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おまけ9 大賢者の報酬~受けとる前に必ず御確認を 10

「まったく…本当に何歳なんだ!?」


「見た目の年齢と…その手腕が示す歳、一体どちらが真の年齢なのでしょうか?」


周囲から、問い質す様な確認の言葉が度々送られる。

其処には、手放しの称賛…と感嘆の思いが込められていた。

未だ成年には数年必要な少女なのであるが、言動…立ち居振る舞い…考え方…全てがそこいらの成年した若人より余程大人である。

ニュールに其の能力誇示した様に…諸事全般把握した上で的確な指示を出し問題処理するモモハルムアは、雑務全般を取り仕切りる司令塔務める能力を持つ。


其れは正しく上に立つ者の姿であり、国王の伴侶としての役目を十分果たせる有能さであり評価に値する。

それぐらい、真剣にプラーデラに…心からニュールに…尽くす。

だからこそ…余計にニュールは不安になる。

過剰な努力がもたらす先に訪れる、望まぬ結末への危惧。

真摯に向き合い守りたいが為に、モモハルムアを此の場所から切り離すべく…何度でもニュールは説得する。


「お前はまだ成長段階なんだ。無茶すれば身体への負担になる様な年頃…である事を忘れるな」


モモハルムアが押し掛けるニュールの執務室で、何度となくモモハルムアに掛けらたニュールの言葉。


常にプラーデラでの存在意義を主張するモモハルムアは、能力活かせる機会を決して譲らない。

少しぐらいの無茶をしてでも、最善を尽くす。

力量以上の無謀な行動が…自身に不都合呼び込む可能性など、微塵も気にしない。


「私は十分に配偶者としての役割を果たせる能力を持ってます。…職務の補佐から身の回りの世話…何処までもお供致します」


背伸びしながら、恭しく言葉紡ぎだす。

だが…ニュールの視点はモモハルムアの安全第一であり、保護者的な思いが向けられる。


「出来る出来ないの問題ではなく、自身を含めた状況を客観的に把握する目を持つのが一人前…って事だ。自己管理出来ぬ者…自身を顧みぬ者に、他者を任せる事は出来ない」


モモハルムアの思いは宙に浮き、空回った力で予想外の方向へと爆走する。

真剣な目でニュールの視線を捕まえ、勇気振り絞るように…少し恥じらいながら…足元にすがる様にしがみつき…宣言する。


「…夜伽…とて可能です。子とて生せます、是非お試し下さい!」


「ぶぼっぉっふ…なっ!」


思わず口に含んでいた茶を吹き出すニュール。

果敢にニュールを攻め落とすべく、モモハルムアは色々と色な攻撃も仕掛けてく。

勿論ニュールの趣味嗜好は分析し完全に把握しているため、お子様がお呼びでない事も十分に理解している。

其れでも今後の布石とすべく、言葉で攻め込み…揺さぶりをかけるのだ。


「そんな申し出に乗って手を出しちまった日には、罪の意識で一生眠れなくなる! 5の年10の年先ならまだしも、流石に今は無理だ…その気にならないんだから手の出しようもない!!」


思わず心の声がそのまま口に出る。

そう言いながらも、モモハルムアに押し切られたり…雰囲気に流されたりしながら…しっかりと心ある大人の口付けを交わした仲。

今だって騙され…絆されれば、それ以上さえ危うい…かもしれない。


ニュールの言葉に若干傷つき憂いを秘めた目で見つめながらも、諦めることのない光を宿すモモハルムアの瞳。

其の鋭き眼光にに貫かれ、ニュールは…何だか動けない。

固まった状態でいるニュールに向かい、モモハルムアが静かに告げる。


「私は4の年後…と言ったはずですわ。1の年程前の事…ですから、あと3の年。でも此れはニュールの気持ちを考慮したからです」


ニュールを尊重する…崇高で純粋な気高きモモハルムア、薄紫の紫水晶魔石色の瞳の中に…情念…の様な深い思いが育まれている。

もう後少しでニュールを絡め取り、其の腕の中へと引き込めそうなぐらいに成長している。


「今…貴方を捕らえて実力行使…と言うのも有りだと思うのですが、私は貴方の御気持ちが…私を欲して止まない時まで待ちますわ」


結構過激で怖いことを言う。


「もっとも私の忍耐力が保てるうちだけです。ニュールが少しでも其の気になったのなら…どの様な事を引き起こしても良いのですよね…?」


断言し…問い掛け…次の行動を示唆するモモハルムアの表情は、思わずニュールの体の芯を熱く痺れさせるような…華やかで妖艶な美しい笑みが浮かぶ。

既に掌の上で転がされる状態…なのかもしれない。

魔物な心持つくせに、お堅い倫理観に縛られているニュール。

鉄壁の防御は少しずつ破壊され、4の年後…10の年後…と言わずとも…この執拗な攻めが功を奏す日は以外と近そうな気がした。



ふと…そんなプラーデラであったモモハルムアとの遣り取りが鮮明に頭に浮かび、アナジェンテとの対面中だと言うのに…思わず気も漫ろになるニュール。

少し俯き顔を手で覆い表情ごまかし、動揺を静めるため…目の前のアナジェンテを観察してみる。


『この理知的な薄紫の瞳と、冷静沈着に思考巡らす表情…自然と周囲の心掴み…相手を動かしてしまう所がそっくりだ…』


祖父と孫…似ている部分が多く、逆に気恥ずかしさが増す。

少し自身の頬に熱を感じ、余計に落ち着かない気分になるのだ。

心…此処に無いままに対応していると、思いもしなかった言葉を掛けられる。


「モモにはな…旦那にするなら、絶対に死にそうもない奴にしろ…とは言ってあるんだ。それ以外に条件は付けておらん…」


のっけから直接的に婚姻についての条件を語り始めるアナジェンテ。

どの様な意味合いで持ち出した内容なのか、ニュールは今ひとつ読み切れない。


「その点、君は強いし…年も取らんのじゃろ? 条件は十分に満たしとるな…」


品定め再開するように、ニュールを上から下まで眺める。


「ウチは女が強くてな…。一度決めたら絶対に曲げんし…欲しいものは必ず手に入れる…そう言う意思強気者が多いんだ」


少し自慢げに語るアナジェンテ。


「ワシが狙い定められた獲物になったのは…30の年だったが…やはり嫁は…モモの婆さんじゃが…モモと同じぐらいでな、モモよりも力業使う者なので…34の年には…フッ…逃げようもない状態になっとったよ」


甘い思い出を語ってるように聞こえるのに、遠い目をしながら…若干苦さ入り混じる悟りの表情浮かべるのは…抗いようのない力に屈したためか。


「ガキなんか相手にするのは無理!…と思っていたら、アッと言う間に良い女になっておったから…の…」


『それは趣味嗜好の問題…なんじゃないだろうか?』


ニュールの心の中に浮かぶ異論が、訝しさ湛える表情としてハッキリ見て取れる。


「まぁ…ワシは自分の選択に後悔はしとらんのだがな、君も…そう不満に思ってくれるな。全くその気が無いんなら精々気を付けるんじゃぞ。モモは母親似の楚々とした淑女に見えるが、婆さんに似て意思が…我が強いんじゃ」


目を細め、アナジェンテは過ぎし日を再び思い浮かべたようだ。


「其れにな、モモは婆さんとは違った意味の力業使う…策士…なんじゃ。あの美しい紫水晶魔石色した瞳でジッとみつめ、端麗な顔に麗しき表情浮かべお願いされたら、何でも叶えてやりたくなる。ワシも既に駒にされちゃってるようだから、君にも勝ち目は無いかもしれないがなっ…はっはっはっ」


あっけらかんと、孫自慢としか思えない言葉を並べ…豪快に笑い飛ばす。


「ワシの事は気にせんでも大丈夫だ!! 孫娘には超甘だから…何でも受け入れられるぞ! まぁ、もう1~2年待ってくれた方が嬉しいには嬉しいがれ…モモが待てぬかもしれんからな」


「何が大丈夫なんだ!」


ニュールの心の中の叫びが耳から直接届こうとも、アナジェンテは全く動じない。

其の上、他の家族の心情まで仄めかし…状況楽しむ。


「流石に父は心中穏やかならず…と言った所のようだが、認めざるを得ないんじゃないか? 勿論…モモの母や婆さんは、モモの絶対的な見方だ。モモが希望するのなら、プラーデラに定住する許可までだしそうじゃよ。まぁ、ワシは流石に寂しいんじゃが…何ならワシらも一緒に移住してもよいがな…あっはっはっはっ」


解釈次第では "今すぐ嫁として受け入れろ" 的、親族からの強要にも聞こえる言動。

しかも、 "おまけ付けましょうか?" と言った感じの祖父母同行計画もさり気無く入っている。

圧力が半端ない。

だがニュールは慌てた気分通り越し、抜け殻的気分で対応する。


『あっのぉー御孫さんの年齢を考慮するって考えはー有・り・ま・す・かー?』


ニュールの心の呟きが物凄く棒読みだ。


「勿論…ワシは祖父故に、直接の発言権は無いのだが…」


満足そうな笑みを湛え、最初に言葉を交わした時同様に顎髭を撫で断言する。


「モモの見る目は確かだと感じた。ワシは認めるぞ!」


「孫バカか?!」


思わず声に出して突っ込みを入れてしまうのだった。


モモハルムアの祖父アナジェンテとの対面。

てっきり… "近付くな、距離を置け! " と、牽制を受けると思っていたのに…予想外の逆対応。

ニュールの思考が追い付かない。


「 "孫バカ" …とは、言い得て妙だな…」


ニュールが思わず口にした言葉に納得を示す…だけでは収まらず、深く頷き…其の表現を気に入った様子のアナジェンテ。

始末に負えない。


「ジジイは孫バカと相場が決まってとるが、自分が陥ると何ともシックリくる。清々しいぐらいだ!」


1人悦に入るアナジェンテ。

ニュール的にはチョット引く気分強くなるが、お構いなしに感想を述べる。


「自身で剣を極め…究極の状態へ達した時同様の適合感。本来あるべき状態に到達した…とでも言うような…」


大分…方向性異なる内容に照らし合わせ、何らかの悟りに至ったかのようだ。

もはやニュールは、心の叫びを隠す気も無くなる。


「オレの周りに普通は存在しないのか!」


思ったままを口にしていた。

何処かに神が存在する…と言うのなら祈りたい気分になるニュール。

強烈にげんなりした気分を味わう事となり、食傷気味感極まる。


「…まぁ、そう言う事だ」


「そう言う事って何だ?! その言葉が何処に関連付けられているのか説明してくれ!」


ヴェステの黒の将軍並みの言葉端折りに、苛立ちを隠せず…ニュールは思わず語気強く問い返す。

其のニュールの姿を一層満足そうに眺めるアナジェンテ。


「ほうっ、モモが言うように人としての可愛らしさも持つとは…此れまた悪い男じゃな」


「はぁあ? 意味が分からん!」


此の太々しい爺さん…ただ投げ出すだけでは気が済まず、顔面に匙でもブチ当てたい気分になるニュール。

髭面の爺さんに揶揄われ、戸惑い以上に腹立ちが勝る。


見た目年齢でも30の年近く。

実年齢で考えれば50の年近く下のニュールが、アナジェンテに弄ばれ手玉に取られたとて致し方ない。

苛立ちつつも…此の癖のある爺の相手を放り投げる事も出来ず、今暫く続けなければならない…と諦める。


この面会…最初聞かされた "お時間取らせない" と言う言葉を信じた甘い自分を、心から呪いたくなるニュールなのであった。

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