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27.巻き込まれても助けに行きます

フレイリアルは行く手を阻む者から逃れ、賢者の塔・東塔に入った。そして、そこから中央塔を目指すことにした。


建物内は中央塔と似た作りだった。東塔は王城の関係者が予備学習をする学舎が有る場所で、フレイは余り好きな場所ではなかった。

王城壁の事などでゴタゴタしているせいか廊下にも部屋にも全く人の気配を感じる事は無かった。

途中、行く手を遮られた事で必要以上に時間が過ぎてしまったのでは無いかと言う事が気がかりだ。


『リーシェは大丈夫かな…』


先程より周囲の魔力濃度が少しずつ高まるのを感じていた。フレイリアルの中へ流れ込んでくる魔力量もかなりの量になってきていた。


降り注ぐような魔力は嫌いでは無かった。


賢者の塔の上層に登った時感じる、壁に埋め込まれた魔石から染み出してくる包み込むような爽やかな力。

何処までも際限なくその魔力はフレイの中に入ってくる、少し恐ろしいけれど懐かしくてずっとその中に浸っていたくなるような暖かさがある。

でも此処のは若干嫌な感じの何かが混ざっていて、フレイリアルにとって少し不快だった。

不快な感じも取り込んでしまえばいつもの清々しい力へと変換していくことが出来る。だから、酷く気にはならなかった。


学舎へ行かなくなってからは、蒼の間でリーシェに魔石や魔力のについて色々教えてもらっていた。そんな塔での日々はフレイリアルの中の知識や力をしっかり育む。リーシェライルと訓練してみて色々解った事もあった。


それは、塔の中でなら、かなりの量の魔力をフレイリアルが取り込めることだ。


訓練しているとき夢中になっていたのか、魔力に溺れるぐらい体内に取り込んでしまった事がある。


「フレイ」


一度めの呼び掛けでは気づかなかった。


「フレイったら、フレイ!」


二・三度呼び掛けられた上に、リーシェの白く綺麗に伸びた指に額を優しくつつかれる…と言う事があってやっと気がついた。


「フレイ、それ以上取り込んじゃったら塔の魔力が何も無くなっちゃうよ」


集中しまくって周りを全く見ていなかった。

気づくとフレイリアルの顔をリーシェライルが至近距離で覗き込んでいた。

そして、その華麗なる指を目の前に持ってきて、もう一度 ”ダメだよ” と小さな声で呟き、額を再びつついた。


注意されるまで気づかなかったが、青の間の魔石の輝きが明滅するような感じになってしまっていた。フレイはちょっとビックリしたが、掴んで絡め取っていた様な感覚を手放してみると魔石の明滅感は消えた。


フレイリアルは軽く考えていたが、青の間にある魔石や魔輝石は境界壁を五日ぐらい維持する魔力があるのだ。


「じゃあ次は魔力の解放をしてみよう」


リーシェはフレイに提案した。

座っていたフレイをを抱え上げると膝に連れてきて座らせた。9歳になってそれを遣られるとフレイリアルでも少しどうすれば良いのか解らない気分になった。


「探索をやってみよう」


膝の上で所在なさげなフレイを、後ろからしっかり掴み手を握る。そしてリーシェがジンワリと探索魔力を展開していく。その魔力に引きずられフレイの中からも一緒に魔力が広がってゆく。


「感覚は掴めた?」


耳元で聞いてくるリーシェの声がこそばゆい。何だか赤ちゃん扱いされてるみたいで気持ちがゾワゾワして悔しいし、ちょっとムクレた感じで頷いてしまった。


何だか不機嫌っぽい様子を察知されてしまい、リーシェは悲しそうに少し顔を曇らせた。

だけど、直ぐに悪戯っ子の顔になり、フレイの肩に頭を乗せ優しくしっかり抱き締めた。

そして、声をかける。


「フレイ、大好きだよ」


肩に柔らかく乗せられた頭は何だか気分がそわそわするし恥ずかしかったが、優しく包むように抱き締めてくれるリーシェの存在を背中から感じ、更にその無敵の言葉で気持ちがホワリと暖かくなり素直になれた。


「ふてくされて御免なさい」


膝の上でくるりとリーシェの方を向き抱き締め返し伝える。


「リーシェ大好き」


言われたリーシェも心から満足そうだった。その美しい顔をほんのり上気させ、心が温まるような微笑みを浮かべもう一度ギュッとしてくれた。


フレイは、そのまま美しい銀色の髪に顔を埋めた。抱き締めてくれるリーシェとの間に心地よい暖かい魔力の流れが出来上がる。そのままそこで、丸くなって眠ってしまいたいような気分だった。


微笑むリーシェの顔が太陽みたいに眩しかった。


そして、その時は本当に眠ってしまった。


『あれからもう、2年近く…』


走りながら昔を思い出していると無性にリーシェが恋しくなった。

ギュッとしてギュッとし返して安心したかった。



だが、予想はしていたけどヤハリ簡単には目的地まで行かせてもらえないようだ。


「今晩は、フレイリアル様。ご機嫌麗しゅうございます」


先駆けて賢者の塔に向かっていたサランラキブが現れた。

フレイリアルは、サランラキブが選任の儀・控えの間でエシェリキアの後ろで畏まり待機して居たのをしっかり覚えていたので白々しさを感じた。

味方で無いことは一目瞭然だった。


「先程、お会いしたと思います」


フレイリアルは珍しくピシリと返事を返した。


「おやっ、一応周りは見ていらっしゃったんですね…」


サランラキブは冷え冷えとした笑みで華やかに笑った。


「直接、こうしてお会いするのは初めてかと思いましたので…噂に聞いていたより聡明な方だったんですね」


見下ろすように含みのある笑みを向けてくる。悪意よりも悪い何か…。


フレイリアルは何だか分からないが心の警鐘に従い一歩後ずさった。無言で対応するフレイリアルに更に勝手に話し掛ける。


「直接お話させて頂くのが初めてなのに、不躾で申し訳ないのですが貴女の事を思って伝えさせて頂きます」


いかにも貴女のために…と言った風情でサランラキブは話してくる。


「フレイリアル様はこの地で異端の色合いと忌避されていると伺いますが、他の地なら似たような色合いの風貌の方など山ほどいらっしゃいますよ。この地に居て心ない方達の犠牲になるぐらいなら私と外の世界へ出て見ませんか?」


サランラキブは労る様な優しげな笑みを浮かべてフレイリアルに優雅に手を差し出す。その裏に潜む抜け目ない狡猾さで自分の領域に引きずり込むための罠を張りながら…。

だが、フレイリアルは一瞬の躊躇なくサランラキブの言葉をはね除ける。


「私が外へ向かう時は私が心から望む時。自分の力で出ていきます!」


「ふふっ、流石です。エシェリキア様より手応えがありますね! …そういう方、好きですよ。面白いです」


サランラキブは本心からの笑みを浮かべた。そして、此方へゆっくり歩み近づいてくる来る。


「だからこそ、あの御方に貴方も是非紹介させて頂きたいですねぇ」


そう言って魔力を足元に展開した。そして跳躍力を高め、一気にフレイリアルを捕獲するために目の前まで飛んで来た。

間一髪で逃れたが、フレイリアルはジリジリと建物の隅に追いやられていた。


「貴方と大賢者様、仲良く二人でこの国から脱出出来るなら良いじゃないですか」


サランラキブのその言葉にフレイリアルが憤る。


「何も知らないのに勝手をしないで! リーシェが賢者の塔から出たら死んでしまう!!」


「おやっ、研究所の推論とは違うんですねぇ…心は壊れても器は生き残るって聞いてたんですが…死んでしまっては役に立ちませんね。ならば、貴女を尚更に確保しておきたいですねぇ…」


そして、いきなり魔石から導きだした魔力でフレイリアルの足元に攻撃を仕掛けた。

その攻撃はフレイの中の回路へと繋がる。攻撃を繰り出した魔石と、魔石から攻撃を引き出した者から力を容赦なく吸い上げていく…が途切れる。

確証を得るためサランラキブは、わざと攻撃を仕掛け魔力を繋げてみたのだった。


「本当だ!! スゴイッ凄いですこの感覚…成る程、エシェリキア様達が言ってたのはこれだったのですね! 《14》からの報告を聞いてなければ危ない所でしたが、これで貴女が本当に貴重だってわかりました!」


《14》は結局サランラキブに報告したようだった。そして、その報告は生かされているようだ。

嫌な予感がフレイの頭の中で鳴り響く。


「大賢者様は時間的にもうすぐ塔の外へ連れ出されてしまうので、お助けするのは無理そうですね…」


小首を傾げながらサランラキブは事も無げに伝えてくる。


「お土産は貴女にします。今後の国同士の関係を考えるなら、婚姻をもって連れ出すっていうのも円満ですね。丁度良いから僕のお嫁さんにでもして隣の国へ連れてったげますよ」


サランラキブが、目の前まで来ていた。目を細め勝利を手にしたかの様な笑顔で微笑む。そして、後ずさり出来ない位置に追い詰められたフレイの頬に手を伸ばし、寒気のする表情を浮かべた。


フレイは全てを勝手に決めつけられることが許せなかった。


「冗談じゃ無いです! リーシェが無理そうって何ですか! 私が貴方のお嫁さんって…気持ち悪い! 全部勝手に決めないで下さい!!」


叫びと共にフレイリアルの周りに魔力が満ち溢れ、近くに有ったもの全てを吹き飛ばした。


壁にかけてあった絵も、廊下に置かれているベンチも、サランラキブも、皆全て舞い上がったと思ったら50メルほど遠くへ投げつけられた。


以前に塔で試した時と同様、フレイの攻撃魔力は全くコントロールの効かない荒々しい暴風の様な魔力になっていた。

青の間で試した時、その室内は惨憺たる状態となった。

そこに入れる者は限られるので、結局リーシェが殆ど片付けることになった。

それ以降、リーシェから攻撃魔力の練習許可が下りることは決して無かった。

しかも、内緒でやろうとしても何故か必ず察知される。そして、優しくも毅然とした有無を言わせぬ笑顔で無言で制止された。


今回は、その暴風暴走魔力がサランラキブを吹き飛ばし、フレイリアルは先へ進む道を自ら切り開くのだった。

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