表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

258/281

おまけ9 大賢者の報酬~受けとる前に必ず御確認を 8

ニュールに片付け…を言い渡されただけあり、2人の周囲は見るも無残な状態。


ドロドロした…3色の液体が飛び散り混ざり、気狂いに陥ったものが書き散らかした落書きの様に…散々な色合いで彩られている。

魔物を解体したって、こうはならないであろう。


何をしてるのか…どう対処するつもりか…は、先程問い掛けたニュール。

改めて "何をしてどうしたら此処まで酷い事になったんだ!!" と叫びたくなる程の状態であった。


だが…いつものお父さん的厳格な叱責…と言うより、若干諦めぎみの…お母さん的叱咤…と言う感じだった。

そして手伝わない…と断言した割に、率先して汚れた部屋を掃除するニュール。

相当に怒っているのか…不快なのか、最初に2人を問い質して以降…更に咎める訳でも無く口を結んでしまった。

暫しの間…一切の言葉に反応せず沈黙を貫く。


「ご…ごめんなさい」


謝罪の言葉にも一瞥するだけで応えぬニュール。

余計に顔色を伺いたくなる状況であり、ちらり…ちらりと…様子を確認しながら…フレイリアルは机や床を拭く。

リーシェライルは此の状況であるが、悪びれる事なく静観する。

もっとも…黙々と巧みに掃除をこなすリーシェライルの姿は、ニュールにも意外であり…思わず暫し其の姿を目で追ってしまった。


「ニュール、勝手にしてごめんなさい」


機会窺っていたフレイリアルは、言葉紡がぬニュールに耐えらず…再度声を掛けるが撃沈する。

だが諦めず挑戦する。

徐々に涙目になり、その分…フレイリアル第一主義のリーシェライルから怪しげで不穏な感じの魔力が漏れ出す。

それでも一切関知せず、手元の作業に集中するニュール。


「ちゃんと考えて行動する様にするからぁ…ごめんなさいぃぃ」


「………」


ニュールが口をつぐんだのは…口煩いニュールでも諦めざるを得ない、手出しのしようもない…目も当てられない…取り返しのつかない惨状だったからなのかもしれないし…違う理由があるもしれない。

だがフレイリアルは、再び反省の言葉告げた後…今度は引き下がらなかった。

半べそかきながらも、相手の都合など気にせず1人勝手な告解を行う。


「だって…リーシェが子供の頃…まだ家に居る頃の、とても記憶に残る懐かしーい体験だった…って聞いたんだもん…」


リーシェライルが塔に入る前、6の歳にも満たない年齢の頃の事…であろうか。


「近所のお姉さんや兄弟と…祭りの日内緒で試した…懐かしい思い出なんだって」


にへらっと笑顔で関係ない情報をぶち込むフレイリアル。

有耶無耶にする作戦なのか、何も考えてない言動なのか…リーシェライルの過去の体験を勝手に語り始める。


「だからもう一度…思い出を味わえたら嬉しいんじゃ…ないのかな…って」


師匠であり…保護者であり…様々な心寄せるモノであるリーシェライルを、思い労わる様に聞こえる…フレイリアルの言葉。

此処で止めとけば…ニュールの心動かし、静かな怒りを解く切っ掛けになったの…かもしれない。

だがフレイリアルである、上手く計算しているはずもない。


「でもね…刺激的で美味しくって珍しい味だけど、試したら大変な事になっちゃったんだって…」


得意げに語る。


「上のお兄ちゃんも一緒だったけど、途中から奪う様に入ってきたくせに上手く扱えなくて…爆発しちゃって…壁や床だけじゃなくって2の月ぐらい部屋が使えなかったらしいよ…ふふふっ」


面白そうに呑気に笑い語るフレイリアルは、余計な事を言ってる自覚は無い。

年長者に巻き込まれて祭りの味わいを体験した…らしいが、リーシェライルの子供時代が…随分と過激な味に挑戦する…昔から末恐ろしい餓鬼であったのだろう…と想像出来るようにはなった。


「でも事態の収拾は結局リーシェがして大人には隠し通したみたいだし、扱いさえ間違えなければ問題無いんだって」


たとえ其の当時子供であったとしても、リーシェライルならば…余裕で内密に処理可能なのかもしれない…と思えてしまう。


「危険で刺激的だけど…とっても美味しい…って聞いたら、私も気になって挑戦したくって…リーシェもスッゴク懐かしそうだったし…」


「それで試して此の状態になっちまったのか?」


「……」


やっとニュールから言葉引き出せたフレイリアルだったが、新たに出された問いに…今度は自身が押し黙る事になる。

そして、口を開いたニュールから再びの説教が始まる。


「それにしたって、相当酷い状態だぞ…予想は出来な…くなかったんだろ?」


「…でも…試してみたくって…気になったら買っちゃおうっててててっ…量が多いけど2人なら大丈夫だし…と…ごにょごにょ…」


ごにょり始めた。

上目遣いで再びニュールの表情探りながら、今度はリーシェライルを盾にし…背後に隠れ…幼子のような言い訳にならぬ言い訳を並べる。

そもそも…扱いを間違えなければ何とかなると言うのに、リーシェライルが何故扱いを間違えたのか…も気になる所だ。


其の申し開きを聞いていたリーシェライルが、隠れしがみ付くフレイリアルを優しい笑みで見遣り…ニュールへの弁明を引き継ぐ。

麗しき気品ある好青年ではあるが、手も顔も服も…未だドロドロである。


「"懐かしいなぁー" …って言ってしまった僕が悪いんだよ。フレイの興味を引いてしまったから…。丁度…外に出て直ぐのところの屋台で売ってたし、長い時を重ねる前の…思い出だったからね」


美麗な顔を申し訳なさそうに曇らせ申し開きをする。

だが…どんなに本人が麗しかろうが、幼児が遊びながら食べ散らかしたかのように汚いドロドロ状態。

説得力は半減している。


「あぁ、コツをつかめば上手く食べられるんだよ。あまりにも懐かしすぎて我慢できなくって…決まり事をチョット無視しちゃったんだ…」


申し訳なさそうに述べるリーシェライル。


「でも子供の頃によくこんな辛いの食べてたよね!」


「買ってもらったものを、兄弟で順番に食べてったんだ。まぁ…横から入り込む奴も居たけど…辛いところは基本兄達が食べてくれたんだ…多分」


まだ賢者でも大賢者も無かった頃のリーシェライルの記憶は、経過した年月相応の朧気な部分を持つ。

何とも…困ったような…悲しいような…憂い含む表情で、只の人であった…遥か遠い過去を語る。

其れでも…どんなに切ない表情浮かべようが、ドロドロが綺麗になる訳ではない。


「空気に触れると温まるんだけど、1ヶ所以上穴が空いたり覆いが破れたりすると…通気して必要以上に膨張するんだ。詳しい事を忘れてて、以前食べた様に1人ずつ順番に食べるのなら問題なかったと思うんだけど…ね」


大体の原因は判明した。


「記憶していた感じより大きかったから…時間も無い事だし…両端から2人でいっぺんに食べてしまったんだ。一気に温度が上がった時に、何か嫌な予感はしたんだけど…完全に思い出した時には…」


シラットした表情で黙ったまま聞くニュールに対し、リーシェライルも珍しく饒舌に語る。

若干フレイリアルの印象と被るのは、見た目が微妙な状態だからか…。


「こう言うものだって事はある程度覚えていたんだけど…分割出来ないから…両端から…ねっ?!」


今食べた屋台の一品を語るリーシェライルは、明るく気軽に世間話するかの様に…ニュールに同意を求める。


「ねっ?! じゃない」


思わず素のまま突っ込むニュールだが、抱いた情けなさと苛立ちは…収まらない。


「買い食いって、旅行の醍醐味…って聞いたこともあるし仕様がないよぉ」


それなのにフレイリアルはリーシェライルに加勢すべく言い訳を重ねる。

リーシェライルも追従する。


「砂蜥蜴の卵を使ってるんだよね…それに食用可能魔石も練りこんであるみたいだね、それで膨張させて温める仕組みみたいだよ。爆発するのがお楽しみ…って所とか、100の年以上の伝統を保ってるって凄いよね。色々と想像を裏切るような…菓子? …食事? で、刺激は強いんだけど美味しい事は美味しいんだ」


にっこりと魅了魔力含むような笑みで語るのだが、リーシェライルの残念感がドロドロと一緒で拭えない。


「ヴェステの赤辛味とアカンティラドの緑糖、それに大岩蛇(グロッタウ)の脂質を使った餡が入ってるんだ。中身の色味はだから3色なんだよ! 結構どぎつい色合いだよね…形も大岩蛇を模してるから太くて長いんだよ」


ウンチク語られ笑顔を向けられても…全く同意できる気分にならないニュール。


「周りがほんのり暖かでフワフワなのに、最初塩っぱくて…中身が甘いのから最後辛くなるのは予想外だった。一気に食べるんじゃなくって少しずつ食べたくなるような…」


「大きいから2人で食べて正解なんだけど…切ると出てきちゃうし、通気しないよう上手く切らないと爆発しちゃうからね…。両端から上手く食べようとしたけど、結局…少し爆ぜちゃったね」


「ふふふっ、ドロドロでデロデロでグチャグチャになっちゃったね!」


この惨事を引き起こしたのは、半液状の餡が入った…腕の太さと長さ程ある…綿菓子のような食感の皮を持つ餅のような柔らかな饅頭。

筒状で柔らかい上、中の餡が…空気に触れると熱を帯び膨張する。

温熱効果で長く食感保ちつつ…満腹感味わえる量を食せるのだが、本来は…皮や包みを残し…空気遮断しつつ1人長い匙ですくいながら食べるもの。

2人で両端から食べた上…奥まで一気に匙を入れた故に、激しく膨張し…今の状態を生み出したようだ。


ふと…ニュールは此処にたどり着く途中、入り口近くの屋台の煽り文句に違和感を覚えたのを思い出す。

其処で見た文言は、此の惨状が起きるべくして起きたものだと示していた。


"爆発する此の美味さに耐えられるものは居るか?! 挑戦する勇者求む!"

"天下泰平、大岩蛇(グロッタウ)饅頭!!"


一気に…涙出そうなウンザリ感が押し寄せるニュール。

チョット開き直り気味に交互に言い訳しながら語る2人にニュールが気力振り絞り…釘を指す。

本当は小刀ぐらい刺しておきたい所だ。


「分かっていて挑戦したのなら…もう文句は有りません。何にしても良い大人なんだから…自分の始末は自分でつけてください」


冷ややかに言い放つニュールの手伝いの手は止まり、2人は其処からズット片付け及び自身の衣服の選択までさせられた。


結局ニュールの監視下…ろくでもない状態を程よく片付け終わった時点で、自由な時の刻みは終わりを告げ…客車に乗る予定時刻になった。


旅の恥は掻き捨て…とばかりに懐かしくも珍しい屋台料理を堪能したモノ達。

そしてギリギリの時間まで土産探しに苦闘してきたモーイも、満足なものを選べたようだ。

3者3様に…駐留地点となった第1区トレスエンでの滞在時間を楽しんだようだが、1人仏頂面をするニュール。


「オレひとり面倒な後始末にばかり参加するって…どうなんだよ?! 一応、オレへの報酬込みの旅…って話じゃなかったのか?」


第3区トレストウェへ向かう客車の中、納得がいかないニュールはぼやく。


「ニュールの御褒美はこれからだよ!」


「とっておきの内容だと思うぞ!」


モーイまで2人の味方にまわる。

何か知っているようだ。


「ちゃんと考えて用意しているから、安心してもらえると嬉しいんだけどな」


いつもながらに…余裕ある表情で対応するリーシェライルは、一切悪びれた様子がない。

不満顔でぼやくニュールに対し、其々から取って付けた様な慰めの言葉が贈られる。

微妙に不自然で何処か含みのある3人の怪しい笑顔。


ニュールの経験と本能が導く "嫌な予感" を煽り立て、今すぐ帰りたくなる。

此の予感が決して気のせいでない事を知るのは、目的地に着いてから…なのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ