚異を排除してくれた事に…。

イラダには、フレイがやったことがどこかに干渉し、断片としての記憶が若干残っているようだった。


そのイラダの言葉だけでもニュールは救われた気分になった。


でも先へ進み始めたとき、背後からかけられた声は心に暖かい喜びを生み出した。


「また、来いよ!今度戦い方を教えてくれ!オレは皆のために強くなりたい!!」


ミーティの真剣な声がニュールを救う。


「…あぁ。皆を守れよ!」


自身の持つ力が救う力であることをニュールは切に願った。





滞在10日目にして、やっと相手が動き始めたばかりで先が長いことに飽き飽きして来た影達だった。


提案された " フレイリアルとニュールのお出迎え " 案件。


少し思案した後、その件を提案した《30》に《五》が笑顔で答える。


「うん。その提案に乗るよ…」


『やった!これで若者二人を遠ざければ少し楽が出来る…』


そう思えたのは一瞬だった。にっこりと微笑み、この場での最上位の《五》が続ける。


「だけど3人で迎えにいこう」


一瞬の《30》の落胆を読み取り《五》は覗き込むように《30》の顔を見る。


「楽できると思った?」


愉悦に満ち溢れた笑顔で言う。


「楽してもらっちゃ困るんだ!《30》ってば優秀なんだから、しっかり使うように言われているんだ。だから、精一杯働いてね」


若者らしくかわいく微笑むが可愛さとは程遠い。


流石、他の者を押し退けて《14》から一気に《五》に昇っただけのことはある。


「それに遠くまで行く必要は無いから、お隣のアルドまで行こう!」


かなり近場でのお迎えのようだ。


「橋、開通させといたからさ!」


「!!」


《30》は橋が完成しているのは知ってたが認可が降りるまでまだ長いと言うような噂を聞いていた…《五》は何らかの手を打った様だ。


『この坊っちゃんを決して甘くみてはいけない』


強く心に止める《30》であった。

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