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おまけ10 切っ掛けは些細なこと 12

崩れそうな世界を整えるべく…大賢者が集いし日、ヴェステ王国の国王であった…シュトラ・バタル・ドンジェは此の世界を形作る理から…解放された。


大賢者で無いにも関わらず…身に宿す金剛魔石の特質と賢者の石を利用し、大賢者相当の繋がりを大地と築き…大賢者の不在枠埋め大地創造魔法陣(エザフォスマギエン)の停止に貢献したのだ。

強い正義感を持つ訳でも…使命感ある訳でも無いが、成り行きで至った結果。


働きで得たのは、何者にも縛られぬ意思で…存在しえる領域全てを羽ばたく権利。

世界の外側司る意思と同等の…何処までも単独で存在可能な、空間も時も…全てを超越可能な自由を維持できる力。

確かに願ってはいたが、導かれた…必然とも呼べる帰結。

残された器を継承したのは、立ち会い導いたモノ。


「今の我…此の器の中身は、青の塔の先代大賢者リーシェライルを導くべく内在した助言者(コンシリアトゥール)レイナルだよ。シュトラは世界と言う軛から解き放たれ、自由を選択したからね…」


レイナルが自らの存在を説明する。


いつからか分からぬが…大賢者の内なる1人として存在してたレイナルの意識は、少しずつ薄らぎ始める。

時至れば…個としての存在は飲み込まれ、大賢者の礎となることは理解していた。

ある意味…葛藤なく今以上の安寧を得られる、心穏やかなる処遇。

覚悟持ち、待ち受ける。


だがレイナルが取り込まれたのは…何故か無限意識下集合記録が持つ意思、同じだけど同じでない場所…繋がりはあっても決して相容れぬ…世界の外側。

同化したのは、自身が回帰すべき場所では無く…理の外側だった。


「何で此方側に残ってるかって?」


レイナル宿るヴェステ国王が…皮肉めいた表情でクツクツと笑いながら、目の前のキミアリエへ向けて楽しそうに答える。


「ククッ…そりゃあ~残れたからに決まってるよ。それに面白そうじゃないか! 留まる所知らぬ興味湧き、ワクワクする高揚感溢れ出す…って感じ」


しみじみと…感慨深げに語り始めた。


「我が…我らが無限意識下集合記録として求めるのは、意識の変革。安寧は…先へ進むための助走にはなるけど、停滞は何も生み出さない。だから、常に刺激を求めてしまうんだ」


取り込まれ…取り込み、新たに生まれた執着際立つ個。

嬉々として語る言葉は…彼の地に存在した意思が…此の世界に留まり混ぜ込まれ、只1つ…唯一の存在として活動を始める "宣言" の様にも聞こえる。


「我は今の所、此の世界から2度と抜け出す事が出来ない存在なんだ。以前みたいにチョーットだけ入り込んでる様なモノに見えるけど、ドーップリと浸かってるんだよ…ふふふっ」


現在の在り方を心底気に入ってるのか…笑い漏らしながら表現するアッケラカンとしたレイナルに、キミアリエは唖然とする。


「大いなる意思に吸収されたが…レイナルとして留まる我と、失いゆく自身の命を有効利用したシュトラとの間で結んだ…相互扶助的契約。素晴らしいだろ?」


何故…世界の外側にあるべきモノが…不可思議な状態で此処に留まっているか、其の大元となる理由を誇るレイナル。


「今の我は、此の器の存在と重なった…唯一無二の生命なんだ。人形なんかじゃあ無い…本物なんだ!」


お茶目な感じで片目瞑りながら語る…自身の存在。

そして先程浮かべていた微笑み進化させ、大輪の花咲き誇るような…絢爛で艶やかな笑みに切り替える。


「お前は…此処で一体何をするんだ?」


キミアリエは重々しく尋ねる。


排除したはずなのに…未だ残る彼の領域の残滓。

そんなモノが活動している事自体、キミアリエにとって忌まわしき事であり…嫌悪が溢れ出す。

つい現在の可愛らしい子供姿にそぐわぬ、刺々しい態度になってしまう。


だが…ヴェステ国王シュトラだったモノの中に納まるレイナル、強く問い質されても意に介する事なく呑気に思案する様子を見せる。


「我は…色々遣ってみるつもり…かなぁ?」


曖昧で太々しいのに、器に見合った高貴さ保ち優雅に答える。

其の悠々としたレイナルに向き合うと、キミアリエの憤りは増し…強く問い掛けずにはいられない。


「色々…って言うのは、此の世界を…内側から引っ掻き回そうとでもしてるって事か?! それとも、以前の状態…新たな理を排除して元に戻すつもりなのか!!」


「いいや、其れは無理だよ」


昂るキミアリエを前に、あっさりとレイナルは否定する。


「我は此の世界に入り込み、君らと同等に…既に世界の一部となっている。だけど本質は外側…彼方の存在だから、"干渉出来ない" と存在自体に理が刻まれているんだ」


両手広げ俯く…少し派手な仕草で無念さ示し、飄々と説明する。


「誓約は絶対だよ、破れば消滅する。此の枷を外せるのは、理を覆せる…定められしモノのみ。管理者となった()だけ…なのさ…」


キミアリエの表情が、一瞬曇る。

レイナルであったと自称するヴェステ国王の器に入るモノ…久々に処事情把握するモノと集い、会話を存分に楽しんでいるようだが…ホンノ刹那曝したキミアリエの中に潜む歪さに気付き…興味を深める。

察した感情を余興と捉え、思い逆撫で…愛で楽しむと決めたよう。


「まぁ、()は揺らがないものね…」


「間接的になら、世界の理に逆らう事も可能…と言うことではないのか?」


キミアリエも、其の程度の甚振りに動じる愚直なモノではない。

幾歳生きる大賢者…十分同じ巣穴で巣食う事可能な魔物的存在、揺らがず疑心取り繕うこと無く問い質し…厳しく説明を求める。

だがレイナルは、のらりくらりと躱していく。


「何処まで踏み込んだら駄目なのかは分からないなっ、まだ此処で楽しみたい…と言う気持ちが強いからねぇ」


重要事項を胡散臭い笑顔で回避し、真実と虚偽の境界を不明瞭にする。


「其れに先程言ったように、我は此の器の持ち主と魔力伴う盟約で縛られている。器の主と取り引きする時、条件が加えられているからね。理と合わせて二重の制約が掛かっているんだよ」


自身の縛りを強調し、無害なモノであるかのように振る舞う。


「シュトラが望んだから、此の地を程々に発展へ導く…と誓ったんだ。制約があるって、色々と面白いね…」


レイナルは微妙な趣味趣向…主義主張を交えながら、楽しそうに語り続ける。


「ある意味…大賢者の君達より、我の方が余程ヒトなんだよ! シュトラがそうであった様にねっ! だから我も君も、詰まらない状況から抜け出したくなったら…抜け出すための準備が必要なんじゃないかなぁ~って思ったんだ」


「だからって何だ! 何から抜け出すんだ! 僕は関係ないっ」


キミアリエは顔を強張らせ、思わず言葉返していた。


目の前のモノは、面白さだけで不利な条件で怪しげな契約を結ぶ…愚かにも見える行いするモノ。

人にしか見えぬのに…何処までも本質が異なる存在に、キミアリエは処しかねる。

其れでも大賢者として、見定めるべき責任…の様なものを感じてしまう。


もっとも…問うた所で人と掛け離れた思考持つ存在、理解できるかは疑わしい。

それでも意図を探るべき…と、判断する。


「何故、僕を呼び寄せ…此の場を設けた?」


作られた現状と、此の先の展望。

キミアリエは2つの質問を投げ掛け、説明を求める。


ヴェステ国王だった以前のシュトラ・バタル・ドンジェは消え、レイナルが国王となっている状態。

過去大賢者であったレイナルではあるが、彼の地と繋がる…無限意識下集合記録が持つ意思そのもの。

何を目的としているのか、疑わしいこと此の上無い。

今在る此の状況に、思惑なり企みなり…何らかの策があることは確実。


「我の目的は1つ…」


シュトラに成り代わったレイナルが、最初から答え用意していたかの如く…サラリと述べる。


「君が…我の好みだったからだ」


「…!!! はいぃ??」


問い詰めるべく勢い良く乗り出すキミアリエに、斜め上から切りつけるかの如く…出鼻挫く様な濃いぃ回答突き付けるレイナル。

元々警戒しながら過ごしていたキミアリエだが、更に別な意味での危険感じ…飛び退きそうな気持ちで仰け反り睨み付ける。

だが警戒すべき発言をした本人は、至って平常心。


「ん~言葉の選択が適切じゃない…か…」


独り言の様に呟いた後、一瞬悩み…言葉続ける。


「…同じもの…を感じたんだ。だから面白そうだと思っただけ…だよ」


驚き…怪訝な表情浮かべるキミアリエに対し、至って普通に訂正を入れる。

此の思いっきり超越した…世界の外側の思考持つモノに、親近感? からの興味持たれ…キミアリエの心は潮が引くが如く渇き固まっていく。


「お前の様な…愉楽の為に世界の破綻目論む存在に親近感持たれる程、僕は世の中棄ててない。其れに面倒事は嫌いだし、そもそも僕は管理者じゃない。領域外に関わるなら、あのオッサン…ニュールを訪ねてくれ。アレが此の世界の窓口だろ!」


「ふふっ…確かに彼は特別な狭間の存在。組み込まれたモノであり…我らと領域を共にする、唯一無二の…我らに近しき存在。だが…思考による判断基準は、経験などの影響が大きくなるんだ。だから、相互理解に至る適切な人材かは疑わしい…。彼の様な成り立ちのモノは、過去の記録を参照しても見当たらないし…未知の要素が多過ぎるからね…」


此の異質なモノが、まるで世界の内側の…理の働く中で交渉望んでいるかの様に…状況分析し語る。


「ちっ…」


思わず素直に舌打ちで気持ちを表してしまうキミアリエ。

また…あのモヤモヤした気分が押し寄せてくる。


「彼との近しさ…其れは、存在に必要な状況や立ち位置…根源的なモノだからさ。此の世界で言うならば血統…みたいなものかなぁ。凄く特別だね…」


揶揄いは未だ続いているのか…キミアリエが過敏なのか、踊らされてる様子は見えないのに…彼・ニュールの話題に表情が強張る。


「君は彼とは違うよね。領域や成り立ちさえ異なるのに、勝手に内側が同調し…我らと意識が重なっていく…とでも言うのか…」


微妙に何を目指し語っているのやら読めない事を、レイナルが口にする。


「あっ因みに…我らが持つ情報は、君ら大賢者の持つ情報礎石と似てはいるけど…完全に別ものなんだ! 以前の記憶と比較すると、凄く面白いんだよ!」


思わず 「世間話か!」 と突っ込みを入れたくなる。

様々な情報飛び出すが、内容に意味があるかは怪しい。

まるで…キミアリエを翻弄する事だけが、レイナルの目的であるかのように見えてくる。


目の前で生じる其の混乱を喜ぶかの如く、優美な王子さま然とした笑みを浮かべ…椅子に深々と腰掛け…腕を組み…真正面からキミアリエを見つめるレイナル。


「我はね…目的や目標が違っても、進む方向が近いなぁ…って思ったんだ、だから君に声掛をけてみたんだよ」


「貴方達みたいな、理の外から面白がって手出しをするモノとは根本的に違う! 類似点などあろうはずもない」


「うーん…其れでも似ている…いやっ同じだよ。其れに今は我も理の内側だよ」


納得がいかない…と言った表情を浮かべるキミアリエに対し、嬉しそうな表情で…自身と同類と感じたレイナルは語り掛ける。


「…まぁ我も今すぐ色々試そうなんて思ってないよ。まだまだ十分に楽しめるし…もう少し状況を整えないとね!」


明るく気軽に…お茶を口にしながら、和気藹々とした遣り取りの一部であるかの様に話を進める。


「だけど…いつか、何か変えたくなった時は…」


ゆるりと脱力し、深々と椅子に座り直し…口を開き告げる。


「お互いを有効利用しよう」


キミアリエを見つめる底知れぬモノが、其の仮面取り外し…色も温度も無い本質晒し眼前に在る。

此の申し出をどう考えるべきか…此方に判断任せたかのような距離感で、自由には程遠い一方的な提案として突き付ける。

キミアリエは回答を要しない其の言葉を、只…受けとるしかなかった。

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