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おまけ9 大賢者の報酬~受けとる前に必ず御確認を 12

「おめでとう。流石に私の血を引いてるだけあって、良い選択をしたわね!」


「はいっ、お婆様を見習いました」

 

タラッサに商談で出向いていたと言うのに、今回の話を聞きつけ…無理矢理転移陣を融通し…2の時程でトレストウェに駆け付けた者。

思い立ったら即実行する、機動力高きモモハルムアの祖母ルルディエラが目の前に現れた。


ちょっとフレイリアルに通じる雰囲気持ち、破天荒な自由人っぽさが溢れる。

更に己自身への忠実度最強…と言う感じであり、周囲を自身に従わせる…典型的な我が道を切り開く型の者のよう。

一挙手一投足、行動全てに迷いが無い。

初対面の…会話さえ交わしたことのないニュールだが、ツカツカと歩み寄り…自己紹介より先にグイっと唐突に抱き寄せ密着する。

一目見ただけで、ニュールを気に入ったようである。


「初めまして、お会い出来て嬉しいわ」


親愛の情籠る声からは、心から歓迎していることが汲み取れる。

しかも今行っている抱擁は…肩を叩きあうような挨拶の軽いものではなく、零距離での…真の愛情示すような強い抱きしめ。

突然の蜜な状況に遭遇し、ニュールの思考が一瞬で停止する。


瞳の色が違うだけで、モモハルムアが年齢を重ねたような容貌持つルルディエラ。

過去に耳にした情報から推測すると、十分に祖母と言った年代のはず…である。


だが其の姿形は、近くで見てもニュールの見た目年齢より若い20代半ほど…にしか見えず驚きが隠せない。

其の上…抱き締められたら思わず嬉しくなるような、出るとこが立派に張り出す…何とも素晴らしい減り張りのある体系を維持していらっしゃる。

何故かおまけに…其の姿形を如実に把握できる…全てをつまびらかにしてしまう、あのサルトゥスの薄物の衣装を着ているのだ。


「噂以上に…素敵な殿方ね、モモ共々これから宜しくね」


共々…と意味深な言葉付きの挨拶をし…艶麗な笑顔を浮かべ、ニュールにピトリと豊満な体を密着させなから妖美に見上げる。

孫娘の連れ合いになろうか…と言うモノ相手に、大胆な挨拶繰り広げるのだった。


行動は大胆だが、ルリディエラを形容するなら…妖艶で落ち着いた雰囲気を持つ綺麗なお姉さん…であった。

ニュールの好みど真ん中である。

内心の動揺隠せず…立ち尽くし固まるニュールの首をガシリと掴み頭引きずり下ろすと、徐に…頬に舐めるような挨拶の口付けを与える。


「…なっ!!」


仰け反り…更に固まるニュールの耳元で、ルルディエラが小さく囁く。


「あの子の反応見るためチョーットと味見させてもらったわ、御馳走様! 今後も、ウチの子宜しくね」


祖母…とは言え、見た目的には十分釣り合いが取れる組み合わせ。

一瞬の出来事を見守っていた周囲に、動揺が広がる。

ルルディエラの行動に慣れたアナジェンテだけが笑顔で落ち着いてはいるのだが、其の駄々漏れの殺気一番怖い。


祖母の破天荒な行いを目にした直後、チョット涙目のモモハルムアが抗議する気持ち含む睨みを効かせニュールからルルディエラを引き剥がす。


「お婆様! お遊びが過ぎますわ」


小魔物と称されるだけあって、主張すべき時は主張する。

自身の領域犯す者には、容赦なく牙をむく。


「ごめんね、ちょっと可愛くって揶揄ってしまっただけよ。サルトゥスの王宮から駆け付けたからこんな格好だけど、別に貴方から奪い取ろうと誘惑している訳じゃあないから安心して頂戴」


憤慨するモモハルムアを、なだめる様に優しく抱きしめるルルディエラ。


「其れに此の姿に昂ってくれるなら、貴女の完全勝利は目前よ! だって数年後の貴女は私以上の逸材ですもの、自信を持ちなさい!!」


そしてお茶目に片眼瞑りつつ、改めて祝いの言葉を贈る。


「おめでとう、モモ。私の旦那様…お爺様ほど…じゃないけど、素晴らしい方を見つけたのね。良い関係のようだから、ちょっと面白くなって遊んでしまったの。御免なさい…心配しないでね」


怒りと悔しさで目を潤ますモモハルムアを鎮めるため、もう一度ルルディエラは強く抱き締める。

だが再び悪びれる事なく耳元で、悪戯っぽく囁く。


「でも…もし、モモにとって不要になるなら…何時でも私が引き取ってあげるわ」


「要らなくなんてなりません、私のです!」


鼻息荒く、ピシャリと断る。


「まぁ私の可愛い子魔物さんったら、本当に此の大きな獲物に御執心なのね!」


散々揶揄いつつも、目を細め愛しそうにルルディエラはモモハルムアの頭を撫で付ける。

そして、発破を掛けるような激励を送る。


「ふふっ、モモが狙った獲物を逃すはずはないものね! だって貴女は私の孫ですもの、手抜かりは無いはずよ。逃げられないように完璧に追い詰め、隙があったら其の身を存分に食らっちゃいなさい!」


直近で此の遣り取りを見守っていたニュールは、この家の者達が若干心配になる。

少しばかり…ニュールが思う一般常識…と違う世界に生きている気がした。

ルルディエラに煽るような応援の言葉を送られたモモハルムアは、はにかむ様に…嬉しそうに微笑む。


「幸せになるんじゃぞ。だがワシと同じで良い男過ぎて…チョット腹が立つかもしれん。久々に本気で嫉妬に狂いそうになったぞ」


「まぁぁぁ、貴方ってば嫉妬深いのねぇ」


「愛情深いと言っておくれ」


アナジェンテが少し不満げに言葉発する。

先程の挨拶時…モモハルムアが引き剝がさなかったら、アナジェンテがニュールに挑みかかっていたかもしれない。

今はルルディエラがしっかりとアナジェンテに絡みつき、馬鹿が付く程の熱愛ぶり。

深く熱い思いに年齢は関係ないようである。

相思う相愛状態であるが故に、無駄な諍いは防がれた。


勿論アナジェンテはルルディエラが何をしようと、頭では理解し…思いを信じているので問題起きないはず…なのだが、アナジェンテの思いが強すぎて一足触発だった事は否めない。

過去に同様の事が有った時、其の相手は安否不明となった。

ニュールとアナジェンテが制限なしの手合わせをする事になったのなら、少なくとも公邸は…粉微塵になっていたかもしれない。


ルルディエラが一方的に求婚し…アナジェンテをヴェステから無理をして連れてきた…と言われていたが、現在の…主導権握るのはルルディエラのようである。

ルルディエラ自身は余裕で対応し、嫉妬を楽しんでいた。


「しっかり掴んで逃がさないようにね!」


先程…存分に揶揄い遊んでしまった…確認した…ので、今度は軽く声を掛けるに留めるルルディエラ。


「ありがとうございます! 御爺様と御婆様を見習って、幸せになるし…幸せにして見せます」


モモハルムアは心から答える。


「ニュールニア殿…いやっ、ニュール君。ワシの気持ちがきっと直ぐにわかるようになるぞ…」


予言めいた言葉をアナジェンテから与えられる。


「モモと2人、幸せな時を紡いでね」


ニュールへも…先程…濃厚な歓迎の意思を伝えたので、ルルディエラは簡単に挨拶済ませる。


「まぁ…はぁ……」


言葉短く立ち尽くすニュール。

外堀を完全に埋められ、選択肢が消えた。

モモハルムアへの祝いの言葉を耳にする度、どんどん心が削られていく。

逃げる経路を完全に制圧された、追い詰められた逃亡犯…にでもなったような気の重さを感じる。


『別に逃げ隠れするつもりはないっ。無いんだ…無いんだが…此の年齢の…12に成るか成らないかの子と婚約しちまうオッサン…って世間的にどんなもんよ?』


心の奥でニュールは自問自答してしまう。


『有りか無しかで考えたら、オレ的には無しだ! コレッテ特殊な趣味持つ犯罪者の仲間入りなんじゃないか? オレの趣味趣向はまっとうだ!!』


振り返りつつ、心の中で叫ぶ。


『16の歳…成年を迎えてたとしても、其処から数年はなんか違う気がする』


中身20代後半…見た目40代後半の健全なオッサン…と言うか、ニュール自身…としての信念…なのかもしれない。


『精神的にも自身の年齢に近い方が好ましいし、肉体的には…贅沢を言えうならば手から溢れるぐらいの…掴みごたえのある、十分に育った凹凸ある超立体的で妖艶な雰囲気持つ頼りがいのある感じの…』


チョット贅沢でうるさい。

一度希望を口に出して…自分の耳で聞いて欲しい所だ。

表情に考えが其のまま反映され、情けないぐらい混乱しているのが窺える。

誰に問いかける訳にもいないニュールは、自問自答しているうちに思考がドンドン暴走していくのだった。



いきなり与えられた "場違い" …と思えてしまう、婚約式におけるモモハルムアの隣…と言う立ち位置。

時が巡り…千々に乱れる気分のまま、一段高い台の上にモモハルムアとニュールだけが残される。

飾り付けられた高砂の上…進みゆく時の中、ニュールは横並んだモモハルムアと…久々に一対一で言葉を交わす。


「ニュール…私との婚約はお嫌ですか?」


唐突に…モモハルムアが、ニュールの中で堂々巡りする思いの核心…に迫るような問いを投げ掛けてきた。


「…そう言う訳では無い…のだと思う。だが…君の年齢を考えると、早すぎる…と思うのは事実。もし周りから煽られたと思えるのなら、この場で考え直しても…」


踏ん切りのつかぬ自分自身に向け、少し言い訳じみた別の選択を口にしてしまう。


「今更なのですわ…」


ニュールの言葉に被せる様に返ってきた…モモハルムアの何とでも取りようのある言葉に、ニュールは次に続ける言葉が出て来ない。

押し黙るニュールに、1人空を睨み…モモハルムアは挑むように語る。


「私…今まで取り立てて何かを欲する物事はありませんでした…」


ニュールの穏やかに暮れゆく陽光の如き橙の瞳をモモハルムアはじっと見つめる。


「でも、貴方のお側に居る事だけは譲れません。私が周りから煽られたのではなく、私が周りを煽って手に入れた機会なのです…」


そしてニュールの目を見つめ、モモハルムアはガシリと腕を組み告げる。


「侮らないで下さい。残念ながら、私は貴方を逃がすつもりはありませんの。必ず貴方好みに…私自身が貴方の好み其のものになってみせると保証しますので、貴方の隣を私に下さい」


モモハルムア自身がニュールに合わせる…と言うより、ニュールの好みそのものをモモハルムアにしてみせると聞こえるような大胆で傲慢とも取れる宣言。

戸惑いが一番だったニュールの表情に、思わず笑顔が浮かぶ。


「強気だな…。此のまま捕まったら一生勝てない気がするんだが…」


少し楽し気なニュール。

何らかの覚悟は出来たようであり、戸惑いによる拒絶から抜け出し…前向きに善処する気持ちへと切り替わる。


「当たり前です、逃げるより追いかける方が強いに決まってます。それに…止まるより進むほうが、楽しく過ごすためには正解なんです」


「ホントだな…先を気にして進めないより進んだ先で考える方が楽しそうだ。気持ちが動くならば、また変えれば良いだけなんだよな…」


「えぇ…何度もお伝えしていると思いますが、私が導きます。早々に…ニュールの身も心も手に入れますので御覚悟下さい」


「相分かった…」


不敵な笑みを浮かべ、モモハルムアの挑戦を受け入れるニュール。

何だかんだと、納得して…其の場に立つ事になったのだ。


既に此の場所に、婚約式と言う流れを超えた…確定した未来へ続く…分岐の無い特別な道が敷かれているような気がした。

こうして荘厳な儀式執り行う雰囲気が高まっていくのだった。

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