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おまけ10 切っ掛けは些細なこと 18

旅の最後…予想外に立ち寄る事となったエリミアで、キミアリエは思い寄せていたモノ…其れを妨げてきたモノ…同時に出合う。

気持ちも思考も…状況に揺さぶられ激震走るが、湧き出す怒りは突然に昇華した。

一度揺さぶられ、全てが整理整頓され辿り着いた境地。

其れはキミアリエに、柔和な表情と落ち着きを与える。


だが平常心取り戻したかの様に見えるキミアリエだが、其の状態…心の一線越えて至った結果。

今ある異常さを、カリマは感じる。


そんなキミアリエの口から発せられた問い、単純な意味なのか複雑なのか…意味が有るのか無いのか…真意一切読みきれぬ。

カリマは直球で問い返す。


「えっ? 其れって、どう言う意味なんすか?」


キミアリエは先程まで見せていた昂りは欠片も見せず、極上の笑顔で答える。


「僕は小悪党で、小物なんだっ…て理解しただけさ。だから、もっと上を目指してみようかなって…思ったんだ」


「いやっ、其の新たな認識面白いっすけどね。でもキミア様が一般寄り…ってのは無いっすよ。キミア様ってば悪役の中の悪役、確実に大元締め的な悪だから!」


何だか微妙な内容での断言。

聞いてるキミアリエも、何とも複雑な表情を浮かべる。

だが、カリマは御構い無しに続けた。


「普通っぽい悪役って表現だと、大物が小物ぶってる感じ…悪者が謙遜…擬装して良い人ぶってる感じに聞こえちゃいますって!」


悪者度を語っていると、誉めてるのか貶してるのか微妙になってしまう。


「ホントに君ってば、命知らずって言うか…単純に酷いよね。其れにね…買い被ってくれてるけど、純粋に理詰めで欲に従って動く奴って…こんなもんじゃ無いよ。僕より遥かに歪み極まった目をしてて、自分がまだまだ…って思えるんだもの…」


先程遭遇した…真に悪どきモノを思い起こし、可愛らしくむくれていた自身の姿とは程遠い…と実感したのだ。


「だからこそ、尚一層理性的に…無謀な悪を極めてみようと客観的判断で決めたんだからさぁ…水を差さないでよね!」


己より勝ると認めた悪役と比較し…至った結論。

だが端から見たら、悪は悪…迷惑極まりない害悪。


キミアリエは清廉で美麗な姿であり…チョット悪ぶった王子様にしか見えないが、実際には身勝手極まる下衆王子。

合理的であるのなら、顔色一つ変えず…醜悪な行い笑って指示出来る悪どさ持つ。

見た目や行動…理解する部分で認識は変わるが、十分に悪辣なモノ。

何か間違った方向性で謙虚さ発揮していたのは、巨悪に対峙し若干自信喪失ぎみで自虐的になっていたから。


だが完全に昇華し…より純粋な悪を目指すキミアリエ、意気揚々…抱負を語る。


「国家転覆とか…人類滅亡…とか、目指してみようかとも思ったんだけどねぇ」


「おっ、とうとう闇落ちっすか?」


突っ込み甲斐あるキミアリエの言葉に、つい…合いの手の如き茶々入れるカリマ。

悪の極みを目指す時点で、十分痛い奴に成り下がり…落ちている。

だがキミアリエはあっけらかんと、余裕で言い返す。


「何で僕が薄暗がりに落っこちなきゃいけないのさっ。自分を引きずり落としてまで果たしたい思いなんて、これっぽっちも無いよ?」


「だって…こう言うの、定番の展開…って感じじゃ無いっすか?」


「其れじゃ僕が面白く無いよ」


「えーっ、落ちて暴れるって楽しそうっすよー」


「ねぇ、カリマは僕が嫌いなの? 喧嘩売ってる?」


浅薄な理解に、若干憤ったよう。

勿論、カリマは速攻言い訳する。


「イヤっ、好き嫌いは超越してます。喧嘩する気は更々有りません」


「ふーん。じゃあー逆に僕が嫌いなモノって何だか知ってる?」


突然の方向転換。

キミアリエへの理解度の確認?

カリマは一応、キミアリエの望む方向に会話流す。


「さぁ…自分より見目麗しき男とか、なびかない女? 美しくないもの、年増? 爺?」


いきなり望むであろう答えから…明らかに道化た内容で返すが、カリマの戯れ言に動じる事も憤る事も無く…キミアリエは余裕で応じる。


「人の見た目など、魔力纏えばどうとでもなるんだから関係無いよ。女性は年齢に関わらず美しいんだ! 其れにお年寄りは知識の宝庫なんだよ、馬鹿にしちゃ絶対駄目!」


流石キミアリエ、爺っ子。

年上愛が強い。


「はぁ、さいですかぁ。オレは若くてピチピチのバインッとしたムチムチが好みですわぁ」


「関係ない事ばっか答えないで」


大人姿なのに、相変わらずあざと可愛くむくれるキミアリエ。


「はぁ…御屋形様の守備範囲は広すぎて、オレ付いてけないっす」


「そうじゃ無くてさぁ…僕が嫌いなのはねっ、良いやつなんだよ。特に…酷いこと散々しているのに、ぬけぬけと聖人君子面引っ提げてる…周りから好かれてる奴。労せずに人の注目集め興味と好意を受ける奴だよ」


微妙に特定の標的が有るかの様な表現。


「努力の必要もなく周りの慈愛を一身に集める様な奴…持って生まれた天然の魅了の加護持つ様な奴は、大多数の凡人にとって害悪だよ。だって何も持たぬ…努力だけで成り立つ大多数の者は、何をしても叶わないんだからさ…」


「親方様も、十分に優遇受ける可愛さっすよ!」


「こう言うのとは違うんだよ!」


ピシャリと否定して、キミアリエは持論の展開を続ける。


「何となく気になって目が離せない、劣る部分までを人を垂らし込む優秀な武器にしちゃう様な奴…」


更に条件を付け足す。


「それなのに…自分では望んでも居ない立場に置かれ、なのに其れを隠し通して…全うしようとする奴」


「何か普通に立派で良い奴に感じますけど…」


其のカリマの返しを覆すべく力説するキミアリエ。


「だってさぁ…遣りたくも無い役目を背負ってるなんて、気の毒で不幸だよ?」


「はぁーそー言うもんっすか?」


「そうだよ。其う言う自己犠牲的な格好付けって、周りまで不幸にする害悪だよ。だって善き行いは、他にまで無言で善行強要しちゃうからねっ」


「見せつけるんじゃなく、隠し通すんなら関係ない気がしますけどねぇ~」


カリマは微妙にボヤいてみるが、キミアリエには響かない。


「だから僕が僕のために…願いを叶えてあげるんだ」


「んん~? でも相手は願わないかもしれませんぜ?」


「当たり前じゃない! だって僕が願うだけだし、基本僕のためだもん。それに…もし願わないのなら抗うはずだし、抗う力を持っているんだよ? 僕は力無き者に挑んだりはしないよ」


「挑むんすか?」


「そう、挑むんだ!」


相当に独善的で傲慢であるが…其の事を否とせず、キミアリエは自身を肯定する。


「何処にも不都合は無いでしょ?」


「はぁ……」


思わず溜め息が漏れるカリマ。

だがキミアリエの中から吹き出し溢れる歪みは、御構い無しに現状を掻き乱すべく動き始める。


「僕はね…不均衡も不確定要素も、全ての時の流れに必要だと思うんだ」


「ハイハイ」


「だけどね、其れは与えられたモノでは駄目なんだ。だからこそ…始めから与えられた優遇をブチ壊して引っ掻き回す要素や…立場って、重要で大切だと思うんだ」


「ソーナンスネー」


「僕はね…僕が望むのはね…」


言い澱むキミアリエに、投げ槍になっていたキミアリエも少し興味を示す。


「僕は僕が此処に居るって、少しだけ知って欲しいだけなんだ…」


「はっ? 大層な屁理屈捏ねたのに、結局自己顕示欲っつー奴っすか?」


「いいやっ、知らしめたいわけじゃ無いんだ」


意図を誤解されたく無い…とばかりに、カリマの言葉に抗う。

だがカリマは容赦なき棒読みで、無感情に問う。


「目立ちたいんすかー?」


「ほんの少しだけ…でも僕自身を見て欲しいんだ…」


結局…否定しようもないぐらい其のままの気持ちを、キミアリエは素直に晒す。

戸惑いつつも…気持ち汲む努力しようとしたカリマだが、次のキミアリエの言葉で理解を手放す。


「自分が落ちるつもりはサラサラ無いけど、他人を引きずり下ろす気は満々さ」


「うわっ! 何でそうなるんすか、ヤッパリ絵にかいたような下衆…ヤナ奴っす」


勝手極まるキミアリエだが、ゲンナリとした表情で言葉返してくるカリマに対し…一切の思いも状況も気にせず…自身の進む方向のみ語る。


「…ったくぅ…キミア様ってば14の歳を何周したら、ソンナ感じに拗れちゃったんすか?」


「10周超…とかかな」


「成人前の若者特有の駄々は、そろそろ卒業されても良いんじゃ? っつ~周回じゃないっすか?」


「嫌だねっ。僕は決めたんだ」


「一体何を決められたんすか?」


まだ此の疲れる遣り取りが続くと思うと…気が重くなるが、聞かずには居られぬ。


「お人好しで…人を魅了する人垂らしって、僕にとっては悪でしかないからさっ。まず其処からどうにかしようかな…って」


「はぁぁ…。此の人、本当に迷惑だな」


隠す様子もなく、キミアリエを落とすカリマ。

最早、取り繕う労力の方が惜しい。


「仮にも掲げるご主人様に対して、陽炎ってばめっちゃ失礼だよね!」


「うわっ、此処で陽炎呼びって…仕事…仕事って事っすか?」


「当ったり前だろ~?」


どう見ても無茶振り来そうな雰囲気高まってるので、カリマは自分から難題提示してみる。


「あぁぁーまずは、元巫女の大賢者様でもかっ拐ってみますか?」


「出来るんなら、僕を操るのに一番効果的かもね。でも…確実に青の塔の先代様に殺られるよ。僕以上に猟奇的だよ?」


「嫌っ…自分以上にって…貴方、猟奇的で偏執的って自覚有るんなら、馬鹿な事は止めて下さい」


「何か加わってない? はっはっー、まっ、良いけどね」


「あああっ、言葉届かねぇー超虚しーんすけど」


「ふふっ。やっぱりカリマが消えちゃうのは寂しいから、危うきには近寄らずって鉄則守ってね! アレには近づかない方が良いよ…」


「気遣うの其処? アンタが普通なら、危ない道に踏み入らずに済むんだよ!」


思わず対等に…偽らぬ…素の態度と言葉が、カリマの口から溢れる。

其を聞くキミアリエの表情が、何とも平和で幸せそうなのが印象深かった。


「まぁ、まずは安全な所から…情報を制す所から遣ってみるから安心して!」


「既に十分握ってますよねぇ…」


まともな…理屈が通りそうな会話に戻り、カリマは少し安堵する。


「もっと手広く、隅々まで行き渡るように操作するのさ」


「それで、どんな悪どいことを企んでらっしゃるんで?」


「悪どいじゃなくって、面白い事…って言ってよ」


カリマの突っ込みに、心底楽しそうな笑顔を作るキミアリエ。

浮かべる状況によっては善良にも邪悪にも見える…極上の癒しとなれる美しさ持つ笑み、だが今は…まごう方無く…悪…なのである。


「既にオレの中では面白くないこと確定なんっすが…止めてもらえません?」


「折角遣る気出てるんだから協力して!」


甘い笑み浮かべ…こてりと首傾げ、またもや可愛らしさを悪どく利用する。

分かってはいても上手いこと丸め込まれてしまう。


「はぁあ…。其れで情報操作して何するんすか…」


「僕の望む事や嫌いなモノが何か、十分に分かってくれたでしょ?」


「あんま、分かりたく無いんですがねぇ」


気乗りしない表情で…カリマはキミアリエの確認の問い掛けを濁してみるが、簡単には逃してくれない。

勝手に会話は続き、話しは途切れぬ。


「じゃあ…僕が其れに遭遇したらどうすると思う?」


「嫌味の1つでもブチかましますか?」


キミアリエは楽しそうに、カリマに対し呑気に答える。


「それじゃあ、只の挨拶だろ? つまんない事言わないでよねぇ~」


「関係の無い奴なら、其れで十分に迷惑じゃないっすか? 突然嫌味ぶつけるだけでも十分猟奇的っすよ」


「そっかなぁ? でも実際は知り合い…仲間だったモノだしねぇ」


「…で、実際何しようってんですか?」


「うーん。まずは国から追い出してぇ、討伐対象にでもしようかなぁ。面白そうでしょ?」


「はっ? 何を?」


「も・ち・ろ・ん…世界の理を管理するモノをさ…」


キミアリエの流麗な笑顔が、歪む。

だが歪み加わり均衡崩れた…本来なら醜き表情、だが其れさえも1つの味わいとしてキミアリエの麗しさは完成する。

美しさ損なわぬ邪悪さ。


「折角、世界が破滅の啓示から逃れたのに止めましょうってば!」


「今…僕はね、公平な世界より…どんでん返し…一発逆転がある世界の方が、面白そうだと思うんだぁ」


「オレは何とも言えないっす」


「神々の気まぐれ…の存在する、変転する世界の方が夢があるよね」


「はぁ…。オレは穏当な…今の状態。十分に悪くないって思うんですがねぇ」


「たとえ誰かの犠牲の上に成り立つものであっても、世界裏っ返る可能性持つ方が何倍も楽しそうだよ!」


興じたキミアリエは、極上の笑み浮かべ…悦に入り思案に耽る。

既に耳に届くかさえ分からぬが、カリマは一切ぶれずに宣言する。


「まぁ何でもよいっすけど、オレはキミア様に付いていきますよ。其れがオレ自身が選んだ道っすから…」


言葉と共にカリマはキミアリエに向けて、全てを包み込むような笑顔を贈った。

そして更に告げる。


「ただ…取り敢えず今は…」


更に手に持っているものを頭上に掲げ、キミアリエに差し出す。


「ちゃんと服着て帰りましょう!」


木の上で悦に入り語っていたキミアリエを地上に導き、無事…カリマは当初の役目を果たすのだった。

おまけ話10 終了です。

お付き合い頂き、ありがとうございました。

ちょっとした隙間時間のお供になれたのなら、幸いです~

また…おまけ話・続編・別話…色々と書いてみたいので、見掛けたら宜しくお願いします。

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