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おまけ10 切っ掛けは些細なこと 15

「やっぱりニュールのネタは鉄板だねぇ…そんなに好きなの?」


決して気付かれる事無い、平常心装う端正な笑顔浮かべ…キミアリエは問う。

何度となく繰り返してきた…ニュールを祭り上げるラビリチェルとの間で交わされた、似たような遣り取り。


「ただの好き…違う、全て捧げるべき存在。私達が根差すべき…世界の始まり」


いつも面倒がって口数少な目のラビリチェルの口から、驚くほど言葉が溢れる。

キミアリエの些細な変化には気付かぬまま、ラビリチェルは心からの思いを込め…温かく柔らかな表情で…崇高な思い捧げニュールを語る。


「ふぅぅん、激しく入れ込んでるねぇ。でも其れって一方通行じゃないの?」


「ニュールが誘惑却下したの残念。でも世界が存在で…ラビリも存在。繋がる…」


「…何か変な思い込みが甚だしいねっ…」


キミアリエの笑顔が冷気を纏い、非難する様な言葉が紡がれる。

仄暗い思い混ざる何かが…ゴボリっと意識の奥底で湧き上がるのを、キミアリエは自身で感じる。


「じゃあ其の世界が、崩壊したり…無くなったり…全く違うモノに変わったのならどうなるのかな?」


「此の世界は此の世界、違うなら…違う世界。其処居るの、ラビリじゃない」


「もしもの前提さえ受け入れないんだ…」


其の頑なではあるが真っ直ぐな信念…思わず敬意を表したくなるぐらいだが、歪み勝る今のキミアリエは…曲がらぬ思いを曲げたくなる。


「君にとっての世界は屈強で崩れないんだね。でも…例え世界に何かが起きても、自身が残っちゃえば勝手に時は移ろい流れてくんじゃ無い?」


「ラビリの世界平和。何も起きない」


「ふふっ…そうだね。確かにちょっとやそっとじゃ崩れそうもないし、想像つかないよねぇ。体験してみなきゃ味わえない事って…有るもんね」


キミアリエは此のディリチェルの傲慢とも言える天晴れな認識に、病的な愉しさが増していく。

幼女姿である…眼下のラビリチェルの頬を両手で覆い、軽く上向け強制的に目を会わせる。


「じゃあさ…変化が起き…世界が消え…根底が覆った時、君は何を思い選ぶ?」


キミアリエは更に激しく問い質したくなる衝動を…ひたすら追い詰めたくなる激情を…湧き出し溢れ出そうになる黒き思いを…、静かに抑え込む。

キミアリエが何かを堪えている事を察しつつ、其れでも何一つ思い曲げる事無く…ラビリチェルは貫き語る。


「意思変えるも…思い留めるも、其の時…其の場に居るモノ。例え自分自身でも、今のラビリじゃない。干渉は不可能」


「僕は…君に…世界の多様さ…新たな可能性、其れを体感する機会を贈りたかったのだけど…何か難しそうだね…」


そしてスルリとラビリチェルと同じぐらいの大きさに変わり、軽く口付ける。

突然の変化と口付けの意味は、した方も…された方も…分からない。

ただ何処までも…自身の主張を通してきたラビリチェルだが、キミアリエの…何故か自棄になっている雰囲気を察っする。

そしてキミアリエを見つめ…手を伸ばし、心配…に近い表情浮かべ…頬に触れ返す。


「お前、私と違う世界。でも…気にはなる」


「少しは…世界が近付いたのかな」


脱力した…何処か寂しそうな苦笑い浮かべ、ラビリチェルを見つめるキミアリエ。

芽吹く自戒の思いと共に、新たに生まれた細やかな僥倖に触れる。

理詰めの打算では無く…思いのまま携わり、其処に何らかの繋がる思いが築かれたのだと…少しだけ救いを感じた。


だが同時に思い知らされる、自身が最上でもなく…唯一でも無いと言うことを…。

感じたシコリは…魔力導き損ねた魔石の様に半端な力を放ち、身を損なう。

笑顔浮かべ取り繕うキミアリエの中で、隠しきれぬ虚無感が心を占めていく。


ドップリ自身の思いに浸っていたキミアリエだが、自身の不手際…ヤラカシタ事にハタと気付く。


「アレっ…何か御免。ヤケクソで突っかかっちゃったね…」


正気に戻ると何とも対処し難きもどかしさが、自身の中に襲い来る。

途轍も無く会いたかったモノに再会したのに、()の話題で昂り止まず…余計な思いをぶつけてしまった。

まるで嫉妬に刈られ、勢いで告白でもしたかの様な気分。

キミアリエ的にも大失態と呼べる、後悔必須…赤面…赤っ恥案件。

収まらなかった思いの昂りが、冷水被ったかの如く一気に冷める。


『うっわぁぁぁ格好悪! 超絶恥ずかしいぃぃぃー』


ラビリチェルが不思議そうに見つめる瞳を、見返す事が出来なかった。


キミアリエは此処までの…徒歩での道すがら、歓迎の意を含む誉め称える言葉を…人々から捧げられた。ただ一方的に知られているだけの…此方は一切知らぬ者達から受ける、何気無い…称賛。

其れは()と比較されながら向けられる言葉だったが、若干の引っ掛かりはあっても…纏められ一緒くたにされる事で同列に並び…逆に気分良く受け取れた。


其れなのに…自身で親しいと感じるモノ…関わりあると認めたモノから、比較されながら与えられる評価は…苦い葛藤を生み落とす。

どんなに前後で自身へ向けて称賛の美辞麗句捧げられようと、其のモノの名が近しきモノの口からから漏れ出るだけで…心の奥に仕切りできたかのように気持ちが塞き止められ…思いが沈んでいく。


此の不思議な…焦燥と寂寥纏う…羨望と憎悪は、キミアリエの心を蝕む。



此処インゼルには、一応の公式の目的掲げて赴いた。

技術・知識の交流・研鑽の為、公務での来訪。

勿論建前では有るが、此処には…白の塔には…珍しい大賢者が記した文献が在る。


大賢者は、自身の中にある過去から繋がる完全記憶…記憶の記録や…情報として纏め上げた情報礎石を持つ。

其れを、賢者の石と…自身の意識と共に次世代へ引き継いで行く。


其のため、他者が閲覧可能な文書として記録を残すことは非常に少なく…珍しい。

だからこそ此の白の塔に残る、大賢者自身や周囲に居た賢者の私見加わる文献等…大変貴重であり興味深き物として読み進められるのだ。


お陰でキミアリエも、昼夜逆転…ひたすら資料部屋に籠る生活を送ることになる。


行く先々で感じる…自身の中で蠢くモヤモヤを自覚し、自身の中に存在する懸念や鬱屈した思い澱む沼から自力で脱出すべく…ダラリと過ごす事10の日程。


本来の目的などお構い無く、怠惰に支配された姿をキミアリエは晒す。

確実に言えるのは…キミアリエの情けない本性が、今現在絶好調であると言う事。


「お前、凄くニュールと一緒!!」


比較されるのは嫌いだが、一緒にされるのは吝かでないニュール系突っ込み。

しかも今現在のキミアリエにとって、何の効力も発揮しない。

何故ならば、未だ半分睡眠中…のよう。


「んっ…」


「情けない…ダラシナイ」


むくれ呆れる様な…だが心配そうな複雑な表情で、キミアリエを見つめるモノ。


「お前、他国来てまでダラケル? 意味無し!」


昼も過ぎたと言うのに…未だ寝所で大の字になり寝転ぶキミアリエに対し、今日もラビリチェルがシラッとした冷たい視線を送りながら起床を促す。


「起床必須」


そう呟く今日のラビリチェルは、荘厳な雰囲気持つ大人感強めなの美女姿。

年の頃は、20代半ば過ぎ…という感じ。

冷ややかではあるが透明感ある麗しき面で、キミアリエの様子見るべく…淑やかに前屈み覗き込む。


其処に…白絹の如き輝き持つ髪がサラリと落ち顔に掛かり、無造作に其れを除ける仕草が加わる。然り気無い動作なのに…何とも艶かしく、目にしたものを逆上せさせる様な光景だ。


怜悧な雰囲気の…淑女の鏡の如きラビリチェルが、次に取った行動。

其れは…寝台の上掛けを思いっきり引き剥がし…無表情に寝台に転がるキミアリエを足蹴にし、荒々しく起床促す事だった。

一部の趣味趣向の持ち主にとって、垂涎の光景…だったかもしれない。

多様な傾向持つキミアリエも、まともに頭働く状態なら…嬉々としたであろう。


「うぐぅ…」


相当深く眠っていたのか、此の状況でも未だ半分夢の中…と言った感じ。

結構にしぶとい。

ちなみに…大人姿でラビリチェルが訪れたのは、インゼル共和国の宗主都市首長が…遠見の鏡での会談申し込みをしてきたため。


ディリチェルとラビリチェルは、インゼルの白の巫女…と呼ばれ幼女姿であっても各地で名を轟かす存在。

敢えて大人姿で無くとも、会談で威容示すは他愛無き事。

だが永続的に場を掌握すべく、侮り消し去り完璧に相手捩じ伏せ納得させるには…勇名馳せようと…武力・知力持とうと…女性…しかも子供姿では難しい。

ラビリチェルの大人姿は、効果的に権威誇示するための装い…なのだ。


「…んっ? ラビリ?」


起き抜けの状態…半開きの焦点合わぬ目で、キミアリエはボケっとラビリチェルを見つめる。


「綺麗で…大人なラビリ。素敵で…凄く嬉しぃ…。女神様のよう…神々しいなぁ」


ポヤポヤした表情で寝ぼけながら、キミアリエはラビリチェルの姿に対し…寝転がったまま感想述べる。


今現在のキミアリエは、偽りなき本来の姿。

銀と碧持つ端麗な王子様そのもの。

普段の…完成された毒含む絢爛さとは掛け離れた、純粋で無防備な雰囲気を纏う。

其れなのに、陽光差し込む清々しさの中…艶やかでしどけない。

片方はだけた寝巻きから覗く美しい筋肉は、自称体好きだけあって…自身をも余念無く鍛えているのが分かる。

寝起きであっても…いやっ寝起きであるからこそ、取り繕わぬ美しさ際立ち…全開の色気が駄々漏れだ。

其の上…ラビリチェルに向け、寝転んだまま花咲く様な微笑みを嬉しそうに送る。


「ん…? おはよ~が…まだ…だったかなぁ? 良い朝だね」


美麗男子、寝ぼけ状態での天然のあざとさが半端無い。

ラビリチェルの背後に控えていた侍女は、キミアリエの眩しい笑顔の直撃を受け…口元抑え…赤き果実の如く熟した色に染まり一歩後退る。

もし此処…でキミアリエが何か1つ働きかけたなら、腰砕け…其の場に崩れてしまったであろう。

鼻血もののキミアリエの尊き姿、侍女の心の奥に…確実に鮮やかに描き残された。


だが恐ろしいことに、侍女の隣にいた侍従までも…同様に逆上せ固まっている。

性別問わず巻き込まれる珍妙な状況。

もっとも…先頭で対応するラビリチェルは至って冷静であり、キミアリエの綺羅の誘惑にも動じる事無く言い放つ。


「いい加減、起床!」


そしてラビリチェルは容赦なき拳固を…言葉と共に浴びせるべく寝転ぶキミアリエに近付くが、スルリと伸びてきた細いのに逞しい腕が…いとも容易くラビリチェルの華奢な腕を捕縛する。

お決まりの流れ…とばかりに、腕を引き…寝具の上に抱き寄せる。

其の放漫で流麗な肢体を堪能すべく…悪さ企む手が動き始める瞬間、ラビリチェルは魅惑的な体を手放し…特定層限定で惹き付けるであろう幼き姿態へと変化する。

キミアリエの横で寝かし付けられるかの如く、幼女姿で転がっていた。


「目覚まし…なら、先程の身体で寝所共にしてくれた方がスッキリしたよ」


「そう言う目覚めは狙ってない」


「今の君も十分に素敵で可愛いけど、添い寝でもう一眠りしてしまいそうかな」


今度こそ完全に目覚めたキミアリエは、寝転ぶラビリチェルの頭を…優しい手付きで撫でつける。


「お前の目的…果たせ」


そう冷静に言い放つラビリチェルに対し、キミアリエは明瞭に答える。


「えー十分公務に勤しんでるよ、本読んでるじゃーん。僕の課題は、残すところ…寛ぐ事だけなんだけどなぁ」


「其れ建前」


「建前上等、ダラダラ最高~」


「教える約束」


「もーちょっと楽しんだらね。其れともラビリが楽しませてくれる?」


艶麗な雰囲気で小意地悪に、添い寝状態で語り掛けてくるキミアリエ。


「…………」


呆れ果てるラビリチェルの横で…大の字で横になるキミアリエは、悪戯っぽく状況を楽しんでいるようだ。


どうやっても遊び惚けているとしか思えぬ…働く事と縁遠いキミアリエだが、塔と繋がっていた大賢者としての感覚は確かであり…既に初日に目的は果たしていた。


其の仕事…目的…とは、次世代の大賢者となり得る資質持つモノの…存在の感知。

ニュールが兆しを見つけてはいたが辿れなかった繋がり、此の地へと招かれるに当たり…教えると約束した対価なのだった。

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