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おまけ9 大賢者の報酬~受けとる前に必ず御確認を 5

転移陣3つ程の…こじんまり整えられた、商業組合で管理する小綺麗な転移施設。


転移陣の行き先の組み換え担当する賢者の人員も少なく…2つの陣は定期的に決められた目的地に切り替えていく半固定発着の専用陣である。

そして1つだけ、希望する目的地を選べる…自由選択用の発着陣として用意されていた。


「ちゃんと朝、陣だけの…到着用の利用申請書を送ったんだよ! ホントだよ!」


其れがフレイリアルの言い分…であった。


転移陣の予約。

半固定発着陣の通常利用予約は、5の日程前の予約で何とかなる…時もある。

だが自由選択発着陣は…1の月前、其の頃に予約しても難しい。


所が…自身で賢者を用意し陣を活用する場合、比較的発着共に予約がしやすい。

元々…転移の合間を狙い、自分のお抱え賢者で飛ぶ者達も居るので…陣のみの利用申請も可能でなのだ。

特に到着用の終点として…陣のみの利用申請なら、当日予約も受け付ける。


「申請書はトレスに出すやつも一緒だから…って聞いたよ」


「あぁ、確かに皆同じだ」


必死に自身の潔白を訴えるフレイリアル。


転移陣を動かすには、起点8:終点2の割合で…手間と時が掛ると言われていた。

主に転移先の設定に時間と魔力を要するため、起点では大量の魔石扱う能力が必要となり…能力の優劣で要する時が変化する。

逆に終点は…組み上げられ繋げられた魔力を受けるだけなので、サクサク処理出来るのだ。

今回のフレイリアル達も、他の転移発着の間隙狙う…到着用終点としての利用申請をした…はずであった。


「ちゃんと申請したんなら、書類提出して手続き完了しろ。更に怪しまれるぞ」


ニュールが促すのに、何故かフレイリアルは全く動かない。


頭の中で鳴っている…と思っていた、ニュールの耳に響く警鐘。

実際に場内に鳴り響く現実の音であり、不正利用などの事件が発生した時の警告。

どう考えても、今現れたニュール達に対するものと思われる。

不審者扱いされている状況にやきもきするニュールは、フレイリアルを急かす。


「受け取ってる申請受領証明証、とっとと提出しちまえって…」


手続きを終わらせるよう指示するニュールに対し、フレイリアルから返る答えは…耳を疑うものだった。


「何それ? そんなの無いよ?」


「はあぁあ?!? お前なぁ…通常…陣の使用許可が出たら、即返信が来て…使用時に提出する書類を受けとるはずだぞ?! プラーデラの商業組合の管理下の陣を見に行った時は、そう言う仕組みだった。本当に申請したのか?」


「しつこいなぁ、申請はしたってば! でも、そんなの知らないよ!!」


何度も確認され、少しムッとしているフレイリアル。

言葉に苛立ちが表れ、ちょっと反抗的で失礼な感じになる。


「其れに…プラーデラと比べてたって、国が違うんだしぃ~クスッ。そもそもぉ、何~で見に行ったのぉかぁなぁ~? ニュールの鳥形の魔物人形の目を使えばぁ、何処にだって転移出来るから転移陣なんて関係ないんじゃない??」


ニュールが詰まらない間違えをしたかの様に、フレイリアルはクスクス笑いながら答える。

しかも転移陣を見学しに行った理由に対して…何らかの含みある言葉と言い方に、珍しくニュールも向かっ腹が立つ。


見学しに行ったのは、ニュールが出迎えたいと思う者が来訪したため…。

其の話を…来訪した者より直接聞いていたのか…伝え聞いたのか、フレイリアルが揶揄う用に話を持ち出したのだ。

腹立たしい気持ちを…大きく息吸い整える事で抑え、ニュールは平常心取り戻す。


『制度理解さえ覚束ない餓鬼に対し、苛立っても仕方がない…』


更に心の中で呟き、自身を諌める。

商業組合とは…国を超えて活動する商会が加入する管理組織であり、組織下にある全ての転移陣が…共通の制度で管理されている。

つまりエリミアであろうがプラーデラであろうが、申請方法等は共通なのだ。

ニュールの言った事が正しかった。


ニュールへの揶揄いは不発に終わったフレイリアルだが、責められた気分からの…自分勝手な憤りは解消したようで落ち着く。

そして再度…此処の陣について考えてみたらしい。


「でも変だよねぇ。自分の所の陣使って…自分で繋げるって言うのに、何で申請が必要なのかなぁ…って思ってたんだ。まぁ繋がったんだし、問題なかったって事で良いんじゃない?」


呑気な憶測を平然と口にし、気楽に判断するフレイリアル。

ニュールは頭が痛くなる現状に、思わず俯き…額を押さえる。

超難問… "フレイリアルへの正しい説明" と "自分達の状況確認" をせねばならぬ事に頭を抱えたくなった。

更に…申請が通って無い場合の対処方法も考えるべきであり、ニュールの悩みの種が尽きる事はなかった。



転移を行うときは…起点と終点両方を繋ぐための賢者が必要になる。

その為…申請書と共に、転移時に陣を扱う賢者の立ち合いが必要なのだ。


通常の転移陣の運用には…出発する陣である起点に、少なくとも2名以上の賢者が必要であり…到着地側・終点にも1名は必ず必要であった。

下位の賢者ならば、更に倍の人数を要するだろう。

だから…陣だけの利用申請書には、起点・終点の陣に張り付く賢者名を記入する欄があった。


「なぁ、本当に何も返信は無かったのか?」


「無いよ」


ニュールの問いに、至極簡潔な言葉がフレイリアルから軽く返る。


「ちなみに申請した方法は?」


「王宮にある申請書を、第3都の商業組合に書類用の転移陣で送ったよ」


申請方法としては間違ってはなさそうだった。

だがフレイリアルが送った事前申請書類には、必須の記入事項である…終点に立ち会う賢者名が空欄のまま提出されていた。


大賢者もしくは余程の高位の賢者ならば、起点からのみの陣操作で転移可能だ。

だが…其の段階まで能力を上げた賢者は少なく、王都の転移陣でさえ御目にかかる事のない陣扱い。

知る人ぞ知るが…殆どの者が知らぬ事実であり、今回申請書を処理した者も…勿論知らなかったようだ。

逆にフレイリアルも…知らない人が居ることを知らぬ状態であり、必要としない…終点側の賢者欄には何も記入しなかったのである。

行き違い、双方の認識不足…だった。


「此の書類不備の問い合わせは?」


「賢者の塔行きの便に乗せとけ」


「急ぎでは?」


「言付かってる訳でもないから大丈夫だろ? 大賢者とは言え、所詮…あの姫さ」


「確かに…」


エリミア王宮内での遣り取り。

フレイリアルが大賢者の能力を得ても、王国内に蔓延る…未だ変わらぬ偏狭に歪む醜い思いを払拭する事は…相当に難しそうだ。

不備書類に分類され問い合わせられたが、フレイリアルは気付く事なく出発する。


だが受け入れる側は申し込み取り消しの処理をしてしまった為、不正転移扱いをされる事になり…現状がある。

まさか不備のある書類のまま…しかも通常なら終点側に現れるべき賢者も現れず、其れなのに転移してくるとは思わなかっただろう。


「申し訳ありませんが、説明頂きたく…1名…御同行願います。他の方は其の場で待機願います」


言葉丁寧だが…物々しい雰囲気の警備兵が武器をチラつかせ、当然の様にニュールの前へと…慇懃無礼な強い態度で立つ。


「…何故オレ?」


思わず思ったままの疑問が口から漏れ出るニュール。

皆一様に質素なお忍び用装束着用し、同じように隠蔽魔力も其々身に纏う。


だが綺羅綺羅しい…明らかに高貴な身分と分かる物腰美しき青年と、何も分からなそうな年若い女子2名。

警備兵達の瞬時の判断は、3人を糾弾する対象から除外する。

現れた怪しい面々の中で、ニュールは冴えないオヤジ以外の何者にも見えなかったのであろう。

与しやすい格下感漂わせる小者認定され、兵達の矛先がニュールへ…高圧的な態度となって向かったのは致し方ないことか…。


此の国を訪れた他国のモノだと言うのに…しかも隠しているとはいえ一国の国王である…と言うのに、身代わり申し出るような…気が利く殊勝な者は存在しなかった。

まぁ、ニュールも分かっているので気にしない。


『あぁ…何か、ド定番な此の状況って…ある意味何か懐かしいぞ…』


フレイリアルに初めて会った頃…巨大魔石を預けられ、有無を言わさず…王都砦の入口でしょっ引かれた事を思い出す。


最近…走馬灯のように記憶巡る事が多いのは、破滅的運命か何かが待ち受けているのか…。

もっともニュールは…此の世界の管理者権限持つ存在であり、棺桶では無く…世界の外側に片足突っ込むモノ。

肉体を消滅させない限り永遠に存在するであろう、自らの衰亡望んでも…容易に終末迎えられぬ存在。

今までも何度となく理不尽な状況に陥るが、少しもめげずに…呑気な回想しながらニュールは全ての状況受け入れる。


「それじゃあニュール。説明は頼むね…」


状況静観していたリーシェライルが、まるで下僕に指示出すかの様に…有無を言わさぬ柔らかな笑み浮かべニュールに願う。


「適当に待ってる」


「宜しく~」


お気楽仲間の呑気な対応。

そして仲間達から…にこやかに手を振り見送られ、ニュールは連行される。


「まーったく…手間がかかる上に…薄情な奴らだ…」


あっさり送り出さてしまった…と言うのに、ニュールは微笑みを浮かべ…口にする悪態も何だか優しい。

それは…此の見送りが、全幅の信頼感に由来すると知っているから…。


連れていかれるニュールを心配するモノは一人も存在しない。

だが其れは見捨てたからではなく、ニュールの強さと…余裕で対処できる賢しさ…を仲間達が信じているから。

仲間との思いは繋がる。



今…世界で主に使われている転移陣は、今回終点として利用した陣同様…1つの陣を転移先組み替えて使う型のものである。

転移先を都度変更調整し、転移できるようになったのは此の1~2の年。


其れまでは…莫大な金額を要する蒼玉魔石を費やし、固定発着転移陣を1ヶ所ずつに築く必要があった。

財力無き国や地域での転移陣の所持は不可能であり、陣による各地への移動など…有り得ない状況。

王都にさえ、人を転移させる陣を持てぬエリミア。

どの都市でも…転移陣などと言う存在は、縁遠いものであった。


「まずは出国地と、名前と、出発陣と、目的地をお聞かせください」


連行された小部屋での…畳み掛ける様な質問。

勿論…小部屋は懐かしいと感じる、石造り窓無し仕様…。

格子は入ってない代わりに、厳重な結界が築かれている。


ニュールもにとっては簡単に対処できるものであるが、問い質されているだけであり…従順に従う。

たとえ其の答えで相手が動揺するとしても、其れは相手側の問題…だから。



ヴェステ王立魔石研究所の成果による、魔物魔石使用による転移陣の組み換え理論が発表され…普及するまでに要する期間は短かい。

望まれていた技術は、瞬く間に広がる。


エリミアの王城に転移陣が設置される頃、規模は小さいが第三都にも陣が設置された。

大概は…旧方式の固定発着転移陣を描き変え利用したので、各国とも普及は早い。

転移陣存在しなかったエリミアでは、一つの都市として早々に転移陣導入した第3都市トレスは先進的であった。

現在は今は各区ごとにまで導入され…活用されているが、エリミア辺境王国内において…王城の転移陣以外での国外への発着は禁止事項。

許可無き他国との接触および折衝は、未だ禁忌とされている。


「ニュールだ。ちゃんと国内から飛んでるよ。起点は青の塔18層、目的地は3区公邸…。魔力の痕跡を隠蔽してないから辿れるはずだし、公邸にも滞在予定入れてあるらしいから確認出来るはずだぞ」


一気に質問に答えるニュールだが、答えを聞いてしまった審問官が青ざめる。


「しょ…少々席を外さ…せて頂きます」


ガタリッと椅子を倒しそうになりながら足早に退室していく。

1人取り残されたニュール。

此処に来るまでに目にした外の景色を思い浮かべ、何だか小腹の空きを感じる。


『見かけた屋台飯…買ってくか…』


審問中だと言うのに、緊張感の欠片もない。

何だかんだ言っても、ニュールも立派にお気楽呑気仲間の一員…なのだった。

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