おまけ1 《14》のその後
「…大賢者様ってば、鬼畜だなぁ…えげつな~い」
境界壁内に居る、かつて魔物や仲間だったものたちの惨状。
境界壁外で《14》は目の前で広がる境界壁内の光景に、隠蔽の魔力を使ってそこに居るのに思わず声が出てしまった。
その事が起きる前、《14》はニュール達との戦いでは一定の収穫を得たことに満足していた。
賢者の塔、地上階でのニュールとの煌めくような一瞬の攻防。
かつてニュールが《三》で有った頃の様な殺気無き殺気を近くで感じ、必然の殺戮が作り上げられる過程を見られた気がした…それは《14》自身のご褒美としては十分だった。
それに報告に上げる予定のお姫様の能力情報は成果としては十分だし、お釣りが来ても良いぐらいの内容だ。
そして、あの時点で手を引くことで得た、皆の唖然とした顔…。
「十分楽しめた」
微笑みながら小さく呟き、その時点ではそう思っていた。
《14》はニュール達との戦いに自ら区切りを付け手を引いた後、担当だった部分の境界壁破壊の状態確認へ赴いた。
更に面白くするため、魔物の呼び込みをもう少し積極的にやって安全な日常に慣れた人々の目を覚ます役割を担ってやろうかと思った。
王城より王都近郊境界壁までは大した距離では無いので、その部分の確認に足を運んだ。
その大規模で驚くべき供覧は上空に浮かぶ一筋の青白い輝きから始まった。
見る見るうちに巨大な魔法陣が浮かび始める。
何重にも重ねられたそれは、煌めき輝き一つが完成すると次を描き始め次々と広がっていく。
王都上空から始まり、少しずつ円に円を重ね大きくなって行く。その様子は、この国全体を包み込むまで広がりを止めることは無いだろうと思われるぐらいの勢いがあった。
暫しの時間、増殖する輝きは続いた。
それが完成したと思われる時、目を閉じたくなるぐらいまで輝きを増した。
その後、上空に浮かぶ魔法陣より青白く輝く魔力が降り注ぎ始める。
狂い暴走していた魔力の流れに、天から降り来る巨大な魔力が無理矢理に紛れ込む。その強制力を持つ魔力は行く先を整え、従わぬ流れを無情に切り捨て修正していく。
新たなる流れを生み出した力は、落ち着くべき所へ無理やり連れて行き填まるべき場所にピタリと填められる。
目の前で繰り広げられた光景に《14》はサランラキブの計画が失敗したことを悟った。
『色々と予想外の戦力が有ったからしょうがないよね…任務失敗の責任はサランラキブ様が取ることだし、下働きの僕には関係ない話かな…』
失敗でも先々得た有益な情報で立場的に全く問題は無かった。その為、かなり傍観者気分で気楽に構えていた。
上空と境界壁を交互に眺めながら、その壮大な魔力の行使を美しく雄大な景観とさえ思って見ていた。
その時、自身の手に違和感を感じた。
直後、確認した自身の手から輝きが漏れているのを見てその刹那全身に寒気が走った。
《14》は、まだ完全に結界が修復されてない境界壁へただ突っ込む様に境界外へ駆け出した。
本能が警鐘を鳴らしたのだ。
イマを逃したら…ココに居た続けたら消滅する…と。
自身が境界壁外に抜けた後、振り返り完成されつつある結界内に残る者たちを確認した…。
最初は皆同様に、不思議そうにそれぞれ自身の手や足から漏れ出る光を確認していた。
ある者が叫びを上げた。
「助けてくれ!!!」
その後、輝きを持続させてしまった者達はそこから崩れていった。
輝きにより崩れた体であるにも関わらず、その場より出ずる生命の証は各々の体を薔薇色に染め上げる。輝く部分が進む毎に華やかなる飛沫が吹き荒れ、その中で阿鼻叫喚が響きとともに酸鼻極める状態が繰り広げられる。
結界内の者は結界外の安寧を求め、既に超えられなくなった境界壁前に押し寄せ折り重なるように人も魔物も関係なく溜まってゆく。
輝き出さなかった者達も出来上がる鮮やかな血潮の海に沈み、徐々に正気を失って行く。そして結界外に居た者達はその光景に絶句して見守るより他なかった。
しかし、その凄惨な光景も空から魔法陣が消える頃には、そこにかつて生命が存在したことを思わせる様な痕跡は全くと言って良いほど見当たらなかった。
そこにあるのは、かつて存在していた者達が着衣していたであろう衣服などだけであり、一滴の生命の証さえその所有物から消え失せていた。
見知らぬ者が発見しても落ちている物への不思議しか感じぬであろう。
『大賢者様やるねぇ~。《三》の殲滅と同じぐらい心が持ってかれそうになったよ…』
絶句から立ち直る《14》は考える。
『陣の魔力が影響する条件は何だ?…よく観察して報告しないと…ソレを忘れる方が怒られちゃって怖いからね』
消滅したもの…魔物、ヴェステの影、あらかじめ潜入していた一部のもの…正規経路での侵入者には被害者なし。現地で雇い入れたエリミア国民の被害なし。違法入国したと思われる者達は消滅。
『他の地点との比較検討が必要だけど、また面白い報告ができそうだな』
《14》は新たに知ることになった強く美しい圧倒的力の顕現にワクワクとした胸の高鳴り止まらなかった。




