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おまけ10 切っ掛けは些細なこと 13

各地…往古より点在する賢者の塔。

国々の間に存在し、膨大な魔力持つ…或いは持っていた "特別な場所"。


塔司る大賢者や巫女が残り…正しく機能していたなら、崇め奉るべき力ある存在…畏敬の念抱くべき崇高な場として…拠り所求め集う人々の安息の地として…存続していたであろうか…。

集まる思いが慈愛の力となったのなら、巡る魔力が恵みを生みし…救いもたらす力となったのだろうか…。


キミアリエはヴェステから、単独でインゼルへ飛んだ。

インゼルが国として管理する転移陣は、白の塔から1キメル程離れた館別棟に設置されている。

只人…商会に属するモノとしての身分で手続きしたキミアリエは、其処から普通に歩いて…ゆるりと塔へと向かうと決めていた。


「相変わらず何も無いな…」


思ったままの感想を、キミアリエは呟く。

此の地を訪れたのは大事変の時、直前にあったヴェステ軍の侵攻跡消えぬ頃。

もっとも…其の惨状作り出したのはニュールと闇石、ヴェステ軍のせい…と言っては語弊がありそう。

キミアリエも同様の認識を持つ。


「いっその事、塔以外…綺麗サッパリ消しちゃえば良かったのにね。全くもって…中途半端だなぁ」


向かう先定められた…文句の様な独り言。

もし…言葉の先に実際ニュールが居たのなら "意図してない" と不服申し立てるか、何も言わず最初から… "スマン" と謝ってしまう様な気がする。

そう思い至ってしまう自分自身に対し、自然と苦笑いが浮かぶ。


此処インゼル…白の塔では、塔を司る大賢者が消えてから…幾世代も真の繋がりを持つ事無かった。

だが歴代の…白の巫女達が、機能維持すべく身を削り努力し…細々と保つ。


白の塔に居る巫女は、本来の巫女とは異なる…人工的な存在。

塔の力保つ為…過去の大賢者達が書き記した知識使い、此の地の弱者を捧げて作り出している…おぞましき成果。

自ら同意し…捧げる、生け贄の儀式…とでも呼ぶに等しき行い。


其の分、他の塔とは異なる特殊な関わりを…周辺の民との間で築く。

恐れ…憎しみ…と言った思い集う忌まわしき場であるはずなのに、其処に在るのが当然である愛すべき拠り所…と言った感覚をも作り出す。

守護する力持つ強靭な場であるのに、民にとって守るべき尊き場所でもある…特別な存在。

行ってきた事の良し悪しはあれど…塔本来の役割を担う、在るべき形を具現化した好事例…なのかもしれない。


「あっ、キミアリエ様だ!」


塔へ行く道すがら…未だ荒れた部分残る場所で、色々な作業をしている者達をちらほら見掛ける。

少し離れた場所から、大きくも小さくもない声で…名が呼ばれた。

一瞬…キミアリエは振り返りそうになるが、其の者達が呼び掛けるためではなく…認識したが故に名前を口にした事を雰囲気で悟る。


「えっ、アレって子供だぞ?」


「オレは以前近くでお見掛けしてるんだ! 間違いないよ」


「ただの餓鬼に見えるがなぁ」


気にせず歩みを進めるが…声を潜めるでもなく普通に会話しているので、ある程度離れてはいるが会話が筒抜けだ。


「白の巫女様と一緒で、お姿を変えられるんだよ!」


「そういやぁ、塔の中で誰か来るって塔で聞いた気もするなぁ…」


「絶対そうだってば」


移動自体を楽しむべく選んだ徒歩、相当に目立つようだ。

もし目立たぬよう注意するつもりだったなら、転移が適していたであろう。

塔周辺は…人死にも出た戦い跡であり、未だ整わぬ要警戒区域を…子供姿で1人歩けば注目されるのも当然。


「こんなド田舎に、あんな綺麗なガキ絶対来ないだろ!」


「そりゃそっか」


それ以上に…一度キミアリエを目にしたのなら、此の特徴的な美麗さ見間違える事は無いだろう。

子供姿であっても存在感際立ち、魔力でも纏わない限り…簡単に気付かれる。


そもそもキミアリエの現在の子供姿、どう見ても見習い始めたばかりの年齢。

修行の一環としての行動なら、立会人が同行するのが当然である年代。


勿論キミアリエも、ヴェステまでは護衛を兼ねたお付きと立会人を伴っていた。

だがヴェステから先…此処インゼルでの活動は、仕事装ってはいるが個人の都合によるもの。

気ままに自由謳歌すべく、単独行動を選択したのだ。


「あーそういやぁ、巫女様達と一緒にいた綺麗な兄ちゃん見たこと有るわ」


「だろ?」


「じゃあ本物の大賢者様かぁ」


「眼福だねぇ~」


民少なきインゼル…しかも白の塔周辺とは言え相当な片田舎、互いを見知る者同士で繋がっている…結び付き強き場所。

見た目年齢異なる程度では、此処で素性隠すのは難しいよう。


「はっ、まったく…こんな田舎なのに、自由に歩けないとはなっ」


だが文句垂れる口調とは裏腹に、キミアリエの口元はほころぶ。

認識され…何処かに所属する様な状態は、不思議とキミアリエの表情を明るくし…何だか悪くない気分にするのだ。


のんびり歩き続けるキミアリエの目には、道すがら出会う人々が…遠くで近くで…キミアリエを認識し会釈を送る姿が目に入る。

そして耳には…引き続き自身をも含めた色々な話が、届く事になった。


「おぉ、ピッチピチの大賢者様じゃな」


「爺さん…ピチピチって何か微妙だぞ」


「若いが極まっとるんじゃから良いんじゃよ」


「インゼルにいらしたのは久々なんじゃないか?」


「遊びに来てくれたのかな?」


皆が身近な出来事として、楽しそうに語る声。

会話の雰囲気からして、塔に出入りするか住まう者達なのであろう。


「凄い方なのに、此の地を忘れずにいて下さるって嬉しいなぁ」


「色々と役立つものや珍しいものを送ってくれるしな」


「ニュール様と同じ大賢者様だもんな…」


ニュールが引き合いに出されるのは、拐われて…此処に長く居たため。

塔に出入りする者は、粗方馴染みになっていたようだ。


「大賢者様方が色々と守って下さったからこそ、無事…なんじゃよ…」


染々と、大賢者達への思いを語る。

ヴェステ軍に囲まれ激しく攻撃された事や…大事変で真夜中に陽光の如き魔力塊が落ちてきそうになった事、忘れ得ぬ光景が目に浮かぶ。


「…強くて凄いのに、良い方達だ…」


「あぁ、本当だな…」


力有るものが義務果たさず、理不尽押し付けてくるのが世の常。

だからこそ…力無き民を守るべく力使う大賢者達に、心から感謝の思いを抱く。


「ニュール様はヴェステをやっつけて下さったし、キミアリエ様は塔の繋がりを回復して下さったもんな」


「だから巫女様達が苦しまずに済むようになったんだよな」


心からの尊崇の思い溢れ、謝意滲み出る言葉の数々が紡がれる。

ゆるゆると歩みを進めるキミアリエの耳にも感謝の思いは届き、こそばゆい感じがいや増し…何だか無性に居たたまれな気分になるのだった。


今の白の塔は解放され、他の塔と同様…魔力が循環し整っている。

以前…ニュールがラビリチェルに魔力与え、強制的に存続出来る様にした結果だ。

大事変の折…臨時とはいえキミアリエが白の塔付き大賢者となった事で、塔自体の機構が修復され…回路が復活した。


「キミアリエ様って大賢者様ってだけでなく、高貴な御方なんだろ?」 


「どっかの王子様だってな」


「あぁ、見るからに美しくって気高い感じだ」


「巫女様と一緒で、居るだけで有難い感じがする」


「うんうん、ご利益が有りそうだ」


えらく持ち上げられている。


「同じ大賢者様なのに、ニュール様の見た目の水準とは全然違うよなぁ」


「はははっ、違げーねぇ。ニュール様は凄いんだけど、何か…ただのオッサンにしか見えねぇんだよ」


「あぁ、ヨレヨレの大賢者様だ」


「酷っでーな」


「チョット同情したくなる身近さだな」


「ホントになっ」


いつもの様に…場に根差し、ニュールに向けた温かい思いが広がっていく。

其の様子に…キミアリエの表情に揺らぎ増し、心に歪み生じそうになった。

だが次の瞬間、話は予想外の方向へ走る。


「まぁ~キミアリエ様が、アノ美麗な姿で巫女様に駄目出しされて凹んでる姿も…情けない感じがして超身近だったぜぇ」


何故かキミアリエの情けなさに話が移っていた。


「えーそうなのか?! 何かそりゃ同情しちまうな」


「だぁ~そりゃ弱腰過ぎるぜ」


若干…情けなさ侮る者も出るが、どう考えても御同類。


「じゃぁ、お前なら行けっかぁ?」


「オレ、無理」


売り言葉売られれば、速攻撤退する情けなさ。


「うん、まぁ、そー言う感じ好きだけどな。情けな最高さ!」


「あぁ、キミアリエ様も含めて情けな最高組合でも立ち上げっかぁ?!」


「強え~女にゃ勝てんからなっ」


「ははっ、巫女様怒ると最恐だからなぁ」


「まぁ…何にしても、大賢者の様方が気さくで良い方達で良かったな」


「あぁ」


「本当に此処に来て下さって有難いよ…」


会話を聞いてしまった事…思わず後悔しそうになるぐらい、表情がふやけてしまうキミアリエ。

変に穿った見方せず…関わる大賢者に同等の親しみ持ち、素直に受け入れ馴染み…羨望よりも共感の眼差し向けてくる此の感覚が気持ちを前へ向ける。


()の話題を耳にしても、他で持ち出され味わった…心疼く苦さが欠片も湧かぬ。

寧ろ皆の会話に交ざり、彼の存在を甘辛く語り合いたくなる衝動に刈られるぐらい…心穏やかだ。


「此の違いは何なんだろう…」


キミアリエは自問自答する。

白の塔周辺で聞いた…自身に向く、距離感の近い…温かな評判。

権謀術数の中に曝され続けたキミアリエが味わった事の無い、酷く弛い…極甘の…全幅の信頼示す純粋な好意。

驚くべき…感覚。


「眩暈を起こしそうな気分だ…」


歩みを止めぬキミアリエは、慣れぬ思いを噛み締めつつ…1人呟く。


経由地であるヴェステで国王もどきの嫌な存在に囚われ…威圧され…おちょくられ、緊張感ある中で妙な提案まで受けてきたキミアリエ。

今現在インゼルに於いては、遠巻きとは言え民に混ざり…気軽に過ごす此の状況。

負の感情に押し潰されそうになっていた事など、欠片も見られない。


思わず和み…終の住みかにしてしまおうかと思うぐらい、心地好く過ごす。


『この、普通に扱ってもらう感覚が嬉しい。崇め奉られる訳でも…利用されるでもない、此の待遇。何だかホワホワする…』


インゼルを国や都市として考えた時、国民の生活水準は様々な部分で行き届いておらず…苦しい状態は続いている。

だが…民は素朴であり、キミアリエを見かけた人々の言葉に…欠片の悪意混ざらぬ純粋さが煌めく。


自国以上に寛げる…自宅感ある場所と認識し、珍しく素直にとらえ…純粋に好意抱くのだった。


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