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おまけ10 切っ掛けは些細なこと 9

キミアリエがインゼルまでの旅を計画し…商会長見習いとして受けた仕事の内容、其れはヴェステ王立魔石研究所への魔石の納品。


国を越えての仕事であり…商人見習いではなく商会長見習いだから請け負えた仕事ではあるが、魔石研究所にある転移陣を使用すべく…若干の色々と押し通した。


ピエッツェと魔石研究所間同様、魔石研究所とインゼル間には常設直通転移陣が設置されている。

国と国で行き来する転移になるが、友好国…と言う名の属国に甘んじるインゼルとの間…しかも管理された研究施設からの転移であり出国審査は無いに等しい。


探られて困る様な底の浅い身分詐称はしてないが、痛痒無くとも…時を浪費するのは避けたい所。

其れが、今回の経路を選択した理由。


タラッサの国立魔石研究所が採掘を監督する…タラッサとアカンティラドの境界にある鉱山で得た魔石、緑柱魔石群から採掘された魔輝を帯びる翠玉魔石の地輝石と…藍玉魔石。

同じ組み合わせで60組程…転移陣使わぬ経路にて、ヴェステ王立魔石研究所へとナルキサ商会が請け負い運び込む依頼だった。


「此のヴェステ行きのヤツ、チョットだけ運ばせてもらっちゃおうかなぁ」


商会に来ている依頼をまとめた一覧表、勝手に複製作り眺めて呟くキミアリエ。

カリマは厄介事阻止すべく口を開く。


「えー、そんな所に寄り道しないでプラーデラに渡ったらチャッチャと飛んじゃえば良いじゃないっすか。船旅が出来れば十分っしょ?」


旅そのものには一応納得したカリマだが、キミアリエの適当…としか思えぬ計画に異議を唱える。

だが身勝手さ全開…反論とも言えぬキミアリエの駄々が、カリマ捉えて炸裂する。


「何言ってるの? 此の機会に色々挑戦しないのって有り得ないよね! 中途半端だと、何回も計画しちゃうけど良い?」


「…其れは…困ります」


結局カリマが折れざるを得なかった。


一度審査受けヴェステ王立魔石研究所に入った者には、再審査無く…インゼルへの直通陣による定期移動便の使用許可が出る。

キミアリエにとって最終目的地となるインゼルへ違和感なく入るには最良の手段であり、部分納品と言う微妙な形だが…無理やり引き受けさせてもらった。


ナルキサ商会の最高経営責任者を務めるキミアリエ、名前だけの頂点に見えるが…意外にも色々な手腕発揮し…商会を盛り立てている。商会に関しての我儘を程々に押し通せるは、当然と言えば当然。

後腐れ無き行動心掛け…実質経営取り仕切るサージャには、勿論お伺いを立てる。


物品の配送・納入において、陣の使用は荷車による輸送より経費のかかる経路であり…大々的に使ってしまえば不利益被る。

陸路のみでの運搬より若干早くなる…とは言え、手荷物でキミアリエが運べる量はたかが知れている。

まぁ…だからこそ大した追加料金無く移動出来るので、商人として厳格なサージャも損失を考慮する程では無い…と判断してくれたのだろう。


「商会長見習いとして顔繋ぎも兼ねて…って感じなら、別に良いんじゃないかな」


遠見の鏡で確認を取った時の…サージャからの答え。

こうして魔石研究所への広報を兼ねた仕事として、部分的に依頼受ける事叶う。

此れが…キミアリエが一部魔石を持ち納品するに至った真相。


実際に運ぶのは、荷車の片隅に収まる量…魔力用いれば楽々持ち運べる程の魔石。

自身の願い叶えるべく…滞りなく業務遂行出来るよう、単独で移動可能で…不測の事態にも対応しやすい仕事を手に入れたと…キミアリエは自負する。


「此れなら滞りなく、気楽に行けるんじゃ無い?」


キミアリエは余裕の表情でカリマに確認する。

"抜かりなし!" …と言った雰囲気で、得意げに告げた計画。


「まぁ…予定は未定で奇想天外~っつーか、色々な問題が起きたとしても…其れが現実。先が読めない未来に、絶対は無いと思うんすがねぇ~。取り敢えず息災であること祈ってますよっ」


それに対し返ってきた、少しばかり嫌味込められた餞別の言葉。


キミアリエの我儘で多大な不利益被るのは、いつもながら共にあるカリマ。

全ての実務完璧にこなす影武者として…一番負担が増えるのだが、渋々…とは言え承諾してくれた。

散々迷惑をかける予定を聞かされた後であり、投げ槍で恨みがましい言葉を送るぐらい…ご愛敬。


だが…思い込められた言葉には、時に力宿るのかもしれない。

ザルビネで予想外にサージャと再開し、予定外の追加仕事押し付けられ、其の為…身軽さを計算した計画は潰され…荷車付きで移動になったキミアリエ。

行動に制約加わったが故、見たくもないモノを目にし…聞きたくもない話を聞き…余計な感情に対面する事になった。


カリマの呪詛的予言もどきは、キミアリエの気分盛り下げる効を十分に果発揮したようだ。もっとも…効果あるが故、呪詛返し的…愚痴の山を鏡で聞くことになったのは致し方が無い事なのか…。



ヴェステ王立魔石研究所、転移陣から辿り着いた業者集まる受付。

無愛想を通り越し…苛立ち隠せぬ表情で職務こなす者達を観察しながら、大人しく順番を待つキミアリエ。

職員達の切迫した…悲壮感とも言えそうな雰囲気は、隠そうとしても隠しきれない…一種異様な雰囲気を作り出していた。


「はい、次」


そんな中、キミアリエの番が巡る。

相変わらず…ピリピリとした張詰めた空気が漂う中、眼前に子供姿のキミアリエが現れた事で…職員の眉間のシワは倍増し緊張感が増す。


「要件は何っ!!」


最初から怒り口調である。

ヴェステ王国は比較的公権力が強く、公の場では上下の立ち位置を明確にする。

本来は明朗で寛容…呑気な気質を持つ大変緩い質の者が数を占めるのだが、妙な拘り持つ者も数多く…魔石への拘り持つ者は特に沢山居る。


魔石研究所は殆どが内包者(インクルージョン)であり、非内包者との区分は…王宮内よりも厳しいぐらいである。

ヴェステで魔石内包するのは国のお抱えになる事であり、其れは人々に誇りを生むようだ。


研究所は魔石持つことに重きを持つ者達の集団故、受け付けに至るまで気位高く…一般の職業に就く者への対応が疎かになるよう。

基本…実務関連…商人など出入りの業者は、国内の魔石内包せぬ人々であり…正式に商売出来る身分持つ者でないと過剰に侮られる。


今回のキミアリエは子供姿で活動しているため、使い走りの商人見習いにしか見えない状態。

雑に扱われる事は覚悟していた。


「商会名と要件を端的に述べて」


視線さえ向けず問う様は、予想通りの辛口対応。

余計な手間が遣って来た…とでも捉えたのか、ピリピリした感じの上…更に塩大量投入…と言ったキツめの対応。

だが其の微妙な空気感をものともせず、キミアリエは飛びきり美しき笑顔浮かべ…挨拶を述べる。


「いつもお世話になっております。ナルキサ商会が、魔石の納品に上がらせて頂きましたぁ」


「「「ナルキサ商会の魔石納品???」」」


仏頂面で黙々と処理していた者達数名が、いきなり顔を上げ叫ぶ。

同時に方々で苛々しながら職務こなす者達の視線がキミアリエに一斉に注がれ、

直後…驚くような表情で職員達は顔を見合せる。

そして全員の表情が、不機嫌から上機嫌へと一気に反転した。


「あぁぁ、待ってたよぉ!」


「本当に良く来てくれたわ」


「おぉ救世主よ、来てくれて良かった。これで助かった」


「ホントだよ! 君は恩人だぁ~」


受付内に居る者達は満面の笑み浮かべ、中には涙ぐむ者さえ居る。喜びを口々に唱え、其れまで漂っていた息詰まる緊張感が消し飛ぶ。

待ちわびた者が現れた喜びに満ち溢れ、皆が皆…抱き締めんばかりに両の手広げ…キミアリエがもたらした降って湧いた魔輝の如き幸運に向けて感謝の意を示す。


だが一切の心当たりの無いキミアリエ、断りもなく手を掴んで感謝感激を伝えてくる職員の意味不明さに表情がひきつる。


「ぐっ…」


珍しく不快さ表す声まで漏れてしまう。

子供姿であるための戸惑いの演技…ではなく、正真正銘…理解の範疇越える者達に遭遇した時の…げんなりとした気分が表に出てしまった。

素で顔をしかめ、怪訝な表情浮かべてしまう。


キミアリエがヴェステ王立魔石研究所を訪れるのは…2度目。

以前来た時は、本来の姿で…コンキーヤ王国の王族として親善使節を名乗って訪問したが…極普通のもてなしだった記憶がある。

今回は商会に属するモノとして、納品での来所。


格差作り出すこの場所で、王族としてより商人見習いが劣る対応をされるのは確実なのに、待望の魔石を…運び込まれる予定の59組より僅かではあるが先に…1組であっても…危機的状況下で納品したからこそ…キミアリエは熱烈な歓迎を受ける事になったようだ。


「最近…天輝や地輝と言った魔輝の発生自体が稀でね、其の魔力を帯び…魔輝石を得る事自体が少なくなっているから今回の納品も貴重なんだよ…」


驚き固まるキミアリエの状態を察し、少し落ち着いた職員が説明してきた。


其れは方々で聞かれる話であり、此の魔石研究所でも調査対策部門が立ち上げられているくらいの重大な事象。

だからこそ…研究に使っている者達にとって納品が有難いのは確かなのだろうが、今回のものは喜ばれ望まれる程の高水準な品ではない。


「不味い事に、丁度切れてしまいそうで…スゴく慌ててたんだ…」


「本当にありがとうね…此れで何とかなりそうだよ…」


何らかの理由で "何とか出来なきゃ全員クビ" 位の事は言われていたのではないだろうか、先程までの緊迫感は…鬼気迫るものがあった。


詳細語りはせぬが、今現在…心から安堵している感じが見受けられる。

其の分…キミアリエに対する感謝は、身分や年齢など関係なく心底本気のようだ。

望んでいた物を…絶妙な機会で納品する、其れは何者であっても…感謝し称賛するに値すべき事と感じたのだろう。

それぐらい切羽詰まっていたのかもしれない。


この研究所魔石管理部門での職員の苛立ちや…悲壮感漂う状況は、ある研究を視察に来た高位王族がもたらしたもののよう。


「もう少し試して欲しいのだが…」


其の高貴なる方の一言で、研究所が大混乱に陥ったのだ。

だが流石に何があったかは漏らさない。


其処に愛くるしい見た目の…望む魔石を持った救世主となる者が現れ、全てを解決に導いた。

まぁ単に納品しただけなのだが、研究所全体が救われてしまったのは確か。

此の万人から感謝と言う好意を向けられている今の状態は、大人姿で過ごすよりも対応が良ぐらいだ。

理由があるとは言え、過剰なもてなしぶり。

関わらないつもりではあるのだが、探りを入れてみる。


「僕、遅くなっちゃったのでしょうか?」


警戒しながら…だが子供らしさ損なわぬよう、心配そうな表情浮かべ丁寧に尋ねる。其の如何にも不安そうな表情は、周囲に居る大人全員から申し訳ない気分を引き出す。


「そっ…そんな事は無いよ!」


「勿論、納品予定は守られているさ」


「あぁぁ…皆でこんな風に皆で騒いじゃったら、吃驚しちゃうわよね」


「いえっ、商会や僕自身に何か不手際があったのでは…と憂慮した次第です」


落ち着きのなかった大人達以上に、子供ながらに落ち着いた態度を示し完璧に対応するキミアリエ。

此の場にいた者達は、改めて感謝感激する。

そして今までの落ち着かぬ状態について、当たり障りの無い程度に…軽く説明してくれたのだった。

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